【note無料記事】 芸論禁止

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【note無料記事】 芸論禁止
生業である以上、落語のことを一日15時間以上は考えて生活している。
それを365日、毎日繰り返している。

プロなら、落語に限らず、どんな分野でもきっとそうだ。

そんなプロに対して、素人が数十分で思いついたことを気軽に投げかけてしまう──
その感じが、正直ちょっとキツい。

「ああした方がいい」「こうしてみたらどうか?」
言う側からすれば、何気なく言っているつもりなのかもしれないが、短慮というか、まがいなりにもプロ相手にそういったことをペラペラと喋ってしまうような発言の中に、経験上「なるほど、そうきたか」と唸らされるような意見があったことは、申し訳ないが、まずない。

大抵は、演芸に対する解像度がかなり低くて、こちらとしては
「……この方には、一体どこから説明すれば伝わるのだろうか」
と、頭を抱えてしまう。

そういう相手に時間を使っても、得るものは殆どないし、こちらもただただ疲れるだけだ。

こんなことを考える背景には、我々の活動には避けて通れない「打ち上げ」という文化がある。

その日の演者を囲んで、お客さんと一緒に飲み食いをする──
今風に言えば、アイドルの“オフ会”みたいなものと言えば伝わるだろうか。
小規模な落語会などで、時折見かける。

この打ち上げ、参加料を払えば基本的に誰でも参加できるようになっているため、しばしばトラブルも起こる。

今回言及しているのは、演者と“芸論”を語りたがるタイプの方について。
普段は穏やかな方でも、お酒が入るとそうなってしまうこともある。

我々としても、少人数での会食ならまだしも、他の善良なお客さんとの時間を削ってまで、そういった「芸論もどき」に付き合うのは、正直言ってしんどい。
自分がその相手に捕まっている間に、他の参加者がつまらなそうにしているのが見えると、なおさら気が滅入る。

そこに「もっとこうするべきだ」なんて話まで飛び出してきたら、もう、こっちとしては追加料金をいただきたいくらいだ。
演者を独占したうえに、自分のアイデアを一方的にぶつけて気持ち良くなろうとする──そんなサービスは、やっていない。

で、僕もこう見えて真面目な性格だから、「はいはい、なるほど」と聞き流せない。
「それはですね……」と、ある程度までは穏やかに、けれども、出来る限りは情報の訂正や発想のズレを指摘してしまう。

本当に不毛だと思う。しかし、自分が命を削って作り上げた高座や活動に、明らかにズレた軽口でケチをつけられてしまうと、見逃せない性格で、
いわゆる「論破」を試みてしまう。

で、そのやり取りに時間を取られていたことに、後からさらに腹が立ってくる。

また、お客さん同士でのそういった会話も危険である。気軽な主張は無意識に相手の価値観を否定しかねない。

なんということを、ここに綴っているのは──そう。このあいだの某打ち上げで、久しぶりに「アララ…」と思うことがあった。

つまり、先述したような軽度の迷惑行為が発生し、僕は勿論、それまで全体で楽しく喋っていたのがそうなってしまったので、他の参加者の方々も困ってしまっていたと後で聞かされた。

それから問題意識を持つようになり、いま、ここに記している。

さらに、ある決断もしたので、その宣言でもある。

打ち上げは、本来もっと、楽しく交流できる場であってほしい。
だからこそ、今後僕がいる打ち上げの場では、“芸論”は一切禁止にすることに決めた。

「〇〇さんが好き」「〇〇師匠を見に行った」──これはOK。
「〇〇師匠は昔はこうだったけど、今はこうだ」──これはグレー。
「△△さんがこうだったから、〇〇さんにもこうしてほしい!」──これはアウト。

芸に関する自分の”意見”を”主張”した時点で、アウトです。難しい線引きだけれど、”好み”を”発表”するぐらいはOKという感じ。

「××なのが好き」はOKだけれど「みんな××であるべきだ」などの主張や、あとは「××についてごはんつぶさんはどう思いますか?」もアウトかも知れない。

つまり、僕の主張を訊くのもやめにしましょう。

どうしてって、

そんな話は
どこまでいっても、野暮なのだから。

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