性の考察は人生をデザインすること。坂爪真吾と考える「性の公共」

著者名横山由希路

東京大学卒業後、自力での射精行為が困難な男性身体障害者に向けた「射精介助」のサービスを行う一般社団法人ホワイトハンズを設立、性を社会で語る素地を作ってきた坂爪真吾さん。性に対してオープンな方かと思いきや、出身地新潟での高校時代は「東大合格」だけを人生唯一の目標にし、友情や恋愛はもちろん、性行為とも無縁の日々を送ってきたと言います。

一般社団法人ホワイトハンズは今年10周年を迎えました。また2017年には『セックスと超高齢社会』をはじめ、自身が執筆した書籍が5冊も発売になるなど、執筆活動も精力的に行っているという坂爪さん。さらに性に関する書き手の仲間を作るため、坂爪さんはDMMオンラインサロンで『新しい「性の公共」をつくるゼミ』を運営。このオンラインサロンの目標は、受講者が1年かけて新書を1冊書くことです。

なぜライバルともなり得る書き手の仲間を増やしたいのか。オンラインサロン内で定期的に開催されているというゼミにも参加させていただき、お話を伺いました。

大切な問題である性は、なぜ社会で「生ゴミ扱い」なのか

-昨年末に発売された『孤独とセックス』を楽しく拝読しました。坂爪さんは高校時代、「東大合格」だけを心の拠りどころをするも現役合格できず、友達との思い出も性体験も合格も得られなかったことから、「恋愛や性行為は無意味だ」と思い込もうとしていたと書かれています。それなのに、どうして性の問題に取り組むようになったのでしょうか。

思想をはじめとして、性は人間の様々な部分に大きな影響を与えます。その一方で、他の三大欲求に比べて、社会的なケアや支援がほぼなかったり、教育も手薄だったり、プロの語り手が少ないなど、多くの問題を抱えています。

よく、性欲は「処理」という言い方をしますよね。でも食欲や睡眠欲に「処理」とはまず言わない。人間にとって大事なことである割に、性が社会的に「生ゴミ扱い」になっていることにずっと疑問を持っていました。もともと高校時代から、将来は起業をしようと思っていたので、いろんな意味でフロンティア感のある性の世界に対して、何かしらソーシャルアクションをしたら面白いのではと思ったのがきっかけです。

-大学卒業後にホワイトハンズを設立したのは、東大で上野千鶴子さんのゼミに入ったことがきっかけですか。

上野さんの書籍は、ゼミに入る前にすべて読んでいました。でもそれよりも前の高校時代、宮台真司さんにどハマりしまして、宮台さんが東大の社会学出身という理由で、志望も同じにしたほどでした。

私が東大に入った時は、宮台さんは東京都立大学(現・首都大学東京)で教えていらしたので、都立大のゼミに潜って聴講していました。そうしているうちに、東大でもゼミを選ぶ段階になったので、学内でも一番厳しいことで有名で本も読んでいる上野千鶴子ゼミ一択しかないと思い、志望者抽選の末、何とか上野ゼミに入ることができたんです。

 

-上野千鶴子さんと宮台真司さんでは主張が全く違うので、両方の教えを受けていると混乱しませんか?

そうですね。お二人とも根っこは物事の前提を疑って分析する社会学なのですが、主張は正反対なところがあります。たとえば、みんなの信じる神様が世の中にいる場合、上野さんは「そんな神様はガラクタにすぎない」と、バッサリ斬っちゃうタイプです。既存の価値観や制度、この例で言うなら神様の存在に対して、苦しさを感じている人にとっては楽になれる考え方ですよね。

一方、宮台さんは「神様はガラクタであることを前提に、どうすればみんなが拝めるような神様を作れるだろうか」という議論をします。

こんな感じで、根底は一緒でもアプローチがまったく違うお二人の意見を聞き比べるのは、すごく面白かったですね。

 

-ホワイトハンズは、社会の枠組みを疑いながら、実際の社会ではどうしていけば良いのかを実践しています。ある種、上野ゼミと宮台ゼミのいいとこ取りとも言えますね。

そうですね。枠組みを疑うことと、より良い仕組みを作ることの両輪をすごく意識しています。たとえば、「風俗で働く人は貧困で困っているよね」という問題提議だけで終わりにせず、何らかのサービスや研修、制度を作るという動きはとても大事だと思います。

海外に比べて遅れている?日本の性議論の実態

-海外と日本を比較した時、社会的な性への取り組みについて差を感じますか?

