ファイトケミカルの最新情報!!

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ファイトケミカルの最新情報!!
はじめに


わたしのフォロワーさんはすでにたくさんのファイトケミカルを日常に取り入れていると思います。

今日はそのファイトケミカルについて、最新の医学的知識を皆様にお届けする。

ファイトケミカル(phytochemicals)という言葉は、植物が本来持っている生命活動の中で合成される多種多様な二次代謝産物を包括的に指すものである。

植物は紫外線、病原菌、害虫など、さまざまな外的ストレスから自身を守るために防御分子を生み出してきた。

人類は古来より、野菜や果物、豆類、穀物、ハーブなどを通じてこれらの成分を摂取してきたが、当初はその色や香り、味覚など感覚的な特徴として注目されるにとどまっていた。

ファイトケミカルとは!?
しかし二十世紀後半以降の分子生物学や疫学の発展により、これらのファイトケミカルは単なる「色や香りの成分」にとどまらず、体内でさまざまな生理活性を発揮し得ることが明らかになってきた。

とくに注目されるのは、ファイトケミカルが抗酸化物質として直接ラジカルを消去するという従来の理解を超え、細胞内のストレス応答系を調節するシグナル分子として機能する点である。

このような作用は、心血管疾患、糖尿病、がん、認知症といった生活習慣病や加齢関連疾患の発症予防や進展抑制に寄与する可能性があると考えられている。



今回は、主要なファイトケミカル群を整理し、それぞれの代表的な供給源や分子作用機序を解説するとともに、基礎研究や臨床試験から得られた最新のエビデンスをお伝えする。

また、安全性や今後の研究課題についても言及し、臨床応用に向けた展望を論じたい。



1. ファイトケミカルの分類と供給源




ファイトケミカルは数万種類以上存在すると推定されており、現時点でよく研究されている代表的なカテゴリーを挙げると、まずポリフェノール類がある。

ポリフェノールはさらに細分化され、フラボノイド群には茶に豊富に含まれるカテキン、カカオ由来のフラバノール、ブルーベリーなどに含まれるアントシアニン、大豆に含まれるイソフラボンなどが知られている。


フェノール酸としてはコーヒーに多いクロロゲン酸や穀物に多いフェルラ酸がある。
スチルベン類では赤ワインに含まれるレスベラトロールが有名であり、リグナンは亜麻仁に豊富である。



次にカロテノイド類が挙げられる。
βカロテン、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチンといった色素成分は緑黄色野菜やトマトなどに多く、抗酸化や視覚保護に寄与する可能性が示されている。



イソチオシアネート類はアブラナ科野菜に含まれる化合物で、ブロッコリースプラウトに多いスルフォラファンやクレソンに含まれるフェネチルイソチオシアネートが代表的である。

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さらに、含硫化合物としてはニンニクに豊富なアリシンや、タマネギ由来のジアリルスルフィドが知られている。これらは強い香りのもととなると同時に、抗菌・免疫調整作用が期待されている。



最後に、イソフラボン類は大豆製品に豊富であり、代表的なダイゼインやゲニステインは腸内細菌によって代謝され、エクオールという代謝物に変換される場合がある。このエクオールはエストロゲン受容体βに選択的に作用し、骨や血管の保護に関与するとされている。







2. 分子作用機序


2.1 抗酸化作用の再評価


かつてはファイトケミカルの機能は、抗酸化作用に尽きると考えられていた。すなわち、フリーラジカルを直接消去する「スカベンジャー」としての役割である。

しかしながら、生体内におけるファイトケミカルの濃度はそれほど高くなく、直接的なラジカル捕捉効果は限定的であると分かってきた。

現在ではむしろ、細胞内の転写因子Nrf2を活性化させることによって内因性の抗酸化酵素群(ヘムオキシゲナーゼ1、NQO1、グルタチオンSトランスフェラーゼなど)を誘導し、結果的に酸化ストレス耐性を高めるという「間接的抗酸化作用」が主流の理解となっている。





2.2 主要経路


ファイトケミカルが関与する代表的なシグナル経路としては、まずNrf2/ARE経路がある。ブロッコリースプラウト由来のスルフォラファンや茶カテキンはKeap1分子を修飾することによりNrf2の核内移行を促進し、抗酸化酵素の発現を誘導する。



