眠くならない映画はシナリオも面白い!シナリオランド×シネマラボコラボイベントレポート

著者名ハシ ビロコ

面白い映画と退屈な映画の違いは何でしょうか。カメラワークや音楽の使い方など、さまざまな要因が考えられますが、今回注目したいのがシナリオ。面白い映画は、シナリオにも工夫が施されているのだとか。

2019年9月18日に行われた「有村昆のシネマラボ×シナリオランド ~映画を語る夕べ~」では、映画とシナリオの関係に注目して熱い批評を展開しました。

エンジン全開の映画トーク

今回のイベントは2部構成。前半では「有村昆のシネマラボ」を主催する有村昆さん、「シナリオランド」を主催する高達俊之さん、小林雄次さんがテーマに合わせて映画を語り合いました。

テーマ1「何度見ても寝てしまう映画」

最初のテーマは、「何度見ても寝てしまう映画」。最新作でも歴史的な名作でも、「何度見ても寝てしまう映画」には、なぜか眠くなってしまう要因があるようです。

 

有村:たとえば、デレク・ジャーマン監督の『BLUE(ブルー)』(1993年)。これは、エイズのために失明してしまった監督が、全編ブルーの画面にナレーションを流す、という形式で仕上げた映画です。

この作品を見終わった時、今までの自分は「映画は映像にこだわって作らなければならない」という固定観念にとらわれていたことに気づかされました。むしろ全編ブルーのほうが、映画はよっぽど自由に羽ばたけるんじゃないかと、映画のすばらしさを改めて感じさせてくれた1本だったんですが、ずっと同じ映像が続くとやはり少し退屈なんですよ。とにかく刺激がないので、眠くなってしまう人も多いかもしれません(笑)。

小林:映画館に行くときはお金と時間を無駄にしたくないので、「おもしろい」とわかっている作品を求めてしまうことが多いと思います。ただ、ひと昔前は「たまたま見たB級映画が意外と面白かった」という、思わぬ出会いもありましたよね。有村さんの話を聞いて、「もっとお金を払って無駄な作品を見なきゃ」と思いましたよ。

有村:ぜひとも、映画館で無駄な時間も過ごしていただきたい!当たりの映画だけ見れば人生が豊かになるわけではありません。無駄な時間だって、僕は結構重要だと思います。

一方「シナリオランド」の高達さんは『2001年宇宙の旅』(1968年)を、小林さんは『ツリー・オブ・ライフ』(2011年)をチョイス。どちらも名作ですが、理解がついていかない描写が多く、どうしても途中で意識が遠のいてしまうといいます。

 

高達:2001年宇宙の旅』は非常に好きな映画ですし、大傑作だと思ってもいるのですが、見ているうちにこと切れてしまうんですよ…。この感覚はクラシックのコンサートに似ていますね。

有村:本作は意図的に隙間を作っているので眠くなってしまうんだと思います。この背景には「わからないからこそいい」という考え方があって。たとえば、本作はナレーションを極端に省いていますよね。一方で、ナレーションは説明台詞、つまり監督が訴えたいことをカバーするための大切な手法でもあります。

小林:もとのシナリオにはナレーションがたくさん入っていたと聞いたことがあるのですが…。

有村:そうなんですよ。でも、あえてナレーションをカットしたことで、見た人によって異なる解釈が生まれ、いまだに論争が続くほどの傑作になったんです。だから「眠たくなる作品=批評によって理解が深まる作品」ということもできるかもしれませんね。

そもそも映画は、答えを出すことがゴールではありません。よくわからない、気持ち悪い、というモヤモヤ感もあっていいんです。それを人に語り、最後の1ピースを自分たちで埋める作業も、映画の楽しみのうちなので。

小林:私が挙げた『ツリー・オブ・ライフ』も、『2001年宇宙の旅』と同じくよくわからない系の傑作映画で。アメリカの田舎町に暮らす家族を描いた作品のはずなのに、突然VFXによるリアルな恐竜とかが登場するんですよ。何も知らずに見ると「いったい私は何を見せられているんだ」という気持ちになります。

有村:導入部分とエンディング部分の関連性がないので、途中でストーリーが混乱してしまうんですよね。でも、僕はこういう映画もあっていいと思います。先ほど話した『BLUE(ブルー)』もそうなんですが、表現は自由ですからね。

僕はシナリオのプロではないので逆に伺いたいのですが、シナリオには「序破急」や「起承転結」のような型があるじゃないですか。でも、今回挙げた作品は、どれもこの図式を破壊しているのでは、と感じているんですが…。

小林:そうですね。型などのシナリオ論はもちろん今でも存在しています。むしろ型があるおかげで、その型から逸脱している作品が印象に残るわけです。

テーマ2「タイトルと内容のギャップがありすぎる映画」

続いてのテーマは「タイトルと内容のギャップがありすぎる映画」。有村さんは『ゼロ・グラビティ』(2013年)に関して、どうしても許せないことがあると語ります。

 