BBCやCNNなど、海外メディアからの取材をよく受けますが、障がいのある人の性に関する取り組みについて日本と海外の時差を感じることはあまりないですね。研究者の方に伺っても、海外で目を見張る試みがあるわけでもありません。少なくともホワイトハンズで行っている「射精介助」を他の国で実践していると言う話も聞かないです。

諸外国の中でも、社会的な性への取り組みが進んでいる国はおそらくオランダだと思うのですが、ここは非常に特殊な国で、女性売春もすべて合法化して、女性が一定の地域で安全に働けるための環境づくりに国が関与しています。危険なものを排除せず国の管理下に置いて、危険性を低減させるという考え方です。ホワイトハンズも風俗で働くリスクを減らす活動をしているので、日本では国が管理することはできないと思いますが、その考え方には賛成ですね。

 

-日本はアダルトビデオがあふれていますが、どうして生産性のある性の議論ができないのでしょうか。

自分の価値観や体験をベースに語るからですよね。実は教育の問題も同じで、それぞれの人が自分の経験を基に独自の教育論を持っているので、議論が錯綜してしまうのです。

生産性のある議論にならない理由の1つは、個人的な好き嫌いを脇に置いて、社会という土俵で議論すること自体ができないから。2つめは、日本で性を社会的に語る訓練の場が、そもそも存在しないからですね。あと、議論に発展しても「二元論」「感情論」に陥ってしまうのも問題です。

 

-「性の二元論」についてわかりやすく教えてください。

たとえば風俗の事例だったら、「風俗で働く女性は全員被害者」「女性を買う男性は全員加害者」というようなわかりやすい構図に落とし込んで、問題を理解した気になってしまうことです。

でも現実はものすごく複雑なんですよ。その込み入った問題を理解するコストや精神的な負担を考えると、「簡単な図式に落とし込んで、頭スッキリ!」となるのもわからなくもないのですが、その状態を放っておくと、問題が解決しないまま世の中が良くない方向に向かってしまいます。多くの人が複雑な社会に耐えられるタフネスさを身につけるべきではないかと思います。

性の領域は不透明且つ複雑でとてもわかりづらい世界なので、どうしても二元論で語られがちなのですが、「二元論に陥らずに、もう少し分析していこうよ!」というのが私のスタンスです。

 

-ちなみに「感情論」についても教えてください。

Twitterでよくバズる投稿が、「男性嫌悪」です。逆に「女性嫌悪」もあるのですが、人間を男と女に分けて、「男はクソだ! 女はクソだ!」という意見がダーッと広まっていく。これは感情論ですよね。自分の体験をすべて一般化して「男って全員こうだよね!」という論理になってしまう。

 

-「主語が大きすぎる問題」まで出てきてしまいました。

そうなんですよ、「主語が大きすぎ!」みたいな(笑)。義憤は正義と怒りを足して2で割ったものですが、義憤は中毒性があるので、そこにハマってしまうと誰かを叩き続けないと気が済まなくなる。特にこの問題は、「性」の界隈ではよりひどくなる傾向にあります。そのあたりに闇を感じますね。

もっと身近に性の問題を考えるには

-坂爪さんは、性の問題をきちんと考えることが人に何をもたらすと思いますか。

よく性教育に携わる方が、「性を考えることは自分の人生をデザインすることにつながる」とおっしゃるのを聞きます。この言葉の通り、思春期、恋愛、性行為、結婚、出産、育児、更年期も含め、性は自分の人生にずっとついて回る問題です。そこをどう捉え、どう対応するかが、自分のライフデザインにつながっていくのだと思います。だから、性について何も考えないというのは、なんだかちょっと怖い気がします。

 

