フリーアナウンサー:田中大貴が語る「松坂世代と高校野球」

著者名横山由希路

2018年4月30日付けで、14年間在籍したフジテレビを退社し、フリーアナウンサーとしての道を歩みだした田中大貴さん。フリーとなった動機の一つに、プロ野球選手の声をよりダイレクトに伝えていきたいという思いがありました。

1980年生まれの田中さんは、プロ野球選手を多く輩出した「松坂世代」。自身もプロ野球選手を夢見て慶應義塾大学に進学したものの、同級生であり、現在も球界を牽引している、ある投手との対戦がきっかけとなり、プロ行きを断念したのだと言います。

熱狂の渦中にいた田中さんが見た「松坂世代」とは一体どんなものだったのでしょうか。今夏、第100回大会を迎える夏の高校野球の楽しみ方なども交えつつ、お話を伺いました。

 


田中大貴

1980年生まれ、兵庫県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒、2003年にアナウンサーとしてフジテレビに入社。2018年4月30日まで、『とくダネ』『すぽると』『HERO’S』、スポーツ中継などで活躍した。野球は小学4年から始め、地元・小野高校では3年夏に主将となり東兵庫大会で8強となる。慶大時代、4年春に3本塁打で本塁打王を獲得した。



松坂大輔

1980年生まれ、東京都江東区出身。現・中日ドラゴンズの投手。先発登板日には松坂を一目見ようと、ドラゴンズファンのみならず、多くの野球ファンが球場を訪れる。横浜高校時代、3年春・夏の甲子園連覇で”平成の怪物”と呼ばれた。99年の西武ライオンズにドラフト1位入団後、ストレートが来るとわかっていても打てない速球派投手として、ルーキーイヤーから3年連続最多勝。99年に新人賞、2001年に沢村賞に輝く。07年にボストン・レッドソックス、13年にニューヨーク・メッツに移籍。MLBでは8シーズンで56勝した。15年より福岡ソフトバンクホークスに入団するも、右肩痛や股関節痛などにより3年間で1試合の登板に終わった。今春、テスト入団した中日ドラゴンズでは、変則的ながらも先発ローテーション入りし、既に3勝している。


「松坂世代」の熱狂は、今年引退のアノ人と同じ?

-松坂大輔投手が春夏甲子園連覇を成し遂げてから、20年が経ちました。一口に「松坂世代」と言っても、ピンと来ない世代の方もいるかもしれません。松坂投手を頂点とした世代の熱狂の中にいた田中さんに、「松坂世代」とは何だったのか、わかりやすく紐解いていただきたいです。

同世代ですごい選手がいたら、普通の高校球児はライバル視をするので、「潰してやろう」、「絶対勝ってやろう」と思うものです。でも、当時の松坂大輔はトップオブトップ、実力が突き抜けすぎていたので、嫉妬深い男子がライバル視を通り越して、憧れてしまうんですよ。

松坂が履くスパイクを僕らが買う。松坂が使うブランドのグローブを僕らが買う。僕も真似して買いましたが、僕だけじゃない。もう野球部全員が松坂大輔の真似をしていました。松坂の練習方法が雑誌に載ればとりあえず同じことをし、中には投げ方すら真似する子もいました。

 

-すごい、もうアイドルのようですね……。今年40歳になる女性が同世代の安室奈美恵さんの真似をして、「安室ちゃんが頑張るなら、私も頑張る」と思って、一緒に人生を駆け抜けたような感覚ですね。

本当に安室奈美恵さんの同世代と同じような感覚だと思います。松坂大輔という人は、同世代である自分の現在地を推し量る「ものさし」「道しるべ」なんですよね。彼がここに来て、中日ドラゴンズで復活できるということは、自分も頑張れるかもしれないと。政界や経済界、芸能界の方まで「松坂世代です」と言われることが多いので、球界だけに留まらず、彼は同世代のほとんどの人の人生における比較対象になっているのではないかと思います。

-もし、自分と同じ世代に松坂大輔投手がいなかったら、高校卒業後の人生はどうなっていたと思いますか?

松坂大輔がいなかったらですか……(笑)? 考えたこともなかったですね……。何しろ、彼がいなかったら人生の「ものさし」がなくなることになるので。

もはや彼は、同世代の分身のような存在なんです。自分が叶えられなかった夢を叶えてくれて、憧れてきた世界に今も身を置き続けている。だから、松坂大輔をはじめ、僕と同世代に生まれて、今でも現役を続ける選手たちに対しては、「お願いだから、まだ選手をやめないでください」と、祈るような気持ちで見ていますね。そして、同世代は皆、歳を取れば取るほど、彼や「松坂世代」という世代感を好きになってきているように思います。

男の嫉妬すら吹き飛ぶ男・松坂大輔

-フジテレビ時代から取材を通じて、松坂大輔投手と交流があると思いますが、松坂投手は率直にどんな人ですか?

