消費税の「簡易課税制度」を上手に利用して節税しよう

著者名SJ
消費税の「簡易課税制度」を上手に利用して節税しよう

フリーランスや起業家の方は、少しでも節税するための方法を日々探しているのではないでしょうか。消費税の簡易課税制度についても、一度ならず聞いたことがあるかもしれません。この制度を利用すると、人によっては大きく節税できる可能性がある一方、逆に税金の負担が増えてしまう場合もあります。

この記事では、簡易課税での納税額の計算方法や申請方法、そしてメリットとデメリットを解説します。制度を正しく理解して、節税のために利用できるかどうか、じっくり検討してみてくださいね。

 簡易課税とは?

簡易課税について知る前に、まずは通常の消費税課税方法を把握しておきましょう。

「原則課税」と呼ばれる通常の課税方法では、事業者が納付する消費税額を次のように計算します。


納付税額=課税売り上げにかかる消費税額(①)-課税仕入れ等にかかる消費税額(②)


①は、売り上げによって「預かっている」状態の消費税で、課税売上高に税率を掛けて算出します。②は、仕入れや経費の支払いの際に実際に「支払った」消費税で、課税仕入高に税率を掛けて算出します。

消費税率は10%ですが、現在は軽減税率の8%が適用されるものもありますので、上の計算式を細かく展開すると、次のようになります。


 納付税額={(課税売上高 × 10%)+(軽減税率対象の課税売上高×8%)}-{(課税仕入高×10%)+(軽減税率対象の課税仕入高×8%)}


これに対して、一定の条件を満たした場合に利用できる「簡易課税」では、課税仕入れ等にかかる消費税額(②)を計算する代わりに、課税売り上げにかかる消費税(①)のうち、一定割合を控除することができます。つまり、売り上げにかかった消費税額だけを計算すれば納付税額を確定できるので、仕入れに実際にかかった消費税額は一切計算せずに済むということです。原則課税と比べて計算が簡便なので、「簡易課税」と呼ばれるのですね。

簡易課税制度の適用条件

簡易課税制度を利用するためには、次の2つの条件を両方満たしている必要があります。


1.基準期間(前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下

2.簡易課税制度の適用を受けるための届け出を事前に提出している


なお、消費税には、課税・非課税・不課税の3種類の取引があります。そのため、総売上高が5,000万円を超えている場合でも、非課税と不課税の売り上げを除いた課税売上高が5,000万円以下であれば、簡易課税制度の適用することができます。

簡易課税額の計算方法

簡易課税制度を利用した場合の納税額の計算方法は、次の式のようになります。


納付税額=課税売り上げにかかる消費税額(①)-(①×みなし仕入率)


ここで出てくる「みなし仕入率」というのは、「この業種ではこの位の費用が必要」という考えのもとで、仕入控除税額(課税仕入れ等にかかる消費税額として控除する額)を計算するための決まった割合です。

この式の形を変えると、次のようになります。


納付税額=課税売り上げにかかる消費税額×(1-みなし仕入率)


これを、原則課税の計算式と同じ要領で細かく展開すると、次のようになります。


 納付税額={(課税売上高 × 10%)+(軽減税率対象の課税売上高×8%)}×(1-みなし仕入率)


みなし仕入率は事業区分によって違う

肝心のみなし仕入れ率ですが、これは事業形態によって6段階で決められています。

(参考:国税庁|No.6509 簡易課税制度の事業区分

商品の仕入れが多い卸売や小売などの業種ではみなし仕入率が高く、給与のように消費税の課税対象とならない経費が多いサービス業などでは、みなし仕入率が低く設定されていることがわかります。

複数の事業を行っている場合の計算方法

事業形態によって6つの区分に分かれているみなし仕入れ率ですが、複数の区分をまたいで事業を行っている場合、仕入控除税額はどのように計算するのでしょうか。

基本的には、区分ごとの課税売上高に税率とみなし仕入率を掛けて、それぞれを足し合わせることで計算します。

例えば、軽減税率の対象とならない物品の卸売(第一種)と小売(第二種)、さらにサービス業(第五種)を営んでいる場合なら、次のような計算式になります。


仕入控除税額=(卸売の課税売上高×10%×90%)+(小売の課税売上高×10%×80%)+(サービス業の課税売上高×10%×50%)


ただし、次の場合には、特例としてより簡便な計算方法を用いることができます。


ケース1:2種類以上の事業を営んでいる場合で、特定の1種類の事業の課税売上高が課税売上高全体の75%以上を占める場合

 →75%以上を占める業種のみなし仕入率を全ての課税売上に適用

 

ケース2:3種類以上の事業を営んでいる場合で、特定の2種類の事業の課税売上高が課税売上高全体の75%以上を占める場合

 →その2業種のうち、みなし仕入率の高い方の事業についてはその業種のみなし仕入率を適用し、もう一方の(低い方の)みなし仕入率を、残りの課税売上全体に適用


なお、区分をまたぐ複数の事業を営んでいる事業者が、課税売上を事業ごとに区分していない場合には、含まれる事業のうち一番低いみなし仕入率を課税売上全体に適用します。

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簡易課税制度の申請方法

簡易課税制度の適用を受けるためには、事業者が納税を行う住所を所轄する税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。

「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出するためには、固定資産にかかわる複雑な規定がいくつもあります。

