生きた宇宙がそこにある!実力者たちの「水草レイアウト」座談会

著者名笹沼 杏佳

水槽内に、水草や流木、石などを配置して、自分だけの世界を創りだすことのできる”水草レイアウト”。その美しさや、創りこむ楽しさに魅了される人が多く、毎年世界的なコンテストも開催されています。

そんな水草レイアウトの世界を日本から盛り上げているのが、『TOKYO AQUASCAPE UNION』(以降、TAU)です。TAUは、水草レイアウトというひとつの共通の趣味を持つ人たちが、互いに切磋琢磨する場。その創立メンバーは、『世界水草レイアウトコンテスト』でも上位入賞経験が豊富な実力者たちです。

そこで今回は、TAU創立時から中心メンバーとして活動されている、深田さん、小野さん、志藤さんを招いて座談会を開催。3人の出会いやTAUの活動、そして水草レイアウトの魅力についてじっくりと語っていただきました!


深田 崇敬

1969年生まれ。IAPLC(世界水草レイアウトコンテスト)で2年連続グランプリを獲得(2015-2016)。長年の経験はもとより、持ち前のアートセンスでは群を抜く秀逸アクアリスト。複数の海外レイアウトコンテストの審査員として声がかかる。

小野 昌志

1962年生まれ。過去のIAPLCでの成績は準グランプリ(二位/金賞)を三度受賞。その他、国内トップクラスのプレートホルダー。TAU創立メンバーのひとり。常に魚ありきの水草レイアウトを仕立て上げ、多くの愛好家たちを魅了する。

志藤 範行

1970年生まれ。過去のIAPLCでの最高順位は9位。An aquarium.を経営(現在東京都文京区)するかたわら、TAUの発足を手がけた裏支え役。「日本経済新聞」「サライ」「オレンジページ」他の新聞・雑誌や、「マツコの知らない世界」などのテレビ番組でも水草レイアウトとアクアリウムの趣味の世界の魅力を広く紹介。


水草レイアウトとの出会い

─まずは、水草レイアウトに出会ったきっかけや当時のエピソードをそれぞれお聞かせください!

小野昌志(以下、小野):僕が水草レイアウトに出会ったのは、もう28年ほど前ですね。きっかけは、『月刊アクアライフ』という雑誌でした。もともと魚が好きで、何か飼ってみようかなと考えていたタイミングだったこともあり、なんとなくぱらぱらっとめくってみたんです。

すると、水草レイアウトの先駆者である天野尚さんのすばらしい作品が掲載されていて。その美しさにものすごく感動して、アクアリウムの世界に一気に惹きこまれましたね。

▲小野昌志さん

深田崇敬(以下、深田):僕の場合は、15年近く前かな。その頃はデザイナーの仕事をメインでやっていたんです。クリエイティブな業界って、とにかく昼夜関係なく仕事をします。毎日忙しくパソコンに向かっていると、癒やしを求めて自然を感じたりしたくなるじゃないですか。

そこで、身近に何か生きものがいたらなあと考えて、最初はメダカを飼ったんです。このとき、とりあえず体裁を繕うようなかたちで、適当に水草を差してみました。でも、1週間もしないうちに枯れてしまって。それで新しい水草を買っても、またすぐに枯れてしまう。どうしてうまくいかないのかな……と考えた結果、違う種類の水草にすれば枯れないかもしれないと思い立って、少し大きなアクアリウムショップに行ってみました。すると、そこに水草レイアウトの写真集が置いてあったんです。

小野:それも、天野尚さんの写真集だったんだよね。

深田:そう。何の気なしに開いてみたら、もうとんでもなかった。僕のなかでは、水草って枯れるものなんだという先入観みたいなものが生まれてしまっていたので、それがすごくきれいに、生き生きとしていることがまず信じられませんでした。水槽のなかに、ひとつの世界ができているんですよ。とても神秘的で、これはもうやるしかない、と。

それからすぐに「どうやったらこんなふうにできるの?」と、お店の人に声をかけて、だんだん本格的にのめりこむようになりましたね。

志藤範行(以下、志藤):僕は物心ついたときから生きものが好きなんですよ。それで、今ではこうやって熱帯魚屋にまでなっています(笑)。水草レイアウトとの出会いは……1985、86年くらいだから、もう30年以上前か。

その頃、水草を日本にもたらした山崎美津夫先生と山田洋さんの本を見て、「水草の本があるのか!」と、まず驚いたのを覚えています。本には山田さんのアクアリウム作品も載っていて、見たことのない水槽の姿に感動しました。それまでは、水草といえば金魚鉢になんとなく一緒に入っているものという発想しかなかったから。

深田:今、志藤さんから名前が挙がった山崎先生と山田さんは、我々が毎年参加している『世界水草レイアウトコンテスト』の審査員をされている方です。そして、コンテストの主催者は、僕と小野さんが水草レイアウトに出会うきっかけになってくれた、天野尚さんなんです。今名前が出たお三方は、いわば水草レイアウト界のレジェンドですね。

▲2015年の世界水草レイアウトコンテストでグランプリを獲得した深田さんの作品。(画像提供:AQUA DESIGN AMANO

ピンポイントの共通点が人と人をつなぐ

─それぞれが水草レイアウトの世界に惹きこまれてから、お三方はどのように出会われたのでしょうか?