有村:この映画、原題は『グラビティ』ですが、邦題は『ゼロ・グラビティ』なんです。これに関しては、僕は原題のほうが好きですね。

本作のラストには、苦難を経て地球に帰還した主人公が、砂浜で重力を感じるシーンがあります。主人公は自分の足で立ち、初めて生きることの重さを実感するんです。そこで『グラビティ』というタイトルの真意がわかって「なるほど!」と納得するのが、本作の魅力のひとつでした。

しかし、邦題の『ゼロ・グラビティ』しか知らない人は、その気づきが薄れていしまいますよね。つまり、同じ映画なのに、タイトルによって映画を見終わった後に感じるものが異なってしまうんです。

高達さんが挙げたのは『リンカーン 秘密の書』(2012年)。内容とタイトルのイメージかかけ離れていて驚かされたと語ります。

 

高達:リンカーン 秘密の書』は、アメリカ建国を描いた崇高な映画かと思いきや、実際はゾンビ映画でした。

有村:たしか公開当時、スピルバーグ監督の『リンカーン』(2012年)も上映していましたよね。おそらくタイトルで勘違いして劇場に足を運んだ人が数名はいるはずです。

高達:その中のひとりが僕です(笑)。のちにスピルバーグ監督の『リンカーン』も見たのですが、どうも落ち着かないんですよ。いつゾンビが出てくるのかな、と思ってしまって(笑)。

有村:スピルバーグ監督版にゾンビは出ないですよ!(笑)

小林さんは『沈黙の戦艦』(1992年)から始まる『沈黙』シリーズをチョイス。シリーズと銘打っているものの、各作品に関連性がないことを指摘しました。

小林:本来『沈黙の戦艦』の続編は『暴走特急』(1995年)というアクション映画です。タイトルに「沈黙」がついていないので勘違いされることもあるのですが。その後、日本で公開されるスティーブン・セガール監督作品に『沈黙』という邦題をつけ始めてしまって。まったく違う作品もシリーズとしてひとくくりにされてしまいました。

 

このように、内容がすばらしい映画でも、タイトルがマッチしていなければ残念に感じてしまうこともあります。作品の内容を落とし込んだタイトルがいかに重要か、改めて実感するトークでした。

テーマ3「エンドロールが終わる前に退場すると損する映画」

3つ目のテーマ「エンドロールが終わる前に退場すると損する映画」では、有村さんが「話のネタになるからぜひメモして!」と念を押すほどの名作が集まりました。

有村さんが特に力を入れて語ったのは、ダスティン・ホフマン監督の『卒業』(1968年日本公開)。ハッピーエンドのはずなのにエンドロールでだんだんと不安な表情を浮かべる、というラストシーンには思わぬ裏話があったようです。

 

有村:この映画では、実は本編が壮大な前フリだったことにエンドロールで気づかされます。現実はハッピーエンドの先にあり、これから本当の人生が始まるのだという逆説的な定義が評価されました。

しかし、公開から30年が経った1997年に監督が自ら、シーンを撮り終わっても「カット」と言い忘れていたことを明かしました。だから役者たちは不安な表情を見せていたわけです。

つまり、制作サイドが意図していなかった表情なんですが、これが結果的に名作の要因になりました。この裏話を知ったうえでラストだけでも見直すと、いろいろと感じるものがあると思います。

小林:ラストシーンだけ見ても傑作ですよね。どんな物語だったか、途中を説明できなくても、多くの人がこのラストシーンだけは知っているという珍しい映画です。

高達:きっとラストで、監督に映画の神がおりてきたんですよ。

有村:あと、『卒業』のようなアメリカンニューシネマが流行った1960年代後半~1970年代半ばは、ベトナム戦争などで経済が疲弊していた時代です。だから、当時の映画には国や企業の裏切りに対する、反発精神がにじみ出ているように感じていて。守られていない捨て身の作品ほど、面白いものはないですよね。

 

高達さんは『マーベル・シネマティック・ユニバース』シリーズ(2008年~)、小林さんは『キングコング: 髑髏島の巨神』(2017年)を紹介。どちらも次回作への伏線がエンドロール後に登場する作品です。

有村:こうした作品は、毎回席を立てないですよね。次回作への伏線があるのではないかと思って、トイレに行きたい気持ちを我慢して見てしまいます(笑)。

小林:エンドロール後にも映像がある作品は、最近増えていますよね。企画段階から映画全体を単体ではなく、壮大なプロジェクトとしてとらえていて。『アバター』の続編なんて4作品の構想が発表されていますが、連ドラのような感覚で作っているんじゃないでしょうか。

有村:うまい方式ですよね。『アベンジャーズ』の場合は、オールスターでファン層を広げて、そこから過去作にさかのぼってもらうシステムも確立していますし。

小林:キングコング: 髑髏島の巨神』も、最後に『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』への前フリがありました。僕はその情報を知らずに見に行ったので、映画館でテンションが超あがってしまって(笑)。エンドロール後のこのシーンのために見に行ったんだ、と思うくらいでしたよ。

有村:ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の構想があったからこそできたシーンですよね。今は、共通の世界観で作品をつなげていくユニバース方式がブームになっていて、面白いです。

エンドロール後にシーンを流すようになったのはいつから?