例えば、新設法人が100万円以上の固定資産を購入した場合などは、この届出書を提出できない可能性があります。こうした細かい規定は、仕入税額控除を利用した過剰な租税回避行為が一部で横行したことを受けて作られたものです。高度な法律の理解が求められますので、高額な固定資産の購入歴がある人やこれから購入を予定している人は、そもそも簡易課税制度の利用を申請できるのか、まず税理士に相談してみるのがよいでしょう。

簡易課税制度の届出を行う

「消費税簡易課税制度選択届出書」は、簡易課税制度の適用を受けようとする課税期間が開始する日の前日までに提出する必要があります。ただし、新たに開業した事業者については、開業した日の属する課税期間の末日までに提出することで、その課税期間から適用を受けることができます。

なお、簡易課税制度の届出を行った場合でも、その後に課税売上高が5,000万円を超える年度があった場合には、その年を基準期間とする課税期間(2年後)には、簡易課税制度が適用されません。

20209月までは特例を適用できる

201910月の消費税増税を受けて、通常の10%の消費税と8%の軽減税率が併存する状態となっています。原則課税では、税率ごとに分けて課税仕入れ額を計算する必要がありますので、事業者への事務的な負担がこれまでと比べて大きく増えてしまうことになります。

そこで、2020930日までの日の属する課税期間については、経過措置が用意されています。対象となる課税期間の末日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することで、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができます。

(参考:国税庁|消費税の届出はお済みですか?

簡易課税制度をやめるときにも届出が必要

一度「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出するまでは、簡易課税制度が適用され続けます。

つまり、簡易課税制度の適用を受け始めてから課税売上高が5,000万円を超え、簡易課税制度が適用されない年度が出てきた場合でも、届出の効力は同じく継続することになります。したがって、その後の期間に課税売上高がふたたび5,000万円以下となった場合には、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出して簡易課税制度の適用を取りやめていない限り、その年度を基準期間とする課税期間には簡易課税制度が適用されます。

「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」は、簡易課税制度の適用をとりやめようとする課税期間の開始日の前日までに提出する必要があります。

簡易課税制度のメリット・デメリット

簡易課税制度は、適用を受けることで得をする人とそうでない人がいます。ここで紹介するメリットとデメリットを確認して、利用した方がよいのか、あるいは利用しない方がよいのか、自分のケースに当てはめて考えてみましょう。

メリット 計算が楽

原則課税と簡易課税の計算式を比べてみればわかるように、簡易課税制度は計算がそれほど難しくありません。仕入について細かな記録や分類をして仕入控除税額を計算する必要がなくなるため、事務的な負担が大きく減ります。さらに、1年の売り上げ予測を立てれば、それに従ってその年度の納税額の大まかな値を把握するができますので、資金繰りなどの経営判断がしやすくなります。

メリット 節税できる場合がある

実際の仕入率がみなし仕入率を下回る場合には、簡易課税制度を利用することで節税することができます。みなし仕入率は全ての業種で高めに設定されていますが、特にコンサルティング業やIT関連業など、仕入が発生せず人件費が経費の大半を占める業種では、簡易課税制度を利用することで節税できる場合が多いでしょう。サービス業のみなし仕入れ率は50%ですので、非課税である人件費などを除いた課税仕入れが50%以下であれば、簡易課税を選択することにメリットがあると言えます。

デメリット 事業数が多いとむしろ事務負担が増える

業種区分をまたぐ複数の事業を行っている場合、簡易課税では業種ごとに売上高を分類して計算する必要があります。分類をしないと、一番低いみなし仕入率を全ての仕入れに適用することになりますので、損をしてしまう可能性が高いためです。

したがって、色々な業種の事業を行っている事業者であれば、全ての売り上げを業種ごとに分類することで、かえって事務的な負担が増えてしまう場合があります。

デメリット 税額が増えてしまう場合がある

実際の仕入率がみなし仕入率を上回る場合、簡易課税制度を利用しない方が、税負担が軽く済むことがほとんどです。たとえば、多額の設備投資を行った場合などがこの典型と言えるでしょう。売上高を上回る設備投資を行った場合、原則課税を選択していれば、消費税の還付を受けることができます。一方、簡易課税では、仕入高に関係なく課税売上高を基準として納付税額を計算しますので、還付を受けることはできず、売上高に応じた税金を納めなければなりません。

その他、商品の仕入れが多い卸売業や小売業などの場合にも、実際の仕入率の方がみなし仕入率より高くなる場合がありますので、原則課税を選択することにメリットがあると言えます。

 デメリット 2年間は原則課税方式に戻せない

一度「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すると、2年間は簡易課税制度の適用を継続する必要があります。つまり、2年間は原則課税に戻すことができないため、2年以内に大規模な設備投資や店舗の改修などを行う可能性がある場合は特に注意が必要です。

簡易課税制度を選択することで、設備投資を行う場合に本来受けられるべき税負担の軽減を受けられなくなってしまう可能性がありますので、慎重に判断しましょう。

 

 

一見メリットの多そうな簡易課税制度ですが、事務負担の軽減や節税といった恩恵を享受できるかどうかは、場合によります。特に、多額の設備投資を行う場合には逆に損をしてしまう可能性も高いので、数年先までの事業計画を念頭に置いてじっくり検討する必要がありそうです。一方、場合によっては大きな節税につながる制度ですので、税理士とも相談しながら、慎重に決断しましょう。

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竹岡佳信 - 40代からのマイクロ起業アソシエーション - DMM オンラインサロン40代という人生の転換点となる年代から、もう一度、自分の人生を見直し再設計する中で、働き方やライフスタイルを組み立て直そうとする方々のコミュニティです。 40代からの起業と卒サラについて、教材やセミナーで学べます。
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