-もっと身近に性の問題を考えるにはどうしたらいいでしょう。

今、子どもが性に関して知識を得る情報源は、ネットか友達、またはその両方です。親とか学校とか地域とかは、情報源の中に入っていないんです。

ならば、YouTubeでチャンネルを作り、友達の間やネットでバズるような社会性かつ娯楽性の高い教材=「ソーシャルAV」を作れば、子どもたちが見てくれる可能性がありますよね。小中学校で行われている性教育のように、性の話を面と向かってするよりも、ずっと生産性があるような気がします。

アダルトビデオが日本人男性の性の意識をこれほどまでに変えたわけですから、おそらく子どもにも同じことができると思うんです。だから私は、アダルトビデオのカウンターになりうるような「ソーシャルAV」をいつか作ってみたいですね。

 

-アダルトビデオは性のショーですが、実際の性行為で真似をしてしまう男性もいますよね。

ポルノに対するリテラシーが培えるワクチン的なものもあるといいですね。「アダルトビデオを観てもいいけれど、あれはショーなのだから、ちゃんとわかった上で観ようぜ!」という。

実際ホワイトハンズにも、「障害のある中高生の男の子が、ひたすらアダルトビデオを観てしまって困る」という相談が、よく寄せられます。たとえば知的障害があっても内容を理解できて、かつ教育的にも効果のある動画を作って流すことも考えていきたいですね。

 

-坂爪さんは昨年5冊も本を出されていますが、一般的な人に向けての書籍での展開はいかがですか。

たとえば「風俗」の問題を正面から語ると、一般の人はアレルギー反応を起こしてしまいますが、そこに「貧困」や「福祉」といった文脈が入ると、スッと頭に入ってくるんですね。

ですから、性という問題は、性+●●=××といった方程式のような形でないと、なかなか受け入れられない。性の問題を単独で扱えるほど、今の日本にはセクシュアル・リテラシーはないのかなと思っています。

昨年私が新書を5冊も書いたということは、単純に他に書き手がいないからです。私と同世代、且つ似たような界隈でクオリティの高い書籍を連続して出せる人は、鈴木涼美さん、荻上チキさんなど一部の人たちだけなので、正直仲間が欲しいです(笑)。

書き手が増えれば、もっとマーケットも広がりますし。私より上の世代も下の世代でも、性に関しては無限にテーマがあると思うので、それを書いてもらいたいです。本を一冊書ききることが『新しい「性の公共」をつくるゼミ』の基本コンセプトなので、テーマが決まっている人や執筆力のある人は、どんどん書いてほしいですね。

『新しい「性の公共」をつくるゼミ』のホワイトボードの板書。ゼミ生から出てきたキーワードを坂爪さんが書き留め、問題提起の材料にする

[編集後記]

インタビューの前に、僭越ながら私もゼミ課題を仕上げて、『新しい「性の公共」をつくるゼミ』にお邪魔しました。上のホワイトボードには、私が指摘したキーワードも盛り込んでいただき、恐縮至極です。

ゼミ生の意見を否定することもなく、ご自身の見解も入れることなく、ありのまま笑顔で聞き続ける坂爪さん。性の問題を相対化して、主宰のホワイトハンズの活動や著作を重ねられるのは、ご自身の思い込みや穿った見方を一切排除して、つぶさに対象者に向き合う姿があってこそなのだと、痛感させられた一日でした。

坂爪さんがおっしゃる通り、「性」には無限のテーマがあります。坂爪さんが掲げる、社会的な性課題解決への取り組みに少しでも興味を持った方、また身近で性に関する問題を抱えている方は、『新しい「性の公共」をつくるゼミ』に参加してみてはいかがでしょうか。

坂爪真吾 - 新しい「性の公共」をつくるゼミ - 坂爪真吾 - DMM オンラインサロン
坂爪真吾 - 新しい「性の公共」をつくるゼミ - 坂爪真吾 - DMM オンラインサロンサロン概要新しい「性の公共」とは、個人的な問題として考えられがちな性(セクシュアリティ)の問題を社会的な視点で捉えなおし、公の場での議論や実践を通して、みんなの知恵や工夫を合わせて問題を解決していく仕組みをつくろう、という考え方です。少子高
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