美食家 浜崎龍さんと考えた、飲食業界と料理人の未来

著者名サトートモロー

近年、外食産業はこれまでにないほどの盛り上がりを見せています。2015年度には、外食市場規模推計(レストラン、給食、機内食など、すべての外食産業を含む)が、25兆円を突破(※)。その後、現在に至るまで外食市場規模は右肩上がりの成長を続けてきました。しかし、その裏に見え隠れしているのは、「料理人が稼げていない」という現状です。(※一般社団法人 日本フードサービス協会|データから見る外食産業)

市場は成長しているのに、そこで活躍する料理人はなぜ稼げていないのか。この閉塞的な状況を打破する方法はあるのか。全国の美食家が集うオンラインサロン「TERIYAKI美食倶楽部」を運営する浜崎龍さんに、そんな疑問をぶつけてみました。

2019年の外食産業は「下火傾向」?

ー浜崎さん、ここ最近も全国の名店を渡り歩いていますね。

6月、7月は関西方面での活動が中心だったので、東京よりも大阪・京都で過ごす時間の方が長かったかもしれません。スケジュールも過密だったので、ファスティングを挟んで、一度ゆっくりしようかと考えています(笑)。

 

ーでは、食べ歩きは一休みということで(笑)。今回は趣向を変えて、「なぜ日本の料理人は稼げないのか」というテーマで、お話を伺いたいと思います。

そうですね。そのことについて話す前に、外食産業の最近のトレンドに、軽く触れておこうと思います。今日は8月6日ですが、2019年度に入ってすでに結構な時間が経ちましたよね。でも、未だに「ヒットしているお店」が出ていないなというのが、率直な感想です。

2018年度までは、高価格帯のハイエンドな飲食店ってかなり盛り上がっていたんですよ。それこそオープン直後からヒットを飛ばして、予約が取れなくなるお店がたくさんありました。

例えば、広尾の『長谷川 稔(はせがわみのる)』や、新宿区荒木町にある『南方中華料理 南三(みなみ)』なんかが代表的ですね。これらのお店は、2019年になった今でも数年先まで予約が埋まっているなんて事態になっているほどです。


長谷川稔

2018年でも特に大きな話題を呼んだ天才シェフ、長谷川稔氏の名を冠するレストラン。和洋中の伝統・文化にとらわれないアーティスティックなジャンル「イノベーティブ・フュージョン」は独創性あふれ、すでに2021年3月まで予約で埋まっている。

 

南方中華料理 南三

2018年5月にオープンし、またたく間に新規予約が難しいほどの人気店へ。日本ではなかなかお目にかかれない、独特な味わいの食材・スパイスと、日本人の味覚に合う絶妙なバランスで仕上げられた料理。オーナーシェフ・水岡孝和氏のセンスを存分に堪能できる。


 

ー去年オープンしたばかりなのに、どちらもものすごい人気ですね。

この2店舗はどちらも、席数がかなり絞られているんですね(長谷川稔は4席、南三は17席)。2018年度は、こうした非常にこだわりのあるお店の予約が、半年以上先まで埋まってしまうという状況がずっと続いていました。

僕個人の肌感覚ではありますが、Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSが盛り上がっていくにつれて、お店への情報にもアクセスしやすくなったことが、このような爆発的人気の背景にあると思います。これだけ希少性のあるお店に行ったなら、誰しもSNSにアップしたくなるじゃないですか。承認欲求を満たすツールとしても、こうした店はうってつけの存在だったわけですね。

ーそれだけ盛り上がっていた熱が、2019年度に入って下火になっているということでしょうか。

下火とまでは言いませんが、注目すべきお店があまり出てきていないなと。もちろん流行っているお店もあるけれど、これまでのようなインパクトを感じないんです。ハイエンドな飲食店が、いよいよ飽和状態に入ったとも言えるかもしれません。

例えば、1食2万円〜3万円かかる食事を毎日続けている、美食のキーパーソンって、国内にせいぜい数千人しかいないでしょう。そして、彼らは知人・家族・友人を招いて、こうしたお店で会食をすることもあるでしょうから、キーパーソン1人につき、つながりがある人々が10人程いるとします。

そうやって計算していくと、高価格帯の飲食店というのは、国内では数万人程度の利用者によって成り立っていることになりますよね。当然、彼らは日々新しいお店を開拓するだけでなく、いきつけのお店もあるでしょうから、新しくオープンしたお店まで回りきれないという状態が発生します。この、飽和状態が2019年度に起きているのかなと。