次に、NF-κB経路の抑制が挙げられる。レスベラトロールやフラボノイドの一部は炎症性サイトカインであるIL-6やTNF-αの発現を低下させ、慢性炎症の抑制に寄与する。



また、SIRT1/AMPK経路も重要である。レスベラトロールやウロリチンAなどは代謝調節因子であるAMPKや長寿関連酵素SIRT1を活性化させ、ミトコンドリア機能やエネルギー代謝を改善する。



さらに、ホルモン様作用として、大豆イソフラボンの代謝産物であるエクオールがエストロゲン受容体βに選択的に結合し、骨粗鬆症予防や血管保護に働くとされる。



3. 腸内細菌との相互作用




近年、ファイトケミカルの効果を考えるうえで腸内細菌叢の役割が大きく注目されている。

摂取したファイトケミカルはそのまま吸収されるのではなく、腸内細菌によって代謝されて初めて生理活性を示す場合が少なくない。



例えば、ザクロやベリーに含まれるエラグ酸は腸内で代謝されてウロリチンAとなり、この代謝物がミトコンドリアの機能を改善し、加齢に伴う筋肉機能の低下を抑制することが報告されている(Singhら, 2019)。



また、大豆イソフラボンの一種であるダイゼインは、特定の腸内細菌によってエクオールに変換されることがある。日本人の約半数はエクオール産生者とされ、血管石灰化の進展が抑制される傾向が示されている(Nagataら, 2017)。



さらに、カテキンの代謝物は短鎖脂肪酸の生成を促進し、腸管バリア機能を改善することも知られている。

これらの事実は、ファイトケミカルの効果が摂取者の腸内環境に大きく左右されることを意味し、個別化栄養学の重要性を強く示唆している。





4. 臨床試験エビデンス


ファイトケミカルに関する研究は、基礎実験や動物モデルでの成果にとどまらず、ヒトを対象とした疫学調査や介入試験においても数多くの知見が蓄積されている。

ここでは、代表的な成分群ごとに主要な臨床試験を概観し、そのエビデンスの強さと限界について整理する。



4.1 フラバノール(カカオ・茶)


カカオや緑茶に多く含まれるフラバノール類は、心血管疾患の予防効果を期待して長年研究されてきた。
なかでも注目すべきは、米国で行われた大規模ランダム化比較試験「COSMOS試験」である。この試験では21,000人以上の高齢者を対象に、カカオ抽出物(フラバノールとして500mg/日相当)を平均3.6年間投与し、心血管疾患イベントの発生率を検討した。

その結果、主要複合アウトカムである心筋梗塞や脳卒中の発症に関して有意差は認められなかったものの、探索的解析では心血管死亡が約27%減少するという有意な所見が得られている(Sessoら, 2022)。

この結果は、日常的なフラバノール摂取が心血管系の予後改善に一定の寄与をする可能性を示唆している。



また、Morzeらによる2020年のメタ解析では、複数の介入試験を統合した結果、フラバノール摂取群では収縮期血圧が平均2mmHg程度低下し、インスリン抵抗性の改善が観察された。

このような小さな数値の変化であっても、公衆衛生レベルでは心血管疾患リスクの低減に大きな影響を与える可能性があり、フラバノールの意義は軽視できない。





4.2 スルフォラファン


アブラナ科野菜に含まれるスルフォラファンは、Nrf2経路を活性化させ、解毒酵素や抗酸化酵素を誘導することが知られている。

その臨床的効果を直接示した研究として、中国の大気汚染地域で実施されたZhangらの試験がある。

約300人の成人にブロッコリースプラウト由来のスルフォラファン飲料を与えたところ、発がん性物質であるベンゾ[a]ピレンなどの代謝産物が尿中に有意に増加した。

これは、体内の解毒機構が活性化され、有害物質の排泄が促進されたことを示している。



さらにSinghらは2016年、自閉スペクトラム症の若年男性を対象にスルフォラファンの抽出物を投与した臨床試験を行った。

その結果、社会的相互作用や行動の一部で改善傾向がみられ、神経発達障害への応用可能性が議論されている。ただし対象人数は29名と少なく、プラセボ対照の追試が不可欠である。