有村さんの調査によると、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003年)以降、エンドロール後に映像を流す作品がぐっと増えたといいます。

 

有村:エンドロール後に映像がある映画をすべて調べてみたところ、4分の1がディズニー作品だったんです。つまりブームの火付け役はディズニーだといえるんじゃないかな。

スターウォーズ』もそうですが、ディズニー作品はその気があればいくらでも続編を作ることが可能です。永遠に終わらない物語が、ディズニーのひとつのすごさなんだと思いますね。

小林:実は、このブームはシナリオの考え方にも大きな影響を与えています。普通はゴール地点に向かって逆算しながらシナリオを書いていくのですが、あえてそれをやらない作品が増えてきたんです。

ただ、私自身は「終わらせないこと」は無責任だと感じています。意味深な伏線を入れておけば、物語はいかようにも広げていけるので。しかし、これからは物語が終わらないように世界を広げていく手法も求められているように思えますね。例えるなら、最終回が決まっていない連載漫画のような感覚です。

「マイナーだけど構成がすばらしい映画」発表会

イベント後半では、DMMオンラインサロン受講生による批評発表会を開催。「マイナーだけど構成がすばらしい映画」というテーマで、6人の受講生が発表を行いました。

シネマラボ受講生が挙げた『ギルティ』(2018年)は、「有村崑のシネマラボ」の”第1回勝手にシネマアワード”でグランプリに輝いたデンマーク映画。あえてコールセンターの中だけで物語を進め、映像表現に制限を加えることで観客のミスリードを誘う構成になっているのが秀逸です。また、受話器の向こうの台詞など、音声を意識したシナリオが高く評価された作品でもあります。

こうした「〇〇しばり」は今や世界的ブームではあるものの、『ギルティ』は誰もが「その手があったか!」と驚く発明的作品だったと、有村さんも絶賛しました。

シナリオランド受講生が挙げた『運命じゃない人』(2005年)は、『鍵泥棒のメソッド』などを手掛けた、内田けんじ監督の作品。同じ時間軸で交差する3つの物語に注目して、シナリオを読み解いていきました。

 

高達:本作では各キャラクターの印象が、物語の最初と最後で変わるじゃないですか。3つのエピソードを見るとキャラクターの真相がわかる、すごい構成です。

有村:内田けんじ監督は、毎回ひねりを効かせてくる人で。いつも、「すごいなあ」と思っています。本作ではA、B、Cの3つの視点で同じ出来事を描く、いわゆる「羅生門方式」を採用しています。同時間軸で複数の物語が進行し、キャラクターの視点ごとに新たな発見がある。舞台ではなかなかできない、映画的な手法ですよね。

 

ほかにも『フェーズ6』(2009年)、『ハッピー・デス・デイ』(2019年日本公開)、『ハッピー・デス・デイ 2U』(2019年日本公開)、『人造人間ハカイダー』(1995年)、『人魚姫』(2016年)といった知る人ぞ知る映画が連発。知名度こそあまり高くないものの、構成が優れた名作はまだまだたくさんあるようです。

受講生からも「マイナーだけど構成がすばらしい映画を教えてほしい」と質問があり、小林さんは『クラウド アトラス』(2013年日本公開)を紹介。時代が異なる6つのエピソードが並行して描かれる作品で、シナリオは複雑だけれどクライマックスに向けての収束が見事だと太鼓判を押しました。

映画は批評によって面白くなる

イベント終盤、有村さんはさまざまな視点から見直すことで深まる映画の魅力について語りました。

 

有村:映画は時間が経ってから見直すと、当時わからなかったことがわかるようになりますよね。自分自身の年齢や立場が変化すると、また違った視点で見ることができるので。

今日のように、ほかの人の批評を聞くことで興味を持つようになる作品や、新たな魅力を発見する作品もあります。だから、映画を見て、ただ面白かったと感じて終わるのはもったいないですね。受け手の体験や文化的な背景が絞り出された批評を聞くこと、さらにそれを批評することが、映画の本当の楽しみ方だと思っています。

有村昆のシネマラボ」では、映画の批評や最新映画の試写会など、映画好きにはたまらない企画を開催しています。また、「シナリオランド」ではアニメ・特撮を中心としたシナリオ術、クリエイターが生き残るための戦略など、ここでしか聞けない話が満載。

今後も豪華なゲストを招いた企画が用意されているとのことなので、映画やシナリオに興味がある方は、オンラインサロンに参加してみてはいかがでしょうか。

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