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五戸美樹のごのへのごろく〜女子アナの声が高過ぎる問題<前編> 〜

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五戸美樹のごのへのごろく〜女子アナの声が高過ぎる問題<前編> 〜
《 本日のごのへのごろく 「その声の 理由はひとつじゃ ないんです」》 

 「最近のアナウンサーは声が高くてダメ」。大ベテランの先輩アナウンサーからよくいただくご指摘です。確かに、地声よりも過剰に上ずった高い声で放送に出ている20代〜30代の女性アナウンサーはとても多くなっています。声が高くなる理由は、“ぶりっ子”だから? いえいえ、実は時代背景や社会情勢が大きく関わっているんです。連載『ごのへのごろく』トーク編第39回、今回は「昨今の女性アナウンサーの声の理由」です。 

 ■声の低いアナウンサーは大先輩■

このコラムでもおなじみ、声と脳の専門家・山崎広子先生に取材しました。山崎先生は著書の中でも、近年の女性アナウンサーの声の高さを取り上げています。

まず、声が高くなる理由を分析するにあたり、声の低いアナウンサーについて考えていきます。落ち着いた低い声のアナウンサー、例えば、吉川美代子アナウンサーです。1977年、TBSに入社し、定年退職後の現在はフリーアナウンサーとして活躍されています。私にとっては、学生時代通っていたTBSアナウンススクールの、当時の校長先生です。(吉川先生を分析するのは恐縮ですが…時代を代表する低く落ち着いた声の持ち主でいらっしゃるので、取り上げさせていただきます)

 ■時代を映す環境音フィードバック■

人の声は、「環境音フィードバック」が関係します。これは、周りの声の高さ・低さに無意識に合わせてしまうという現象です。

1980年代、バブル期に入ると、一般女性の声は次第に低くなっていきました。男女雇用機会均等法が成立し、女性もバリバリ働くようになったことなどがその理由です。

それに伴い女性アナウンサーの声も低くなっていきました。環境音フィードバックによるものと、当時の女性アナウンサーに関しては、帰国子女が増えたこと、また背の高い方が増えたことも挙げられます。

 ■できる女性アナウンサーの声に■

また、吉川アナウンサーはかつて「女がニュースを読めるか」と言われるような時代があったと話されています。男性と肩を並べて働くため、低く落ち着いた声でアナウンスするのは必然だったと言えます。

山崎先生は吉川アナウンサーの声を「まさしくバブルの時期の“できる女性アナウンサー”の声。身長もありますし、顔の骨格もしっかりしていて、低い良い声の素質もあった」と分析されています。

このように、女性アナウンサーの声の高さは、時代を反映している面があります。

 ■女性の声を高くしたバブル崩壊■

バブル崩壊後、一般女性の声は次第に高くなっていきます。社会が不安定になり、緊張感が高まり、全身の筋肉は硬くなって、固く張り詰めた声になるので、声の高い人が増えていきました。やはりそれに伴って、女性アナウンサーの声も高くなっていきます。

高い声の女性アナウンサー、例えばテレビ朝日の弘中綾香アナウンサーの声をみてみましょう。(他にも高い声の女子アナいっぱいいるのに、ごめんなさいね。弘中さんのトーク内容が面白くて好きなので、それだけに声の高さが気になってしまいまして)

 ■2000年代の女子アナの高さ■

弘中アナウンサーは1991年生まれ、2013年入社。吉川アナウンサーより身長が低いので、地声は弘中アナウンサーのほうが高くはなりますが、今放送で話している声は、地声よりもずいぶん高く、うわずって聞こえます。

山崎先生は弘中アナウンサーの声について「いかにも2000年代の声。こわばっているとともに、喉頭をしぼりあげて声道を短くしているのも確か。作為的に感じられる」と分析されています。

私は弘中アナウンサーに会ったことはありませんが、弘中さん自身が打算的な女性というより、とても器用な方なんじゃないかと思います。あまりに器用だから、周りの男性ディレクターの期待に応え、また、高い声の先輩アナウンサーの声を、見事に再現してしまっているのではないかとみています。

 ■ごめんなさい。私の声も高かった■

何を隠そう、私自身が、局アナ時代、ナレーションで無理をして声を高く出していた頃がありました。新入社員時代から、入社4年目くらいまでです…。今の声になるまでに、ずいぶん遠回りをしてしまいました。

私の場合は、新人の頃、放送で流れた自分の声を聞いて、ぼやっとした不安定な声で、良い声の先輩方と比較して、愕然とした覚えがあります。20〜30代の先輩方は、高くて良い声だと思い、先輩のナレーションを聞きながら、同じ音程で読む練習をして、意識的に高い声を獲得しようとしていました。

残念ながらこれが大きな失敗で、先輩は小柄で細い方が多く、地声からして私より高かったんです。私は身長が165cmあり体格も良く、もっと低い声のはずでしたが、当時は見失っていました。

 ■ポイントはミラーリングシステム■

さて、「環境音フィードバック」で声は周りからの影響を受けますが、ではなぜ、私や弘中アナウンサーは、吉川アナウンサーの声に似ずに、比較的年齢の近い先輩に似るのでしょうか? また、吉川アナウンサーは、なぜ後輩たちの声に引っ張られないのでしょうか?

これは「ミラーリングシステム」によるものと考えられます。

脳には「ミラーニューロン」という共感や同調に関わるニューロンがあると言われています(発見されたのが2000年前後で、異論もたくさんありますが)。たとえば人が刺された写真を見ると、なんだか自分も痛くなるような気がしたり、目の前にいる人が微笑んでいると、自分も気がつかないうちに微笑みの表情筋が動く…これがミラーリングシステムでよく例として出されるものです。

 ■目標とする先輩の声は鏡のように■

声も同じで、好きなタレントの声に無意識に似せてしまうことや、すごく喉頭を締め上げて話している人と会話していると、自分の喉も苦しくなってきます。

環境音フィードバックよりもミラーリングシステムは自覚的です。声に似せようということではなく、相手に対して意識がフォーカスする、つまり、比較的年齢の近い先輩のアナウンスを注意深く聴いている・参考にすることによって、声にミラーリングが起きるということ。

後輩に対しては正直どうでもよかったりする、だから意識がフォーカスしない、そのためあまり似ることはない、ということです。

(後編・社会への影響と改善策について、に続く)


「第63回・元ニッポン放送アナウンサー五戸美樹のごのへのごろく」
 【参考図書】
山崎広子先生の著書『声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(NHK出版新書)、『8割の人は自分の声が嫌い 心に届く声、伝わる声』(角川新書)、『人生を変える「声」の力』(NHK出版)。

◆山崎広子(やまざき・ひろこ)
国立音楽大学卒業後、複数の大学で音声学と心理学を学ぶ。音が人間の心身に与える影響を、認知心理学、聴覚心理学の分野から研究。音声の分析は3万例以上におよぶ。また音楽・音声ジャーナリストとして音の現場を取材し、音楽誌や教材等への執筆多数。「音・人・心 研究所」創設理事。NHKラジオで講座を担当したほか、講演等で音と声の素晴らしさを伝え続けている。

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