4.3 イソフラボン・エクオール




大豆イソフラボンは日本や東アジアにおいて長年食生活の中心を占めてきた成分である。
Nagataらは日本人を対象とした研究で、エクオール産生者と非産生者の血管石灰化を比較し、前者において大動脈石灰化の進展が有意に抑制されていることを報告した(Nagataら, 2017)。

この知見は、腸内細菌による代謝の有無が臨床効果に直結する好例であり、今後の個別化栄養学の基盤となる。



さらにTakuらによる2010年のメタ解析では、閉経後女性を中心とした11の臨床試験を統合した結果、大豆イソフラボンの摂取によりLDLコレステロールが平均5%低下することが示された。

このような脂質改善効果は、心血管疾患予防に寄与する可能性がある。





4.4 ウロリチンA


ザクロやベリーに含まれるエラグ酸が腸内細菌により代謝されて生成するウロリチンAは、ミトコンドリアの機能を改善することが基礎研究で報告されている。

2019年にSinghらが発表した臨床試験では、中高年76名を対象にウロリチンAを500mg/日、4週間投与したところ、骨格筋におけるミトコンドリア関連遺伝子の発現が上昇し、歩行持久力の改善が確認された。

加齢に伴うサルコペニアやフレイルの予防介入として、今後さらに大規模試験が望まれる分野である。





4.5 カロテノイド


ビタミンA前駆体でもあるβカロテンは、かつて抗酸化作用を期待して大規模臨床試験が行われたが、その結果は必ずしも期待通りではなかった。

1994年に報告されたフィンランドのATBC試験では、喫煙男性を対象にβカロテン20mg/日を投与したところ、むしろ肺がん発症リスクが上昇するという予期せぬ結果が得られた。

この事実は、高用量サプリメントの使用に警鐘を鳴らすものとして重要である。



一方で、加齢黄斑変性症(AMD)に関しては肯定的な結果もある。2013年に報告されたAREDS2試験では、ルテインとゼアキサンチンの投与によりAMDの進行が有意に抑制された。

したがって、カロテノイドは疾患や集団特性に応じて効果が異なることが明らかであり、個別の背景に応じた適正使用が求められる。







5. 安全性


ファイトケミカルは基本的には食品由来であり、安全性が高いと考えられている。
しかしながら、サプリメントや高用量投与となるとリスクも存在する。前述のβカロテンの肺がんリスク増加はその典型である。

また、緑茶抽出物に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)についても、高用量を含むサプリメントではまれに肝障害が報告されている。



さらに、グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類はCYP3A4を阻害し、カルシウム拮抗薬やスタチンなど複数の薬剤の血中濃度を上昇させる可能性がある。したがって、薬物治療中の患者においては注意が必要である。



加えて、ウコン粉末に鉛が不正に混入されていた事例がインドやバングラデシュで報告されており、サプリメントや健康食品の品質管理も安全性確保に不可欠である。







6. 今後の研究課題




ファイトケミカル研究の今後の方向性として、第一に挙げられるのは個別化栄養学である。

腸内細菌叢の構成は個人差が大きく、エクオールやウロリチンAといった代謝産物の生成能によって効果が左右されるため、パーソナライズド栄養介入が求められる。



第二に、用量反応関係の明確化が必要である。食品から摂取するレベルであれば有益であっても、高用量サプリメントでは有害となる場合がある。

今後は「どの範囲が安全かつ有効なのか」を精緻に定義する研究が不可欠である。

第三に、長期アウトカム試験が不足している点が挙げられる。現状では短期的なバイオマーカーの改善を示す研究が多いが、最終的に疾患発症率や死亡率といったハードエンドポイントに影響を及ぼすかどうかは十分に検証されていない。

今後、大規模かつ長期的な臨床試験が求められる。




まとめ


ファイトケミカルは、従来の「抗酸化物質」という枠を超えて、細胞内シグナルの調節や腸内細菌との共代謝を通じて多面的に健康に寄与する可能性がある。

食品として日常的に摂取する範囲では心血管、代謝、加齢関連疾患の予防に一定の利益が見込まれる一方、サプリメントとして高用量を摂取する場合はリスクがあることも忘れてはならない。

今後は腸内細菌叢の個人差を考慮した精緻な研究と、長期アウトカムを見据えた臨床試験の蓄積が待たれる。

皆様が普段から食べているものが最強の薬だと証明される日は近い。





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