「その男らしさ、要ります?」小島慶子×田中俊之「男らしさナイト」レポート

著者名CANARY 編集部
「その男らしさ、要ります?」小島慶子×田中俊之「男らしさナイト」レポート

 2019年にオンラインサロン「つながるサロン」を開設した小島慶子さんが、共著もある男性学の研究者・田中俊之さんをお招きし、初のイベント「男らしさナイト」を開催。

 自分らしく生きたいと願う一方で、「男らしさ」「女らしさ」に縛られてしまう……。このイベントではそんなジェンダーバイアスを取っ払うべく、小島さん、田中さんのほか、オンラインサロンメンバーからのスペシャルゲストも招いて語り合いました。

(取材日:20191212日)

 「誰から頼まれたわけでもなく自分でイベントを企画し、私がお話したい方をお呼びしてコンテンツ化するという試みの第一回です」という小島さんの挨拶からスタートした「男らしさナイト」。小島さんたちが語り尽くした90分の模様をお伝えします。

「世の中の当たり前」への違和感

 会の冒頭、大正大学心理社会学部准教授の田中俊之さんがなぜ男性学を勉強し始めたのか、そのきっかけが明かされました。

 

田中俊之さん(以下、田中):「大学4年生になった時、『就職しろ』っていう圧力をすごく感じたんです。男だったら大学を卒業して正社員になるのが当たり前で、一旦働きだしたら定年まで働くのも当たり前。しかもその間には結婚して子作りするのが当たり前で、家族の大黒柱になるのが当たり前。そんな“当たり前”の数々に違和感があったにもかかわらず、周りはわりとそれを普通にこなしていくんです。だったら、そうなった今の仕組みを解明したいなと思ったんです」

 

 さらに田中さんは昨今、「男性学」や「男らしさ」といったことに脚光が当たるようになってきた要因として、「女性が生涯にわたってキャリア形成を考えるのが当たり前になってきた」というポジティブな側面と、「男性が相対的に稼げなくなってきている」というネガティブな側面があると指摘。

 

田中:「すべてを投げ売って働けば生活を保証してくれた昔とは違って、今はどんなに身を粉にして働いても将来の保証もなければ、給料も上がらない。そんな今だからこそ、男性は働き方や生き方を変えていくチャンスでもあるんです」

男らしい人ほどパニクる育児・介護の現場

 小島さんは「“女性の仕事はあくまでも男性のサブ”っていう発想を変えてもらわないといけない」と、これまで保育士や介護士といった「ケアワーク」に従事する人たちが軽んじられてきたことにも言及。団塊の世代が一斉に後期高齢者となる「2025年問題」にも触れながら、迫りくる「大・介護時代」に対応するためには、男性も親の介護や子供の世話ができるように働き方を考える必要があると指摘しました。

 そのうえで、「男性は子育てや介護に取り組もうとする時、知識で武装すれば物事を解決できると考えがちだが、これが大きな誤りだ」と田中さんは力説します。

 

田中:「『介護知ってるよ、こんな風にすればいいんでしょ』と想定するわけなんですが、そうすると、想定外の事態が起きた時にとんでもなくパニクります。しかも、男らしければ男らしい人ほど、状況が崩壊しているにも関わらず、自分の力だけでコントロールしようとしてしまう。つまり、人を頼れないんです」

 

 田中さんは今、4歳児と0歳児のお父さんでもあります。そのため「上の子をお風呂に入れるだけで精神的に死にそうになる」と、育児の過酷さを面白おかしく吐露しつつ、「ケアワークが誰にでもできるなんて大間違いで、軽んじすぎですよ」と訴えていました。

男は強くていいけど女は弱くてだせえ

 さらにここで、私立桐朋小学校の教諭でサロンメンバーでもある星野俊樹さんが登場。初等教育の現場でジェンダー教育を実践することになった経緯を明かしてくれました。

 

星野俊樹さん(以下、星野):「僕は40代で未婚なんですけど、学校という場所は、結婚して子どもがいる大人が“スタンダード”で“普通”とされる空気がまだまだ強いですよね。『結婚して子育てをしているから、この先生は安心して任せられる』みたいな空気があったり、保護者たちを安心させるための材料の一つとして、教員は教員で自己紹介の時に、たとえば『2児の父です』みたいなことを、別に聞かれてもないのに毎回言ったりする。そういうのもなんだかなあと思っていて。自分が“スタンダード”で“普通”じゃない分、余計気になるのかもしれませんが(笑)。

だから、同僚に『正直、教員になっても学校で生きていくことがしんどいです!』と弱音を吐いたんです。そしたら、『大人が多様性について理解を深める機会も必要だよね。多様性に関する教育実践、やりましょう』と背中を押してくれたんです。」

 

 その後、当時担任をしていた小学校56年生の生徒たちに向けて始めた「生と性の授業」はまたたく間に話題を呼び、ニュースサイトの「BuzzFeed」にも掲載されました。

 そして現在、2年生を担任している星野さんは低学年のうちからジェンダーバイアスを外す重要性を感じていると言います。

 

星野:「『●●くんに、男は強くていいけど女は弱くてだせえ、と言われました。納得いかないので話し合いをしたいです』という訴えが2年生の女の子からあったんです。そこで、みんなで話し合いをしたんですが、『本来、強さって良くもなければ悪くもない中立なものだよね』ということを確認しながら、たとえば力の強い女の人はレスリングのオリンピック選手だし、力の弱い男の人はほっしー(星野さんのあだ名)だから、強さに男も女も関係ないよね、と」

 