深田:志藤さんがやっていたお店に、お客さんとして通うようになったのがきっかけだったよね。

▲深田崇敬さん

志藤:そうだね。当時はここ(座談会の会場となった『An aquarium.』)じゃなくて、銀座松坂屋の屋上でやっていたんです。

小野:その頃から世界の珍しい水草を扱っていて、水草分野では日本最先端だったんですよ。

深田:お店へ通ううちに顔を合わせる機会が増えて、「またお会いしましたね〜」みたいな感じで、だんだん話すようになっていったんです。やっぱり、いろいろ調べるうちに同じところへ行き着くんでしょうね。「銀座松坂屋の屋上に、こんな最先端のお店があるらしいぞ」と。

当時は仕事の関係で日比谷に行くことが多かったから、銀座にも出やすくて、もう毎日のように通っていました。

小野:僕は『月刊アクアライフ』でお店の存在を知りました。そのときは兵庫県に住んでいたので、出張で東京に出たタイミングで必ず寄っていましたね。出張のたびにお店に顔を出すっていうのを何年間か続けていたら、ちょうど東京への転勤が決まったんです。

深田:小野さんの東京転勤が、僕たちのつながりがより深まる大きなきっかけになりましたね。

志藤:ずっと「小野さん東京においでよ」って言っていたら、現実になりました(笑)。そもそも、アクアリウムっていう広いジャンルのなかで、水草レイアウトというピンポイントな分野でつながれたというのも大きかったですね。そのおかげで自然と打ち解けられたんだと思います。

日本の水草レイアウトを盛り上げたい

─TAUの活動はどのように始まったのですか?

深田:当時、世界水草レイアウトコンテストでは、日本人がなかなか入賞できない、いわゆる不毛の時代でした。そこで、「こんなことではいかん」と、志藤さんと小野さんが一念発起してくれた結果始まったのが、TAUの活動です。発足したのは確か2008年だったかな。

志藤:水草好きが集まって、互いに刺激しあって、ときには批評もして……みんなで高め合いながら、コンテストを目指そうということで発足しました。

▲志藤範行さん

深田:このとき、小野さんと志藤さんと、もう一人、以前のコンテストでグランプリをとられた奥田さんという方の3人が先生をやってくださっていて、僕は生徒として教わる立場でした。居酒屋で飲みながらくじ引きをして、どの先生につくか決めて(笑)。

ちなみに僕は小野チームでした。

小野:最初のメンバーは全部で7、8人でしたね。

志藤:初めは、お店のお客さんで楽しそうにしてくれている人たちに少しずつ声をかけてメンバーを集めていたんですよね。本当にやりたいと思ってくれる人に集まってほしいから、あえて消極的に。発足の翌年、2009年からはみんなでコンテストへ出品するようになりました。

深田:個々を尊重したゆるい集まりだから、これまでメンバーも結構入れ替わったりしているけれど、不思議と僕は続けられてますね。

志藤:深田さんには、次から次へと僕らが目標を与えちゃっていたから(笑)。「次は何位ね」とか言うと、彼はそれを叶えるんですよ。「二年連続で1位ね」って言ったのも、本当に叶えちゃった。

深田:でも、2009年に初めて出品したとき、僕は144位だったんですよね。100位以下だと日本の国内審査で終わってしまうから、世界の審査員に作品を見てもらえないんです。だから、100位以内を目指していたんだけど……。その翌年も、結局107位。それでも一応表彰式には顔を出して、小野さんたちが壇上で光を浴びているのを目の当たりにするんです。そして、「いつか自分もあんなところに立ってみたい」って、強烈に掻き立てられました。

だから、逆に最初からうまくいっていたわけじゃないからこそ、続いたのかもしれないですね。あと、TAUでいろいろ教わりながら作品づくりをしていつも思うのが、身近に意見をくれる人がいるって、すごくありがたいことだなって。

志藤:アクアリウムって、目の前の世界に没頭しながら作品をつくるから、本来ものすごく内向きな趣味なんですよね。でも、よりよい世界をつくるには、外からの意見もあったほうがいいんです。TAUでは、褒めちゃだめというのをひとつの決まりにしています。

深田:いくら小野先生の作品だとしても、「恐れ多くも申し上げますと……わたくしとしては、若干ここが気になるかもしれないです……」っていう感じでやんわりと伝えたりして(笑)。

小野:最初の頃はそうだったよね(笑)。

志藤:今はもうガンガンお互いに言っちゃうんですけどね。「小野さん、石! もっとこっち!」とか(笑)。

作品づくりへのこだわりと、モチベーション

─それぞれ、作品づくりの際に大切にされていることはありますか?