そして、こうした美食巡りを習慣にしている人の中には、ある種「スタンプラリー」的な楽しみ方をしている人も多いと思います。

 

ー「毎年映画を〇〇本観ています!」というのが自慢の人と同じ感覚でしょうか。

そうですね。もちろん、こうした行為が外食の文化を支えている一面もありますから、それ自体が悪いことではないんです。でも、スタンプラリー的に楽しんでいると、結局「数で勝負」な世界に陥りがちで、何年もそれを続ける体力・気力・財力がもたないんじゃないかと思います。

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日本最高峰の料理人でも、年収数千万しか稼げない

ー業界自体の息切れが背景にあるから、料理人さんは稼げていないんでしょうか?

必ずしもそうとは言えません。料理人さんって結構「職人気質」な面があるので、そもそも「稼ごう」と思っていない人も多いんです。

料理人を志す方の大半は、「お金を稼ごう」という動機でスタートしていなくて、「料理を作るのが好き」、「人に料理を食べてもらうのが好き」という気持ちから料理学校に通い、たまたま名店に弟子入りして修行して、自分の店を持って、というパターンが多い気がします。だから、今活躍しているシェフの中には、経営学的な勉強をしている人があまりにも少ない。

しかし、ビジネス的な要素を取り入れているお店は、ちゃんと成功を収めています。たとえば、『sio』の鳥羽シェフなんかは、料理人としての腕はもちろんですが、異色の経歴を生かしたお店の経営スタイルが注目を浴びています。


sio

2018年に代々木上原でオープン。シェフの鳥羽周作氏はJリーグの練習生、小学校教員を経て、32歳から料理の道を志すという異色の経歴の持ち主。有名店での経験を生かした料理は、繊細かつ大胆な味わいで人気を集める。


あと、堀江さんの経営するWAGYUMAFIAも同じですね。IT業界からハイエンドな和牛レストランをはじめて、プロデュースも一定の成功を収めながら、ここ3年で店舗数を拡大してきた。

彼らの事例を見れば見るほど、ビジネス要素を取り入れることで、まだまだこの業界は形を変えることができるんだと感じます。

 

ー飲食業界の外から来たパイオニアが、飲食業界の新たな形を提示しているんですね。

この業界、特にハイエンド向けのレストランの悩ましいところは、個人収入で数千万を稼ぐことはできても、億を稼ぐのは難しいという点にあります。

たとえば、都内のある有名なお寿司屋さんは、一人あたり3万円くらいの売上が相場です。席数は8くらいで、だいたい1日に2回転するとしましょう。そうすると、1日の売上は約50万円ほどになりますね。ひと月に20日営業したら、月の売上は1千万円、年間の売り上げは1億2千万ということになります。ここから人件費、材料費といった雑費を引くと、個人の収入は数千万円程度です。

日本で一番人気のお寿司屋さんで、だいたいこれくらいなんですよ!日本一、つまりは世界一のお寿司屋さんでこれしか収入を得られないのは、ちょっと寂しいなと感じます。

 

ーあくまで「収入」という点に関していうと、もっと収入が高くてもいいんじゃないか!とは思ってしまいますよね。

そうですよね。しかも、飲食店の場合、仕入れや食材の調理、お客さんのもてなしまでこなすわけですから、拘束時間が非常に長い。それでいて、日々高いレベルでのクリエイティビティを要求されるわけですから、ちょっとしんどいですよね。ここ1年各地で食べ歩きをしながら、ずっとそんなことを考えていました。

ダイナミック・プライシング制度で、付加価値を作り出す

ー先ほどのお寿司屋さんの場合、お店自体のキャパは限界まで使っていますよね。料理人の方々がこれ以上稼ぐためには、どんな方法があると思いますか?

