小説の批評が受け入れられず作品を改稿できない場合の対処法
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Q.作家志望の方からの質問
昨年末から自作の小説の批評に対して、極端なほどガードが強まっており、それが抑えられないでいます。
プロの方に意見を伺う機会があったのですが、「改稿に対するガードが強すぎるので、それを取り払う必要がある」と言われました。
もちろん、意見を素直に聞ければ改善が見込めるのでしょうが、「意見を極端なほど受け入れられなくなっている病」になっています。
改善に繋がるアドバイスを頂けますと幸いでございます。
A.プロのラノベ作家が回答します
自分が頑張って書いた作品だからこそ、他人からの批評は受けたくないし受け入れたくも無いという発想は、文章を書く人間であれば持って当然の感情です。
それに罪悪を感じる必要は一切ないと思われます。(むしろそれが本来正常なのかな…とも思います。)
仮の話ですが、例えば幼稚園生や小学生のお子様がいたとして、その子が学校や園の課外授業でじゃがいもやにんじんを育てたとします。
それら野菜が無事に収穫をむかえ、スーパーで売られているものよりも大きさが小さくて形が悪いことが分かったとしても。自分で頑張って育てたのだからとその子はその野菜を家に持ち帰り、「自分で育てたから美味しい」といって食べるというのが正常な行動かと個人的には思います。
逆にもしもその子が、自分が育てた野菜が大きさや形が悪いことが分かった瞬間に「できが悪い」といってその収穫したばかりのじゃがいもやにんじんを畑に投げ捨て、次の野菜を育てようと新しい種植えを始めたら。その子は誤解を恐れず言えばどこかサイコパス的というか、かなり残酷であり普通ではない=異常な行動であると個人的には思います。
しかし、プロ作家を目指すにあたって体得しなければいけないのは、まさにそのような残酷さと異常性ですあるのも確かです。
(そういった意味ではこちらの考え方の方が寧ろ病的であり、改稿したくないという病にかかっているのではなく、一定の残酷さをもとに平気で改稿に踏み切れる病に積極的にかからなければいけないという状況であるのかもしれません。育てた野菜を平気で捨てられるという異常性は、頑張って書いた原稿を平気で捨てられるという異常性はある意味似ているので…。)
それを踏まえた上で、人の意見や批評を受け入れ、"批評に応じて自分の頑張って書いた原稿を平気で捨てられるor改稿に踏み切れるという異常性"をしっかり獲得していく方法としては、以下のようなやり方があると思われます。
①小説に限らず、全ての作品に対する評価は全て「絶対価値の評価」+「思い入れによる評価」の足し算であるという事実をまず認める。
絶対価値の評価というのは、その作品が持つ絶対的な評価です。
育てたじゃがいもを作品と考えるのであれば、じゃがいもの絶対価値とは、十分に大きいこと、形がよいこと、味が良いこと等の、そのじゃがいもが持つ絶対的な価値にあたる評価です。
思い入れによる評価というのは、その作品がもつ絶対価値とは関係ない、その作品の外部にある心理的な要因です。
じゃがいもに例えれば、「このじゃがいもは私が頑張って育てた」「このじゃがいもは、私が大好きな芸能人がテレビで美味しいと言っている」「このじゃがいもは私がわざわざ車で10時間かけて北海道の農場まで買いに行った(から美味しいに決まっている)」といった部分です。
別に北海道まで車で何時間かけようが、まずいじゃがいもであればまずいじゃがいもですし、美味しいじゃがいもであれば美味しいじゃがいもと絶対価値の部分は変わりません。車を頑張って運転したことによりじゃがいもの質があがることはないからです。
…しかし、人間は作品を「絶対価値の評価」+「思い入れによる評価」の足し算でしか評価ができません。
「実はこのじゃがいもは全く糖度が足りなくて質としても最悪だが、自分が頑張って育てたor自分が頑張って車で買いに行った」というじゃがいもは、美味しく感じます。
逆に、「実は歯ごたえも味も世界一おいしいじゃがいもだが、そのじゃがいもを育てたのは自分が嫌いな友達であり、そのじゃがいもはまだ全く有名なブランドでもない」というじゃがいもは、まずく感じます。