深田:僕は、”侘び寂び”を意識しています。作品のどこかに、ちょっと寂しげな情感を盛り込むというか。侘び寂びって、物悲しさも含んでいるじゃないですか。

だから、作品と向き合うときには、”心の闇”みたいな部分もある種の武器になると思っています。僕はレイアウトを決めるときは、基本的に景観のイメージから入るんだけど、小野さんは魚から入るんですよね。

小野:そうですね。もともと僕は、魚が好きでアクアリウムに興味を持った人間なので、僕のレイアウトは、魚の見せ方を重視する水槽です。一番最初に、どの魚を泳がせるか決めるんですよ。それで、どうやったらこいつをきれいに見せられるかな……と試行錯誤していく。だから、深田さんと僕ではアプローチがぜんぜん違うんですよね。

志藤さんは、どちらかというと業界側の人だからこそ、業界の育成に目が向いている部分があるよね。

志藤:何か新しいことをできないかっていうことを常に考えちゃうので、誰もやったことのないレイアウトをつくりたいなというのはありますね。これは誰も思いつかんだろう、みたいな。あとは、もちろん自分でもよりよい作品をつくりたいけれど、TAUそのものをみんなが集まる場所として育てたいということをよく考えています。そういう楽しみが、今は結構大きいかもしれない。

お店をやっているからこそ僕が入り口になって、初心者の人たちとのコミュニケーションを広げたり。小野さんや深田さんのように、教えてくれる側の人との架け橋になってみたり。TAUを世界一のチームにしたいというのが、ひとつのモチベーションになっているかもしれません。

自然の姿が想像を超えてくる

─では、最後に……ずばり、水草レイアウトの魅力って何だと思いますか?

志藤:水草は生きものなので、成長して姿が変化します。それで、自分がイメージしたものを超えてくることがあるんです。植物って言葉もしゃべれないし、表情もないけれど、光合成して酸素を出して喜びを表現してくれる。酸素を出す姿を肉眼で見られるのも、水槽の中だからこそですよね。

こうやって、知れば知るほど、いろいろなところで楽しさを感じるようになります。あとは、だんだん自分の頭のなかと水槽が連動するようになってくるのも面白いポイントですね。思い通りにいくっていうのとはちょっと違うけれど、予想通りにいかないことも含めて、相手の変化に柔軟に対応していく感じです。

深田:水槽のなかって、常にコンディションが変化するから決して一定じゃないですもんね。どんな方向に変化するのかっていうのを、志藤さんはみずからの力量で微調整することができるから。

志藤:ただ、強引にコンディションを動かすのではなく、あくまでも自然の変化によりそって、補助の手を入れるだけなんですよね。少しずつ木槌で叩きながら、形を整える感じです。相手は生きものだし、規模は小さいながらも、自然というひとつの宇宙があるわけだから。

小野:生きた宇宙がそこにあるんだよね。僕としては、魚も水草も、石も木も、組み合わせが無限大だからこそ、飽きないっていうのはとにかく魅力だと思います。良い意味で終わりが見えない。過程を楽しむのが趣味だと思っているから、完成させることだけが目的じゃなくて、作品をつくる過程で試行錯誤していく感覚が楽しいんです。小さな達成感が散りばめられていて、なおかつ完成したときの達成感は一入ですね。

深田:僕は、ずっとグラフィックデザインの仕事をメインでやってきて実感したのは、パソコンを使った表現はある意味ですごく有限だということです。

デザイナーとして仕事をしていると、みんな似たようなものを使うようになるので、なかなか「自分にしかできないデザイン」をするのって難しいんですよ。あくまでも「デザイナー」であって、「アーティスト」とは違うわけで。そんな葛藤もあったなかで、水草レイアウトは僕に新しい表現を与えてくれましたね。自分だけの世界を、ひとつのアートとしてつくりだすことができるんです。

小野:自由な表現ができて、さらに自分の想像を超えたものになるっていうのはなかなかないですよね。

深田:デジタルでは絶対にできないですよね。デジタルは、自分が入力した以上のことはないから。それと、作品ができて一番いい状態の瞬間を写真に収めた瞬間は、もうたまらないですよね。誰かに見せたくてしょうがなくなっちゃう(笑)。

志藤:普段は一人で黙々とのめりこむ趣味だけど、頑張ってつくりこんだものは人に自慢したくなる。それが、コンテストへの出場だったり、TAUみたいな場っていう形で広がっていけばいいですね。いろんな人に、「はやくこっちにおいで〜」って言いたい(笑)。これからの時代だからこそ、超アナログがいいんですよ。


志藤さんにお伺いしたところ、水草レイアウトは簡単なもので約2万円から始めることができるそう。水草を買って、照明を買って…と、お金がかかりそうなイメージがありますが、意外とハードルは低いようです。少しでも興味を持たれた方は、志藤さんのお店「An aquarium.」に足を運んでみてはいかがでしょうか?

また、TAUが主宰するオンラインサロン『TOKYO AQUASCAPE』は、初心者からコンテストを目指す人まで、「水草レイアウト好き」の仲間が集まるサロンです。ワークショップの開催や、「レイアウト講評室」でのアドバイス受付など、作品制作のスキルアップにつながるコンテンツが盛りだくさんです。水草レイアウトを始めてみたい方、コンテストで上位を狙ってみたい方は、参加してみてはいかがでしょうか!

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