僕は2つの方法があると思っています。1つは「客単価を変動制にする」というもので、いわゆる「ダイナミックプライシング制度」というものですね。例えば、ホテルって平日の何もない日とGW、お盆、年末年始では宿泊料が全く違うじゃないですか。

一方、レストランの場合は、日にち・時間帯に関わらず料金は一律なのが一般的ですが、レストランだって日時によって需要と供給のバランスは全く異なるはずです。それなのに、月曜の夕方7時と金曜日の夕方7時は、果たして同じ単価でいいのでしょうか。

お客さんは、このレストランで、この時間に食事をするという「場所と時間」に価値をつけるわけですから、お店の予約・キャンセルに対してオークション制を採用することで、場所と時間の価値をもっと高めることができる気がします。

また、日本食の有名店というのは、ほとんどがカウンター席です。厨房と隣接しているカウンター席はシェフともかなり距離が近く、ライブ感のある空間で食事を楽しめます。それに対して、海外のフレンチの有名店は席数が多く、厨房が見えないことがほとんどです。こうなると、仮に弟子が料理を作って、有名シェフが奥でのんびり過ごしていても誰も気づかないですよね(笑)。

僕は料理人という存在に、もっとスターが出ていいと思うんです。「あの有名店の、あの大将と話しながら、極上の料理を堪能できる」ことに、もっと価値を作っていって欲しい。だから、こうした希少性を先ほどのダイナミック・プライシング制度に反映してもいいかもしれません。

若手料理人の間で広がる店舗・商品のプロデュース

もう1つは、お店や個人のブランドを活用して、プロデュース商品を出していくという方法です。この事例で代表的なのは、代々木八幡にある『ete』というお店ですね。


ete

2014年にオープンした、完全予約制のレストラン。シェフの庄司夏子氏(しょうじなつこ)は1989年生まれ。南青山の人気店『フロリレージュ』のパティシエ、スーシェフなどを務める他、出張料理人、モデルとしても活躍する。


eteは月数回しかお店を営業していません。完全予約制・完全紹介制で、お客さんは4人までという徹底ぶりです。これだけ聞くと、とても採算が取れないと思いますよね。でも、実際にはお店自体は非常に好調なんですよ。じゃあ、彼女は何をしているかというと、お店の営業とは別に、贈答用のケーキを販売しているんです。

ネットで「ete ケーキ」と検索すると画像が出てきますが、正方形の箱の中に、色彩豊かでおしゃれなオーダーメイドのケーキが入っていて、あまりにも人気でなかなか手に入らないことから「幻のケーキ」とも言われるほどです。

ケーキは催事のイベントで販売することもあれば、予約して店頭で受け取るというパターンもあります。庄司さんは自分のブランドの希少性や価値というものを、非常によく理解されていて、その展開の仕方がとてもうまいんです。

もう一人紹介したいのは、シェフの田村浩二さん。


田村浩二氏

1985年神奈川県出身。調理師専門学校を卒業後、乃木坂・六本木の有名店で働いたのち、パリでスーシェフなどを務める。レストランは現在ミシュランで三つ星を獲得した店舗も。帰国後は白金台に『TIRPSE』をオープン。2017年にシェフに就任し、世界ベストレストランランキング『World50best』でDiscovery series アジア部門にも選出されるなど、国内で最も注目される料理人の一人。


彼は、昨年白金台にあったフレンチ料理店『TIRPSE』をクローズさせたのち、『Mr.CHEESECAKE』という商品をプロデュース・販売しています。クリームチーズとサワークリームをベースにしたこのチーズケーキは香り豊かで、売り切れが続出するほどの大人気商品になりました。そして、彼はまだ30代なんですが、ECサイトでの商品販売、本の出版など、若手の料理人である自分のブランドを生かした展開を行なっているんです。

ご紹介した2人の商品はいずれも高価格なんですが、「なかなか手に入らない」という希少性を価値に変えて、上手にビジネスへ落とし込めている気がしますね。

これまで、料理人にとって、レストランや店は絶対的な存在だったと思います。ですが稼げる料理人は、自分自身をブランド化し、それを商品やサービスにまで落とし込んでいるんです。

実は、田村さんとは先日食事をご一緒させていただいたのですが、その時に今後の展開を教えてくれたんですよ。ここでは話せないですが、彼のニュースは今後注目していてください。

 

 

食材に魔法をかけたように、次々と極上の味を提供してくれる料理人たち。そのブランド、希少性、付加価値をもっとアピールすれば、外食産業はまだまだ元気になる可能性を秘めています。

浜崎さんのお話からもわかるように、「TERIYAKI美食倶楽部」には、食の最前線に立つシェフや料理、店の最新情報がギッシリ詰まっています。「今までとは一風変わった観点で、美食を楽しみたい」。そんな人に、「TERIYAKI美食倶楽部」では極上の体験を提供してくれるでしょう。

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