陸上メダリスト・末續慎吾選手が教える、走るという楽しみ。スポーツという楽しみ。

著者名サトートモロー
陸上メダリスト・末續慎吾選手が教える、走るという楽しみ。スポーツという楽しみ。

2003年世界陸上パリ男子200mで銅メダル、2008年北京五輪男子100mリレーで銀メダルなど、陸上競技界において数々の素晴らしい成績を残してきた末續慎吾選手。41歳になった今でもなお現役として高いパフォーマンスを発揮しつつ、自身が立ち上げた団体「EAGLERUN」を通じて、後進の育成やスポーツの楽しさを伝える活動を行っています。

そんな末續選手は、2021年4月にDMM オンラインサロン「末續慎吾の部屋ですが? 〜アースな世界へようこそ〜」を立ち上げました。このオンラインサロンを通じて、末續さんは一体何を伝えようとしているのか、実際に聞いてみました。

「自分の幸福とはなにか?」最高峰の舞台を下り、ゼロからのスタートを切った

ーー私はちょうど、末續選手がメダルを獲得した大会をリアルタイムで観戦していました。こうしてお会いできて、緊張しています(笑)。

ありがとうございます。僕は小中高大、そして実業団と人生を通してずっと走り続けてきました。陸上競技の最高峰であるオリンピックにも出場できたし、41歳になっても誰かに見られたって恥ずかしくない記録で、勝ち負けのある世界で走ることができています。

そして、現在は競技者と同時並行で、僕が立ち上げた「EAGLERUN」という団体を通じて後進の育成を行ったり、僕の陸上選手としての経験を伝えたりすることもひとつの軸にして活動しています。その一環として、信頼するコーチと一緒にERC=EAGLERUN RUNNING COMMUNITYというコミュニティを立ち上げました。普段は30人、全体で80人くらいのメンバーが在籍していて、最高齢は84歳、下は3歳までと年齢もバラバラです。

ーーERCはどのような目的で活動しているのでしょうか?

ERCは、「どこでも誰とでも走れるようになりたい」というコンセプトで活動しています。競技者的な組織だと、走る速さでグレードを分ける、三角形の縦割り構図になることが多いじゃないですか。だけど、ERCでは「速くなりたい」というのはあくまでも選択肢のひとつなんです。

 

ーー競技者として最前線にいた末續選手が立ち上げたコミュニティということで、てっきり競技力の向上が目的かと思っていました。

僕は41歳まで、ずっと走り続けることができています。僕は、ひとつのことを長く続けるには、「楽しい」「好き」という気持ちが軸にないとムリだと思うんですよ。

10〜20代のうちは、体力があるしムチャもできる。僕も当時は勝利至上主義、つまり勝つことが全ての世界で生きていました。求められる実績も出すことができましたからね。

しかし、30代にさしかかって日本記録もオリンピックのメダルも手に入れた時、それでもまだ僕の心は満たされていないことに気づいたんです。

 

ーーオリンピック、世界陸上という最高峰の舞台で結果を残したにも関わらずですか?

はい。「世界の舞台でメダルを獲った」という、誰しもが認める印籠を手にしたのに、なぜ心が満たされないのか。これって、お金持ちが幸せとは限らないという話に似ていると思うんです。

それ以来「スポーツで満たされるとはどういうことなのか?」と考えるようになりました。周囲の期待に応えることが全てだった競技者人生の中で、はじめて自分自身にベクトルを向けて考えることができたんですね。

30代にしてゼロベースで「自分の幸福とは何か」を考えることになったんですが、これが競技者としてメダルを目指すよりも、ずっとしんどかった。でも、これまでの10年間「自分の幸福」について考え続けたことが、今の活動につながっているんだと思います。

末續選手が伝えたい「アース」に込められた意味

ーーその活動のひとつが、オンラインサロンでもあるんですね。ところで、末續選手のオンラインサロン名にある「アースな世界」というキーワードが気になったのですが、これにはどんな意味が込められているのでしょうか?

僕は競技者時代から、自己完結型の勝利は性に合わなかったんですよね。誰かと勝負する、誰かと勝利を喜ぶという、相手と感情を積み重ねて共有することが好きでした。

自分の外の存在と密接に関わる距離感。そういう壮大な感覚が昔からあって、地球規模の大きさを感じられる「アース」という言葉が好きなんですよ。それと、見た人に「これなんだ?」っていう疑問を感じてほしいという思いもあって。

分かりそうで分からない言葉なので、人によっては違和感を覚えるかもしれません。そうやって「ん?」って思ったとき、人の心は大きく動くんですよね。だから、「アース」というのは、相手の知的好奇心を呼び起こす言葉だなと。

アスリートというジャンルがあるだけ

ーー末續選手が「走る楽しさ」を伝える活動の根底には、どんな思いあるのでしょうか?

