編集は誰でもできる。名ディレクター・後藤繁雄さんに編集されてみた

著者名横山由希路
編集は誰でもできる。名ディレクター・後藤繁雄さんに編集されてみた

坂本龍一、篠山紀信、蜷川実花など、日本を代表するアーティストの書籍や展覧会のディレクションを手がける後藤繁雄さん。

一方で、1997年より”編集する人”を育てる「スーパースクール」を長年開講しながら、下北沢B&Bの内沼晋太郎氏、料理ユニット「南風食堂」の三原寛子氏など、さまざまな分野の編集人を世に送り出してきました。

編集の仕組みを考え出す「わたしの編集」と、目の前にいる「あなたの編集」について、後藤さんに話を伺いました。


後藤繁雄

1954年、大阪府生まれ。編集者・クリエイティブディレクター。京都造形芸術大学教授。

「独特編集」をモットーに、写真集、アートブックを数多く制作。坂本龍一、荒木経惟、篠山紀信、蜷川実花などの本を手がける。『エスクァイア日本版』『high fashion』『花椿』などの雑誌では、1000人以上にインタビューをしたことも。自身が主宰する現代写真ギャラリーのG/Pgalleryは、優れた若手アーティストを世界に輩出し、国際的評価も高い。またプロデュースに携わった大型美術館展「篠山紀信展 写真力」は、2012年以来の入場者数が100万人に迫り、台湾での開催も予定されている。2018年、専門分野であるコンテンポラリーアートについてまとめた著作『アート戦略』『現代写真論』が発売される。


つまらない「わたし」を編集してみたら

--後藤さんはさまざまなところで、既に誰かが編集したであろうスマホなどの情報端末に出てくる情報に踊らされて、現代人は世界を知った気になってしまうことを危惧する発言をされています。私もスマホを見れば見るほど、自分がつまらない人間になってしまいそうで怖くなります。つまらない人間にならないために、後藤さんは情報と人とどのように出会われていますか?

まず初めに、情報がつまらないのか、自分がつまらないのか。そこを皆さん、悩むわけですよね。

でも、世の中につまらない情報なんてものはないわけ。自分が食べたくない料理をたくさん出されてもおいしいとは思えないのと一緒で、自分にとって不必要なものが世の中にはたくさんある。自分主体で情報を選んでいないから、Facebookとかでどうでもいい投稿が一斉に流れてくるとイヤになってしまう。

時代が変わっても、情報は結局のところ言葉とビジュアルの組み合わせに過ぎません。情報端末やアプリにそもそも思想はないのだから、自分なりの料理の食べ方をするように、意図的にメディアを使えるようになればいい。だからつまらないとすれば、自分の問題なんですよね(笑)。

--では、情報を見る「わたし」を面白くするにはどうしたらいいですか?

自分を面白く編集する方法は2つあります。

まず1つ目は「どんな人にもそれぞれ才能がある」ということを肯定することです。才能とは、言ってしまえば”向き不向き”。だから、「自分には才能がない」と言っている人がいたら、「それは間違っているよ」と優しく教えてあげる人が、僕は必要だと思うんですよね。

2つ目は、世の中を編集者と編集されるものの関係で見ていくこと。昔は編集といえば、編集者だけのものと思われていたけど、今はアーティストでも経営者でも皆、編集をしています。「情報をどう組み合わせれば、どういう効果が得られるか」という編集のキモを考える時代です。

編集とは、引きで撮っていた花のトリミングを変えたらカッコよく見えるように、「普段ぼうっと見えているものを、もっと良く見えるようにする」こと。でも魅力的に見せるには、コツがある。だから僕はその方法を教えているんですよね。

「わたし」の面白さを広げていくには

-個人の才能には、どうやって気づくのですか?

まず目の前の人が、何が好きなのかを知ること。好きなものというのは、その人の輪郭を形づくっているものなのだけど、実はこのゾーンが結構狭かったりするんです。

 

--確かにこだわり屋さんほど、「好き」のゾーンが狭いです。

才能があるのに、自分のことをつまらないと思っている人は、自らを形づくるフォーメーションの真ん中に自分の「好き」があるのだけど、そこにこだわってばかりいるから、自分の輪郭そのものが広がらないわけ。自分で自分に退屈するということは、「俺、人として気が利いてない」ってことだから(笑)。

僕はYouTubeで音楽を聞くのが好きなんですよ。アレは曲の古い新しいに関係なく、自分の知らない曲をどんどんオススメされるでしょう? そこがいいよね。紹介されると、知らないミュージシャンを検索して、また深掘りして聞いてしまう。

だからまず、知らないものを知る習慣をつけることが、いわゆる編集力をつけるということにつながるんじゃないかな。ひいてはそれが、自分の才能の輪郭を広げることにもなるのだから。あとは、その人がなりたい自分になるために、困っているポイントがあったらそれを聞き出して、そっと教えてあげる人も必要ですよね。

後藤さんがフリー2年目のライターを編集してみた

ここからは、後藤さんに初めて会ったインタビュアーでライターの私、横山由希路を編集していただきます。後藤さんの「スーパースクール」で採用している自己紹介シートを書いてきましたので、それを見ながら後藤さんに質問してもらい、対話をする形で進めていきます。ライターとしてこの先、どんな道筋をたどるべきか。もやっとしている私の考えに、少しでも光が見えたら嬉しいです。

後藤さん

横山さんのお父さん、お母さんは元気なんですか?

