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一宮に栄…地名アクセントはどっちが正しい!?〜ごのへのごろく〜

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一宮に栄…地名アクセントはどっちが正しい!?〜ごのへのごろく〜

《 本日のごのへのごろく 「アクセント 辞書の編修 最敬礼」》


8月22日(土)のラジオ番組『オードリーのオールナイトニッポン』を聞いていたら、愛知県の一宮市(いちのみやし)のアクセントを「チ」から上がる「イ/チノミヤ」と言ったら、地元の方に途中で下がる「イ/チノ\ミヤ」だと言われ、名古屋市中心部の栄(さかえ)を「サ\カエ」と言ったら、「サ/カエ」だと言われてしまった、そんなお話がありました。アクセントはどちらが適切なのか、そもそも日本語のアクセントとは何なのか、考えていきます。トーク編コラム「日本語のアクセント」。

 ■アナウンサー試験で苦労するアクセント■

アナウンサー試験を受ける学生が「月」のアクセントで苦労することがよくあります。これまで発音していたアクセントとは違った発音を矯正されるからです。

苦労しがちなのは「二月」「四月」「十二月」。「ニ\ガツ」(頭高型)ではなく、「ニ/ガツ」(平板型)、「シ\ガツ」(頭高型)ではなく、「シ/ガツ」(平板型)、「ジュー/ニ\ガツ」(中高型)ではなく、「ジュ/ーニガツ」(平板型)ですよと習います。

「正しいアクセントで発音することが正義である」と思われがちですが、日本語は「正誤」の価値観があまり当てはまらない言語であるということは以前にも記載した通りです。(【「ら抜き言葉」は間違っていない】https://www.nikkansports.com/entertainment/column/gonohe/news/202001250000176.html )

ただ、アナウンサーの場合は、放送局ごとに規定がありますので、ルールに則るのがいいかと思います。

 ■日本語は強弱アクセントではない■

アクセントを考える上で大事なことは、“日本語のアクセント”は「強弱ではない」ということです。多くの日本人は学校で日本語のアクセントを一度も習わずに、英語のアクセントを習うので、「アクセント=強弱」と考えやすいです。“日本語のアクセント”は「個々の語について定まっている高低の配置」です。

日本語はすべての語が「低い部分」と「高い部分」に分けられます。「橋」の時は「シ」を高く言う、「箸」の時は「シ」を低く言う、これらの語を日本人はほとんど無意識に発音しています。高低の配置といっても、その「低い部分」と「高い部分」の開きが、音楽でいう1音2音といった細かいものではなく、ただ「上がっているか」「下がっているか」程度のごく大まかなものです。

もちろん日常の発音で、ある部分を強く言うことはありますが、それは感情を込めて言う場合であって、それぞれの単語に強弱の決まりはありません。日本語学では、英語は「強弱アクセント」、日本語は「高低アクセント」と区別して呼ぶことが多いです。

 ■日本語アクセントの種類■

日本語の高低アクセントの型はおおまかに言って4種類です。

「平板型(へいばんがた)」。二音節目から上がって、そのまま下がらずに助詞に繋がるアクセントです。例:「日」「鳥」「桜」「友達」「隣村」「紫色」

「尾高型(おだかがた)」。途中で上がって、助詞で下がるアクセントです。例:「花」「男」「妹」「お正月」「十一月」

「中高型(なかだかがた)」。途中で上がって、語の途中で下がるアクセントです。例:「心」「湖」「相合い傘」「うぐいす」「夏休み」「子供心」「同い年」

「頭高型(あたまだかがた)」。最初が高くて、二音節目から下がるアクセントです。例:「火」「雨」「命」「富士山」「アクセント」「東海道」

アナウンサーの方でまれに「最近の若い人はなんでもかんでも平板にする。日本語の伝統をわかっていない」といった発言をされる方がいますが、元々平板型の語は数え切れないほどあります。外来語で本来は頭高の「サークル」などは、丸を表す時は頭高、クラブ活動を表す時は平板、と区別する傾向も見られます。「メール」などは世代問わず平板化しています。

 ■地名のアクセント■

さて、日本語のアクセントは地方によって激しい違いがあります。方言ですね。では地名はどう発音するのがふさわしいでしょうか。

『新明解日本語アクセント辞典』には多用される地名と、東京都区内の地名が東京語のアクセントのみ掲載されています。東京以外の地名は地元のアクセントと一致しないことが多く、あまりに複雑なので辞書では割愛されており、「地元では地元の発音・アクセントで発音することが望ましい」とされています。

愛知の例を『新明解日本語アクセント辞典』で見ていきましょう。

一宮は「イ/チノ\ミヤ」(中高型)

栄「サ/カエ」(平板型)と「サ/カ\エ」(中高型)

一宮と栄は地元の発音と同じアクセントが辞書に載っています。

一方、「名古屋」は東京では「ナ\ゴヤ」(頭高)ですが、地元の伝統的な発音は「ナ/ゴヤ」(平板)です。でも「ナ\ゴヤ」と地元で言って変だと言われることはあまりありませんよね。

ここからは私の仮定ですが、都道府県や県庁所在地は東京アクセントがふさわしく、主要都市名は地元のアクセントがふさわしいと考えている人が多いのではないかと考えています。

例えば埼玉の熊谷は、東京アクセントでは「ク/マ\ガヤ」(中高型)ですが、地元では「ク/マガヤ」(平板型)です。私は埼玉県民なので、「ク/マ\ガヤ」という発音を聞くと「違うんだけどな」と思うことがあります。

 ■日本語アクセントについての考察■

『新明解日本語アクセント辞典』には「全国の日本語の中で、特に東京の言葉だけが正しい言葉で、ほかの地方の言葉はまちがった言葉だという行き方に私は反対である」と、監修の金田一春彦さんの言葉が載っています。そしてアクセント辞典は、「アクセントの区別のある方たちが、標準アクセントをマスターする際にも、大いに役立つものと思う」と書かれています。

日本語のアクセントの答えは、まさにこの金田一先生の考えの通りではないかと思います。膨大な語彙の収集と調査によって、東京アクセントが共通語として辞書に掲載されるのはとても意味のある素晴らしいことで、かつ辞書を作っている方が“これだけが正しいっていうわけじゃないよ”とおっしゃっているのですから、東京の発音じゃないからおかしいと言うのも、地名が地元の発音じゃないからおかしいというのも、どっちもふさわしくはなく、自分がネイティブな地方のアクセントで発音して問題はなく、迷ったら辞書を引くのがいいのだろうと思います。

ちなみに、名字でも、その名字が多い地域には、地元のアクセントがあります。私の名前「五戸」(ごのへ)は、青森県に多い名字で、地元では「ゴ/ノヘ」(平板型)ですが、私の親は東京に出てきてから頭高で名乗るようになったので、私もそれにならって「ゴ\ノヘ」と発音しています。しかし、「ゴ/ノヘ」と発音しないのはおかしい、と指摘する方がまれにいます。私としては「青森」を地元のアクセントで言わないのに、「五戸」だけ地元のアクセントにするほうが違和感があります。


参考文献:『新明解日本語アクセント辞典』
実際のアクセント表記は単語の上に棒線ですが、WEB連載の仕様上、上がるところを「/」下がるところを「\」としています。

【五戸美樹】(コラム「第84回・元ニッポン放送アナウンサー五戸美樹のごのへのごろく」)(題79回までは日刊スポーツコムに掲載し、オンラインサロンのライブラリに抜粋。第80回以降ライブラリにのみ掲載)

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