陸上に限らず、「競技会や大会で戦うアスリートがそのジャンルにおける最高峰」というスポーツ観を持った人が、今の日本には多いと思います。

確かに、記録を競うので、それなりの技術がないと到達できないし、若い世代が多く集まっている。さらに、公平であるために、ルールはシビアでドーピングもNGとなれば、三角形の頂点に位置する非常にシャープな領域という印象を受けるのも無理はありません。

でも、実は違うんです。

こういう世界は、あくまでも「競技スポーツ」という、スポーツの一つのジャンルに過ぎません。ほかにも、ただスポーツを楽しみたいという人のためのジャンルや、自分はプレイしないけど選手を応援したいという人のためのジャンルなど、さまざまなジャンルがあります。これら全てのジャンルに、誰が関わってもいい。それが、スポーツの思想基盤なんですよ。

ーー私もまさに、プロ選手やオリンピック選手が三角形の頂点にいるという考え方でした。

そうですよね(笑)。でも、スポーツってシンプルで、やりたいと思えばやればいい。競技力向上だけを考えるのが、スポーツではありません。あくまでも「自分はどうしたいか」という、欲求が大切なんです。

僕は皆さんに、走ることにもっと触れてほしいと思っています。走り方やメンタル、楽しみ方など、僕には「走る」ことに関する引き出しがたくさんあるので、皆さんの欲求に対して自分の提供できるものを伝えていきたいなと。

「競技スポーツ」というひとつの見方しかないと、若い選手と比較したり、いい記録を出したりという視点しかありません。でも、生涯的な視点を持てば、純粋にスポーツを楽しむことができるんです。

 

ーー確かに…。私は陸上がなんとなく苦手に感じていたんですが、その根底にあるのは、学生時代に速く走れないことに対するコンプレックスから来ている気がします。

学生時代の苦手意識から、スポーツが嫌いになってしまう人は多いですよね。その原因は、「スポーツセンス」が社会的価値を主張しすぎたことにあると思います。スポーツが神格化されすぎて、近づけなくなったとも言えますね。

「ヘタだから」というのは、あくまでも競技スポーツができなかっただけなので、本来スポーツを辞める理由にはならないんですよ。「運動が苦手」という人でも、そんなの全然気にせずスポーツを楽しめばいい。むしろそういう人たちが圧倒的マジョリティで、アスリートはマイノリティなんですから。

もっと肩の荷を下ろして、走ることを楽しもう

ーースポーツをするなら、上達しないといけない。そういう考え方があったので、今の話はとても新鮮に聞こえます。

生涯スポーツという観点であれば、ヘタであることをコンプレックスに感じる必要はないんですね。好きでやりたいなら、やっていいんです。

よく僕は、「競技スポーツは努力を努力と思わせる努力がたくさん存在する」と言います。

 

ーー「努力と努力と思わせる努力」ですか?

例えば、仕事をしていてやる気がない、どうやって頑張ればいいか分からない社員がいるとします。すると上司が、こうやって頑張るんだという「頑張り方」を教えるわけです。日本の陸上競技界でも、こういう努力の方法を伝えるシーンをよく目にします。

でも、僕が伝えたいのは「もっと肩の荷を下ろそうよ」ということ。頑張ろうとしなくても、自然と頑張れる好きなことをやるのが一番なので、もっと知的好奇心に従ってスポーツを楽しもうと声を大にして言いたいですね。

上昇志向でひたすら勤勉という考え方は、覚醒剤のようなもので、必ずどこかで効果が切れて挫折してしまいます。そうではなくて、自分軸の自由な発想で「走る」ことを選び、走る場所を選んで欲しい。それを伝える場所のひとつが、今回立ち上げたオンラインサロンです。

 

ーー末續選手が、オンラインサロンでどう走る楽しさを伝えていくのか楽しみです。

オンラインサロンというツールで、新しいコミュニケーションの形をつくっていきたいですね。通り一遍に僕の知識を垂れ流すんじゃなく、会員さんの考えも感じ取れる交流や企画ができたら楽しそうだなと。

まだまだ始めたばかりなので、これから自分のオンラインサロンがどんな風に形成されていくのか、生き物のように扱っていきたいですね。

陸上をしている人、スポーツを楽しんでいる人、ものごとに挑戦している人、挫折した人、いずれにも該当しない人。さまざまな属性の人に、自分が感じているスポーツへの疑問を僕にぶつけてきてほしい。

僕は自分のことを、単に「スポーツを頑張っている兄ちゃん」程度にしか思っていません(笑)。分からないことがあったら、何でも聞いてよというスタンスでお待ちしています。

 

競技スポーツは、ひとつのジャンルに過ぎない。世界の最高峰を知る末續選手は、迷いもなくそう断言しました。うまい・ヘタという世界を飛び出て、「走りたい」と思った瞬間があれば走ればいい。そう考えれば考えるほど、あれだけ敬遠していた「走る」ことが、少しだけワクワクするものに見えてきます。

アスリートはアスリートとして、趣味の人は趣味として。「かけっこ」の楽しさを再発見してくれる、末續選手オンラインサロン「末續慎吾の部屋ですが? 〜アースな世界へようこそ〜」を、少しだけのぞいてみませんか?

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