僕が公の場で彼に取材をしたのはフジテレビへの入社から4年目で、ボストン・レッドソックスへの移籍会見でのことでした。そこからのお付き合いになりますが、「自分をよく見せたい」「人からより良く評価してもらいたい」というエゴのない人です。

本当に等身大で生きる人ですよ。松坂大輔と書いて、「思いやり」と読むのではないか、というぐらい優しさと器の大きさを感じますね。

 

-松坂大輔と書いて「思いやり」ですか(笑)。 もっと詳しく聞かせてください。

これはソフトバンク時代の話ですが、彼は自分が不調で三軍にいて投げられない状態だったにもかかわらず、業者さんにこっそり頼んで二軍施設の冷蔵庫いっぱいに栄養ドリンクを入れておき、それを若い選手たちに飲んでもらっていたんです。

このエピソードからもわかるように、彼には損得勘定というものが一切ありません。みんなが喜ぶことをしてあげたい、みんなにもっと元気になってもらいたい。そのために自分は何をしてあげられるだろうかと、常に考えている人なんですよ。これは、なかなかできることではないと思いますね。他にも、彼は歳を経るにつれ、より周りを立てられる人になったと思います。

 

-松坂投手が周りを立てられるようになったと感じたのは、どういうところからですか。

私が大谷翔平選手について彼に聞いた時、彼は「僕は大谷翔平を見た時に、自分は怪物なんかじゃないと思いました。契約社会であるメジャーリーグにおいて、二刀流なんてできるはずがないと思っているところを大谷翔平は可能にした。彼ほどの実力は、僕にはないですね」と語りました。

全盛期の彼であれば、決してそんな風には答えなかった。でも今は違うんです。きっと彼は、甲子園で優勝してからの20年間、苦しい思いをたくさんして、その結果今の境地にたどり着いたのだと思います。

 

-では、今の松坂投手の分析をお願いいたします。野球ファンの中には、球速150キロ超えの、彼の投球フォームの残像が目に焼き付いている人も多いと思います。現在の球速は130キロ台後半。軟投派、または技巧派のイメージで、戸惑いを覚えるファンも少なくないのでは。

このことは本人に聞いたことがあるんですが、彼は「150キロ台は投げられる。でも今、150キロ以上の球を投げることが、勝ちにつながるストロングポイントにはなり得ない。130キロ台後半の球速で上手くボールを変化させて打ち取っていくのが、今、自分が勝てる最高の戦い方なんだ」と答えてくれました。

だから、松坂大輔の投手としての能力が落ちているわけではないと思います。周囲は「試合でストレートの球速が出なくなったからピッチャーとしての能力が落ちている」と捉えるかもしれませんが、30代後半の投手が6月の段階で既に3勝しているわけですから。今年彼が選択した戦い方は正しいのではないでしょうか。

トップが突き抜けると周りも引き上げられる。松坂以外の「松坂世代」

-松坂投手は、自分の名前のついた「松坂世代」と言われることについて、どう思っているのでしょうか。

松坂大輔の甲子園伝説はもう20年前のことなので、「もう『松坂世代』と呼ばないでください。あれは死語です」と言ったって構わないと思います。でも、彼は相当な責任感のもと「松坂世代」という言葉を引き受けて、今でも野球人生を歩んでいます。

そんな松坂大輔という強烈なシンボルが常に上へ上へと進んでいくので、同じ世代の下の人間が自然と引き上げられていきました。レベルが軒並み高いのが僕らの世代で、同じ世代からプロ野球選手が90人以上も誕生した理由は、きっと松坂大輔がいたからだと思います。

 

-では、松坂投手以外の同世代で、現在もプロ現役の選手について伺います。福岡ソフトバンクホークスの和田毅投手は、早稲田大学時代に田中さんと六大学野球のリーグで対戦していますね。

和田毅のボールはからきし打てなかったですね(笑)。彼のボールだけは、唯一打てるイメージが沸かなかったんですよ。あまりに打てなかったものですから、もう悔しすぎて、バットを投げつけてやろうかと思ったこともあります(笑)。でも、彼のボールを打てない状態でプロになったとしても活躍できないじゃないですか。結果として、僕がプロの道へ進むのを技術面で断念させてくれたのが、彼だったんです。