改めて言及しますが、人は特定の作品を「絶対価値の評価」+「思い入れによる評価」の足し算の結果でしか見ることが出来ません。
それぞれが何点だったから足して何点になったということは分からず、足した結果が何点だったかということしか分からないのです。
つまりこれを小説の話に戻すと、小説を書いている作家は、例外なく今自分が書いている作品が何点の作品なのかを知ることはできません。
何故なら自分の作品が100点だと思っても、それが「絶対価値の評価で100点」+「思い入れによる評価0点」(=思い入れ関係なく超クオリティが高い100点)なのか、
「絶対価値の評価で10点」+「思い入れによる評価90点」(=実はクオリティはダメダメだが、頑張って書いたという思い入れが強い100点)なのか、
書いた本人には絶対に判断がつかないからです。
このように、自分の作品の点数を正確に測れる人間は誰一人いない(=絶対に自分の「思い入れによる評価点」が入ってしまうので、正確な「絶対価値の評価点」を知ることはできない)ということをまず認めることが重要です。
「自分自身の作品を正確に評価できる」ということは、「思い入れ点」がある限り絶対にあり得ません。
②だからこそ、他人の評価は自分より絶対に正確になるという事を認める。
当たり前ですが、他人が自分の作品を評価するとき、「思い入れによる評価」は0点になります。
自分がどれだけ頑張ってじゃがいもを育てようと、それを他人が食べるとき、その他人はそのじゃがいもに思い入れなんかありません。(だからこそそれがまずいじゃがいもであれば、それがどれだけ頑張って育てられたじゃがいもだったとしても「まずい」と言えます。)
そのため、他人からもらう評価も当然「絶対価値評価」+「思い入れの評価」の足し算になるのですが、他人による「思い入れ評価」はほぼ間違いなく0点になるので、足し算の結果が「絶対価値評価」とほぼイコールになります。
ただ、もしかしたらその他人が他者の作品の「絶対価値評価」を正しく測れていないという事態はあり得ます。
しかしもしそうだったとしても、自分の評価よりその他者の評価の方がより正確な値なります。
何故ならその他人の評価が少し正確さに欠いたとしても、自分の評価は「思い入れによる評価点」という絶対価値とは何の関係も無い数字が入ってきてしまっている状態だからです。
(もしそれでも不安であれば、作品を評価してもらう他人の数を複数にするという手もあります。人が多ければ多いほど、その平均を取ることで評価は正確な値に近づきます。)
③そして最後に、小説は「絶対価値の評価」しか評価されないという事を認める。
著者がどれだけ頑張ってその作品を書き上げようが、その"作品にかけた思い"のような思い入れ部分の点数は反映されないことを認める。
これはある意味当然のことではあります。
世の中の読者は、著者がどれだけ努力して頑張ったかという点は見ておらず、作品が面白いかという作品の絶対価値の評価しか見ていません。
そして一番大事なのは、この当たり前でもあるこの現象を「分かりはする」のではなく「認める」ことになります。
ここまで①②③の3つの事を認めることができれば、
・小説は、絶対価値でしか評価がされない。
・自分では、自分の書いた作品の絶対価値を知ることは絶対できない。それは人間が物事の評価を「絶対価値」と「思い入れ価値」の足し算でしか見れないことが原因である。
・一方で他人は自分の作品を「思い入れ価値=0点」で評価してくる。なので自分の小説の絶対価値評価は他人の意見の方が正確になる。だから聞き入れた方が良い。
(ここで重要なポイントは、他人による評価は思い入れ点が0点になるから自動的に絶対価値の評価に近づきやすいということであり、他人の方が自分よりも評価能力が高いという意味ではありません。)
ということを認めることができるようになるので、「他人の方が評価力が上なので、正しく評価できていない自分はダメである」ということを一切認めることなく、「他人の意見は聞かなければいけない」ということを認められるようになるので、他人の評価を受け入れやすくなります。
これが、根本的な考え方の治療としては、一番適切であり王道的なやり方であると思います。ご参考になれば幸いです。
2023年10月21日に作成した記事
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