 こんな風にわかりやすく「男らしさ・女らしさ」を解体していくような話を小学2年生にしたところ、意外にも男の子たちから「男はおままごとしちゃだめなの?」「男だから女だから、なんて余計」といった、ジェンダーバイアスに対する不満の叫びが聞こえてきたと言います。

実際、「男は強くていいけど女は弱くてだせえ」と言った男の子も、後に星野さんにこんな話をしてきたのだとか。

 

星野:「『僕もね、お家の人や周りの人から“男だから”って言われるんだけど、そういうの本当はうんざりなんだ』ってその男の子が言ったんです。その子も本当はおかしいと思ってたのに、周りからの“らしさの強要”が続いた結果、自分自身もそれを忘れて気づけなくなっていたんですね。

BuzzFeed』で紹介された『生と性の授業』は56年生向けの授業でしたが、残念だと思ったのは、男の子はわりとポカーンとしていて、どこまでいっても他人事みたいな子どもが女の子に比べてかなり多かったことです。でも低学年にこういう授業をした時には、むしろ男の子たちが食いついてきた。女の子は自分たちの女性という性、引き受けざるを得ない生きづらさにずっと直面してきてるので、何年生でもこういった話に興味を持ってくれます」

 

 さらに星野さんは、「小学校入学前の段階からジェンダーバイアスを内面化させないようにすることが大切」とも指摘し、「男の子は水色組、女の子はピンク組に並んで~」みたいな何気ない大人の声かけや振る舞いがジェンダーの硬直化につながると話していました。

脳は、「男女差」より「個人差」の方が大きい

 そして最後に、サロンメンバーである臨床心理士の村中直人さんが登場。田中さんによる社会学、星野さんによる教育の現場に続き、脳という「生物学的」視点から話をしてくれました。

 

村中直人さん(以下、村中):「男女の違いは生物学的に決まっていることなので今ある役割分担が妥当である、という考え方を“ニューロセクシズム”といいます。ただこれは、神経学者たちからは非常に評判が悪いそうです。なぜならひとりの人間の脳を考えた時、性別の要因よりも個人差の方が遥かに大きいんです。男女差というのはAIがやっと検知できる程度の差でしかなく、男性的とされる脳の女性も女性的とされる脳の男性も沢山いるので、生物学的な性別だけでは個人の違いを説明出来ないんです」

 

 村中さんによると、時々耳にする「男性脳・女性脳」というのは科学的根拠がとても乏しいんだそう。さらに長年にわたって自閉症の子どもたちを支援してきた村中さんは、「ニューロダイバーシティ」という考え方についても教えてくれました。

 

村中:「ニューロダイバーシティはもともと、自閉症当事者の社会運動から始まった概念です。彼らが主張しているのは、自閉症とは我々の文化であり、優劣の問題ではないということ。自閉症当事者は、脳や神経由来の独自の文化を持っていって、その文化の違いがマイノリティであるがゆえに、生きづらさを感じているということなんです」

 

 そんな村中さんは、発達障害の子どもたちやその親御さんに向けて、「半径10mの社会適応を目指そう」とアドバイスしていると言います。

 

村中:「たとえば、自閉症の子はどこにいってもマイノリティなので、社会が全部敵に見えちゃうんですね。その時、親御さんもそうなんですが、社会というものが一個の大きな敵に見えて疲弊するんです。でも、本来は小さな集まりの寄せ集めが大きな社会を作っていますよね。だから自分に合う『半径10mの社会』があるはずなんです。そして、それを最低でも1つは確保することが目標、もし3つもあれば結構幸せに暮らせますよ、とお話しています」

 

 そしてこのお話は、質疑応答の時間に「どうすれば男らしさの呪縛から逃れられるでしょうか」という女性からの質問に答えた田中さんの回答ともリンクしていました。

田中:「社会を変えようとするのはとても大事なことですが、自分の目の黒いうちに変えようとするのは、僕は無理だと思います。でも、女性解放運動家だった平塚らいてうが今の社会を見たら、『女性もけっこう活躍できるようになったね』って思うんじゃないかなって。

だからまずはひとつでもいいから、男らしさ・女らしさの呪縛から自分を解放できるようなコミュニティや仲間を作ることです。そしてもうひとつは、長期的な変革を目指して、自分の子供や孫の世代の負担が軽くなるような活動をする。平塚らいてうもそういうアクションを積んできたわけですから、そのふたつを並行してやったらいいんじゃないでしょうか。社会を長期的に変えようというビジョンだけだと苦しくて持ちませんから、身近なところからはじめてみてください」

 

 イベントの締めとして、小島さんは参加者に最後にこんなことを語りかけていました。

 

小島慶子さん:「男尊女卑っていう構造が男性のことも女性のことも追い詰めて、過剰適応せざるを得ない状況があった。しかも、そうしても報われないのが、2019年の日本です。でも、『じゃあこの誰も得をしない男尊女卑はいい加減やめてもいいんじゃないか』、『男女ともにもっといろんな生き方があっていいんじゃないか』という合意は出来つつあると思うんです。

実際、今日もこうして男性も女性も、またいろんな年代の方がこうやって集まってくれたことが本当に嬉しいです」

 

 参加した皆さんの心に“アクションの火”が灯るような、知と愛に溢れた「男らしさナイト」は大盛況のうちに終了となりました。

 小島慶子さんのオンラインサロン「つながるサロン」では本イベントのノーカット動画が配信されているほか、今回登壇した田中さん、星野さん、村中さんに質問もできるそう。

さらに、今後も開催が予定されている“小島さん発”のイベントに、サロンメンバーは破格の価格で参加できるので(ちなみに本イベントは500円)、ぜひこの機会に「つながるサロン」でコミュニティの輪を広げてみてはいかがでしょうか。

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