和田も松坂大輔のようなストレートが投げたくて、努力した世代の1人でした。球速が120キロ後半だったのが、大学時代にずっと走り込みを続けたことで、一気に145キロまで出るようになった。それもこれも、松坂大輔という世代のシンボルがいたからですよね。

今、彼は一軍から離脱してノースロー調整中ですが、6月末から徐々に投げ始めて、7月にブルペンできちんと投げられれば、おそらく夏場には一軍に戻って来られるのではないかと思います。

 

-では活躍中の阪神・藤川球児投手はいかがですか。7月4日現在、今シーズン既に24試合登板していて、防御率1.73。現在は勝ち試合でも負け試合でも投げていますし、クローザーでなく、セットアッパーを務めています。2番手の時もあれば、5番手で投げることもあります。

藤川球児はもっと世間にフィーチャーされていいと思います。クローザーを務めた人ですから、本当ならばもっと試合の後ろで投げてもいいと思いますが、自分の役割に徹している藤川球児は素晴らしいと思います。

今年は松坂大輔がずっと一軍で投げ続ける可能性が高いので、松坂vs球児の対戦が楽しみですね。ジャイアンツの杉内が一軍に上がってくれば、松坂vs杉内も観られるかもしれない。ポストシーズンに行けば、松坂vs和田の対戦も観られるかもしれない。

松坂本人も「今年は、20年前に戦った1988年の甲子園を思い出させてくれるような要素が揃ったのではないか」と話していました。あの夏、甲子園で戦ったことを証明するための20年目と捉えて、今年は「松坂世代イヤー」になると個人的に感じています。

高校野球は皆、自分の人生を投影して観るから面白い

-最後に、記念すべき第100回大会を迎える全国高校野球選手権大会について伺います。横浜高校時代の松坂投手のように、春夏連覇のかかる大阪桐蔭の根尾昴選手は、投手・打者・遊撃手として「三刀流」も噂されています。未来の西武・秋山翔吾選手との呼び声高い同じく大阪桐蔭の藤原恭大選手も注目です。どなたか注目されている選手はいらっしゃいますか?

高校野球は、観る側が注目選手を予め決めて観るよりも、結果的に注目された選手を観る方が、絶対に面白いんですよ。なぜなら、否応なしに世間の注目が集まる第100回記念大会で、自分の中のリミッターを感じないままプレーをする彼らのパフォーマンスは試合ごとに上がっていくからです。

以前、斎藤佑樹投手に「甲子園の大舞台で、なぜ2日連続再試合でも、あのパフォーマンスができたのか?」と、聞いたことがあります。彼は「高校生だったから」と答えていました。高校生の筋肉、高校生の身体、高校生の考え方、高校生の生活習慣だったから、大舞台でリミッターがパーンと外れて、超トップパフォーマンスが2日連続で出せた。

だから、大阪桐蔭の根尾くんも藤原くんもすごいのですが、今大会も自分の限界を超えたプレーをする選手が必ず出てくるので、そこに注目してほしいですね。

 

-田中大貴さんは、高校生のチームのどこに注目して見ていますか? 投手ですか? 野手ですか?

いや、僕はポジションではなく、「公立高校」に注目して見ます。

 

-「公立高校」に注目ですか? 理由を詳しく教えてください。

僕が兵庫の公立高校の出身だからなのかもしれませんが、地元の小中学校から上がってきた子達だけで構成された野球部が甲子園に出ることに、一番ロマンを感じるんです。

公立高校の野球部は、極めて限られたグラウンドの敷地と時間の中で練習し、これまた極めて限られた部費と人数で運営していまして(笑)。強豪校にはない小さな小さな可能性を手繰り寄せて、時間効率や勉強との両立などを一生懸命に工夫しながら、戦っています。そういうバックグラウンドを想像しながら見ると、趣がありますよ。

でも、いろいろな見方ができるのが甲子園です。例えば、PL学園などの強豪校出身の人たちは、「ベスト8は全部強豪校だけ来てくれよ。強豪校だけでトップオブトップを決めたい」と思うそうです。観る人それぞれが、自分の生きてきた環境を基にして観る。だから甲子園は面白いんですよね。

フジテレビ時代の仕事を通じて、今でも交流や取材が続いているという松坂大輔投手から連絡があると「嬉しい!」と、まるで好きな女の子の話をするかのように語る田中大貴さん。同世代の怪物・松坂大輔とはどんな投手なのか。高校3年生の時、松坂投手を見るために、わざわざ春の甲子園に足を運んだと言います。

突き抜けた世代のスターがいると、周りは一体どう変わっていくのか。20年経っても色あせない当時の甲子園の思い出を織り交ぜながら、松坂世代特有の熱狂がほんの少し垣間見られた気がしました。

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