【note有料記事】 賞レースが苦手な落語家が日本一を取った話①~③

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【note有料記事】 賞レースが苦手な落語家が日本一を取った話①~③

賞レースが苦手な落語家が日本一を取った話①

人と競うことが苦手だ。

子どもの頃から、勉強やスポーツ、何をやっても優劣をつけられ、そのたびに落ち込んできた。

その点、芸術は違うと思う。優劣ではなく、並行して存在するもの。交わらないからこそ、好きだ。
落語も同じ。好きにやっていて、人と比べられるものではない。そう思うからこそ、好きなのだ。

しかし、賞レースという存在は時々、そんな僕の心のオアシスに土足で踏み込んでくる。

常連のお客さまの中にも「賞を取ってほしい」と思う方は多い。
それに、現実問題として、賞を取るか取らないかが仕事に影響する。

芸ひとつで食べていくなら、そりゃ賞は取ったほうがいい。
仕事に繋がるわけだから、きれいごとばかり言ってはいられない。

それでも、苦手なものは苦手だ。

しかも、落語の賞レースでは、僕が特に苦手とする要素が求められていると感じていた。
それは、「いかにお客を、審査員を驚かせるか」ということ。

驚かせる手段には、大きく二通りあると思っている。
ひとつは 圧倒的な力量。
もうひとつは 斬新な工夫。

ただ、二ツ目と呼ばれる僕ら若手の中に、圧倒的な力量を持つ者はほとんどいない。ごく稀にいるけれど、本当に例外的な存在だ。
芸事は蓄積だ。若手はどうしたって、まだ若手レベルにすぎない。

だからこそ、出場者たちは「斬新な工夫」で勝負する。
そして、現在の賞レースは、まさにその「工夫」のオンパレードになっていると感じる。

工夫によって、人を驚かせる。
その工夫が他者より優れていれば、賞を取れる。
そういう世界だ。

だが、僕にはそれがどうしてもできない。

芸の中で、そういう感性が欠けているのかもしれない。
人より優れていると思わせるための工夫を、計算して構成する。
そのことを考え始めると、落ち込んでしまうのだ。

美しいオアシスから引きずり出され、
また争いの場に駆り出されるのか、と……。

ここまでが、僕が賞レースを苦手としてきた理由であり、
そして今思えば、それこそが今回 「公推協杯 全国若手落語家選手権」で日本一を取った、根源的な理由 でもあった。

本戦までの最後の10日間。
僕は「争い」と、そのための「計算」に疲れ切ってしまい、ついに心が折れた。
そして、あろうことか、ドロップアウトしてしまったのだ。

つまり、勝ちにいくことを完全に放棄した。

【続く】

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