横山

父は亡くなって、母は今、76歳です。でも認知症になったので、私は母を看るために実家に戻ってきました。

そもそも週刊の編集を16年もやっていて、マンツーマン介護が無理だったので、親戚の叔父叔母と5人でリレー介護して母を1年で施設に入れて。その経験があって、今、介護の記事も書いています。

後藤さん

自分1人じゃ介護は無理と悟ったのね。良かった、良かった。自分中心で世界が回っているじゃない? 

これがもう少し人生の達人になってくると、他人の幸せが自分の幸せというフェーズになるんだよね。横山さん、結婚する気はないの?

横山

結婚はしないですね。ウチの婆ちゃんがそうだったのですが、亡くなった時に仲良くしていた彼氏や男友だちがお墓にワーッときたんですよ。アレが死ぬ時の理想図です。

後藤さん

でも、突然彼氏ができて結婚するかもしれないよ? 多趣味で絶対結婚しなさそうな、友だちの女性編集者が50歳過ぎて突然結婚したのね。今、ラブラブやで。

一緒に生活すると、2人で「どこに行きたい。何を食べたい」と、他人が好きなものを真に受けるからね。夫婦は互いが互いの娯楽でいられることが一番だから。普通は娯楽を家庭の外に求めるけど、2人でキャッキャ言い合っているのが、一番面白いわけよ。

横山

ああ、結婚したい(笑)。そういう話を聞くと。

後藤さん

だろう(笑)? だから結婚を前提に考える必要はないのだけど、人生の中で、2人で編集し合うフェーズになるかもしれないってことを、頭の片隅に入れておくといいかもね。そのためには、横山さんが幸運でいることが大事。

編集の結果、後藤さんがライター横山の進むべき道を照らす

後藤さん

横山さんの困っていることは、「日々の仕事に追われて、社会的なルポライティングの勉強や調査が進まない」ってことなんですね。たとえば、どういうものですか?

横山

一番初めに母を入れた特別養護老人ホームが、実は悪徳施設で。でも悪徳施設って、そこら中にあるんですよ。なので、告発記事ではないけれどもその実態を描くルポライティングがしたいなと。

後藤さん

ルポライティングする時の、真実ってなんだと思う? 真実は固定された1つのものだろうか。

横山

見方によって変わるのが真実ですね。

後藤さん

だろう? じゃあ、それを横山さんはどう解決する?

横山

それが難しいんですよ。どの視点に立って書くかも含めて。

後藤さん

難しいでしょう? 真実に関する面白い話があって。「スーパースクール」で新興宗教に入っている生徒がいて、「ウチの教祖に会ってくれ」と言うから、会いに行ったの。

教祖の人を俺はさんざん「素晴らしいですね」と褒めてから、「でも惜しいですね。この画像だと、教祖様のパワーがパソコンで修正したみたいに見えてしまいます。僕が本物の写真家や優れたクリエイティブチームを作りますから、ブラジルで撮影しましょう。最低2億かかりますけど」と全力でプレゼンしたの。

横山

あはは、すごい(笑)。それで、どうなりました?

後藤さん

ほかにも商品開発のプレゼンとかも、いっぱいしたのだけど。1週間ぐらい経ってから、「やっぱりちょっと、お断りします」と電話がかかってきて(笑)。

横山

後藤さんは教団の中に入り込んで、怖くなかったんですか?

後藤さん

怖いと思うと、相手にやられるよ? だから自分がいつも幸運でいないと。その人たちの中に入るのなら、相手が考えていることよりも何歩も先のことを言わないとダメなの。安全な場所にいて、真実を掴むことはできない。怖いものに触れないと、オイシイものは書けない。自分の身よりも世界を取ることができるのか。

だから、横山さんは怖いものを触りに行っても、やけどをしないで帰ってこられるテクニックを身に着けるといいんだよね。

 

初めて会ってインタビューをしたばかりなのに、ライター・横山の物書きとしての態度、今後進むべき道を照らしてくれた後藤繁雄さん。

「後藤繁雄 進化する編集」のサロンでは、後藤さんが私のように生徒さんを編集して、お困りポイントを解決したり、読むべき本を勧めたり。また、生徒同士で自らの編集方法を共有しあったりしています。

自分の得意分野、才能を信じているけれど、どう進んでいけばよいかわからない人は、サロンを覗いてみると、その種が蒔かれているかもしれません。

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