甘い営業に流されるな!減価償却による節税目的不動産投資に注意。
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近年、医師などの医療従事者をターゲットにした「減価償却を利用した節税目的の不動産投資」の営業が増えています。
「建物割合を高くできます」「5年間保有すれば節税が完了します」「税理士監修済みなので安心です」
こうした甘い言葉と共に、築古物件や価値の低い不動産が高値で売られるケースが目立ちます。
減価償却と長期譲渡所得の税率差を利用した節税は、仕組みとしては存在します。しかし、それを目的に不動産を買うと、割高な物件を掴まされ、修繕・空室・税務否認・出口不能といったリスクに巻き込まれることがあります。
本記事では、まず節税スキームの前提となる基礎を軽く整理した上で、節税目的不動産投資の危険性、節税目的不動産投資の見方、取るべきスタンスについて解説します。
「節税になるから」という理由だけで不動産を買わないために、ぜひ一度目を通していただきたい内容です。
なお、この記事で触れる物件は、区分マンションではなく1棟アパート・1棟マンションです。
なぜ今、医師向け「節税不動産」が急増しているのか
ここ数年、医師をターゲットにした「不動産で節税できます」という営業が一気に増えてきました。
表向きは「税金を減らしながら資産形成ができる」という美味しそうな話ですが、実態はもっと単純で、そして危険を孕んでいます。
・高所得で税率が高い
・将来の資産形成に漠然とした不安を感じている
・忙しくて情報収集の時間がない
・融資が通りやすい
という属性の方が営業の対象になりやすいです。
「節税メリット」を強調するために、価値の低い築古物件を高値で売りつけるというビジネスが広がっています。
本記事で紹介する節税スキーム目的で不動産を買う人の多くは「自分は賢い」と思っていることでしょう。
確かに減価償却や土地建物按分の仕組みを理解しておくことは重要です。
最もやってはいけない不動産投資である「新築ワンルーム区分マンション投資」に比べるとマシですが、減価償却による節税目的の不動産もまた、大きく損する可能性があります。
参考:
新築区分ワンルームマンション投資は儲からない!
https://lounge.dmm.com/detail/8268/content/43211/
減価償却を利用した節税スキームとは
本題の「注意喚起」に入る前に、まず営業トークの前提になっている節税スキームを簡単に振り返りましょう。
・減価償却の基本
・減価償却と長期譲渡所得の税率差を利用した節税
・「不動産を購入したら土地・建物のうち建物価格を多くしよう」の注意点
については、以下のコンテンツで解説しています。基本から確認する場合は、こちらのコンテンツをご確認ください。
参考:
【不動産全般】不動産投資で実現できる正しい(個人)所得税・住民税の節税
https://lounge.dmm.com/detail/8268/content/37376/
ここでは、要点部分のみ書きますね。
減価償却 × 長期譲渡の税率差を使った節税
個人が不動産を保有すると、建物部分は毎年「減価償却費」として経費にできます。
そして、売却すると「譲渡所得税」がかかるのですが、
・5年以内の売却:短期譲渡で39.63%課税
・5年超の売却:長期譲渡で20.315%課税
となり、税率に大きな差があります。
この差を利用して、所得税(高い税率)で減価償却を経費計上し、5年超保有後に売却して、低い譲渡所得税率(約20%)で清算する。
というのが「節税になりますよ」という営業のロジックです。
※ 正確には1/1時点で5年以上保有であること。
ちょっと詳しく見てみましょう。
譲渡所得は、不動産の売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)で表されます。
このうち、「取得費」は特に注意が必要です。
「取得費」は物件の購入代金ではなく、売却時までの減価償却費相当額を引いたものです。
建物取得費 = 建物購入価額 - 減価償却費相当額
例を挙げると、5000万円で購入した物件を売却する場合を考えてみましょう。
物件の購入価格:5,000万円
建物の取得価額:3,000万円(5,000万円のうち建物部分が3,000万円、土地部分が2,000万円と仮定)
減価償却費相当額:建物を10年間所有し、年間の減価償却費が200万円だとすると、10年間で2,000万円
この場合、建物の取得費は3,000万円 - 2,000万円 = 1,000万円となります。
この「取得費」を使って、譲渡所得を計算します。
購入時と同じ5,000万円で売れたとすると、ざっくり売却価格5,000万円 - (土地取得費2,000万円 + 建物取得費1,000万円) = 2,000万円に対して譲渡所得税が掛かります(ここでは譲渡費用を考慮せず)。
このように、基本的には減価償却は税金の先送り効果がありますが、税金の圧縮効果はありません。
しかし、個人の場合は、減価償却時と長期譲渡所得の税率差を利用した節税が可能です。
つまり、個人の所得税・住民税の税率で費用を計上しつつ、売却時には長期譲渡所得で20.315%の税金しか払わなければ、その差額が節税になります。
先ほどの例では、10年間で2,000万円分の減価償却費を計上しましたね。個人の税率(所得税+住民税)が50%であれば、1,000万円分の税金が減ったことになります。一方で、長期譲渡税率は2,000万円に対して約20%掛かり、税金は約400万円です。
1,000万円 - 400万円 = 600万円。この600万円が節税できた金額です。
なお、この節税ができるのは所得税+住民税率が30%以上のラインです。
課税所得195万円以下:所得税5% + 住民税10% = 15%
課税所得330万円以下:所得税10% + 住民税10% = 20%
課税所得695万円以下:所得税20% + 住民税10% = 30%
課税所得900万円以下:所得税23% + 住民税10% = 33%
課税所得1,800万円以下:所得税33% + 住民税10% = 43%
課税所得4,000万円以下:所得税40% + 住民税10% = 50%
課税所得4,000万円超:所得税45% + 住民税10% = 55%
課税所得900万円を超えている場合、所得税+住民税率43%以上の部分があります。
1,800万円を超えているなら50%で、特に妙味がある節税になると思います。
しかしこのスキームは、節税が目的ではない儲かる物件を買った場合に副産物として成立するのが理想であり節税のために築古物件を買う=質の低い物件をつかみやすいという落とし穴があります。
土地・建物按分で「建物割合を増やす」とは何か
営業でよく使われるのが「建物価格を大きくすることで減価償却を増やせます」という話です。
仕組みとしては以下の通りです。
・土地は減価償却できない
・建物は減価償却できる
→ 物件価格のうち建物割合を増やした方が節税になる。
ただし現実はそんなに簡単ではありません。
売主が課税事業者か免税事業者かで扱いが違う
・売主が免税事業者なら建物割合が増えても問題ない。
・売主が課税事業者なら、建物を増やすと売主の消費税負担が増えるため利害が衝突する。
固定資産税評価額から乖離しすぎる按分は否認される
2022年9月9日の国税不服審判所裁決では、土地30:建物70という作為的な按分が否認されました。
・売買契約書に合理的な根拠が書かれているか
・固定資産税評価額と大きく乖離していないか
というのが重要で、基本的には固定資産税で按分するのが無難です。
問題はこの仕組みそのものではありません。
問題は、この仕組みを餌にして「価値が低い物件」を高値で売りつける業者が急増していることです。
次章では、この構造を解説します。
節税不動産営業の危険性
ここからがこの記事の中心です。
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