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声を見つけるまでの辛く長い道のり〜五戸美樹のごのへのごろく〜

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声を見つけるまでの辛く長い道のり〜五戸美樹のごのへのごろく〜

《 本日のごのへのごろく 「今の声 見つけるまでは 地獄です」》


「五戸さんは声が良いから得ですよね」とか「五戸さんは良い声だから私の気持ちなんてわからない」といったことを生徒さんから言われることがあります。私の新人時代を知らない方々ですね。いかに私がひどい声だったか…思い出したくもない過去ですが、どうやって私が今の声になったか、一度まとめておこうと思います。トーク編コラム「オーセンティックボイスへの過程」。

 ■声を見つけるまでの道のり■

今の声で話せるようになるまで、辛く長い道のりがありました。でも、はじめから良い声で話していたら、それこそ生徒さんの気持ちがわからなかったかもしれません。辛くて、しんどくて、道に迷っていた時期が、私には長くあったんです。

 ■声が嫌だと思った中学時代■

初めて自分の声が嫌だなと思ったのは、中学生の時だったと思います。何かでビデオを撮ることになり、その動画に映った自分を見て、仕草も声も気持ち悪いと思いました。姉に「声がわざとらしい」と言われ、ショックでしたし、自分で聞いても、確かにわざとらしくて嫌だなと思いました。

好きな歌手が声帯を手術して声を良くしたという噂を聞き(実際は手術なんてしていないのに)、自分も大人になったら手術をして、声を良くしようと思ったほどでした。(声帯ポリープの切除などで手術が必要になる場合もありますが、健康な声帯を手術して声が良くなることはありません)

 ■声量のなかった高校時代■

高校の時は文化祭で出演したミュージカルで撮ったビデオを見て、またショックを受けました。有志で組んだグループで、中には演劇部の子もいました。自分の声は大きいほうだと思っていたので、練習中は特に気になりませんでしたが、ビデオを見たら、明らかに演劇部の子のほうが声が大きく、自分の声は全然聞こえず、何を言っているのか全く聞き取れませんでした。

 ■サ行を知る大学時代■

大学2年からアナウンススクールに通い始めました。そこで初めて「サ行が弱い」という指摘をいただきます。私は中学校の頃、誰かに「サ行は舌を上から下に滑らせて発音する」と習ったことがあり、それ以降意識的に、舌を滑らせるようにして発音していたのですが、これが大間違いで、子音「s」の音が「th」の音に近くなってしまっていたのです。下の歯の付け根に押し当てるようにすることで、初めて「s」の音が出た時のことを今でも鮮明に覚えています。当時、あまりの衝撃に泣きました。

しかし、これまでも度々書いておりますが、当時は滑舌を良くする方法を「口を大きく開ける」だと思っていたので、滑舌はなかなか良くなりませんでした。

ただ、毎日発声練習を行い、読んだり話したりする練習をするようになりました。これまでの発声に関する悩み「わざとらしい」「声量がない」「何を言っているのか聞き取れない」こういった悩みは、いったんこの時にクリアできた気がします。

それなら、問題は滑舌だけかと思ったら、そうではありませんでした。

 ■自分だけが素人の局アナ時代■

ニッポン放送のアナウンサーになって、少しずつラジオに出るようになりました。放送を聞いていると、プロが話している中に、間違えて“素人”が混ざってしまったように聞こえました。その“素人”の声が、自分の声…。もっと先輩たちは芯があって響きのある良い声で、自分の声だけがボヤッとして輪郭がないように聞こえました。

どうしたら先輩たちとの声の差を埋められるのかわからない…その上、内容も一人で考えられない・緊張して頭が真っ白になって泣いてしまう・ゲストに変な質問をしてしまう…絶望的に感じました。向いていないと思いましたし、向いていないと言われていました。

 ■闇雲に練習した入社1〜4年■

とにかく原稿読みがうまくならないと仕事にならないと考え、毎日読む練習を3〜4時間していました。口を大きく開けて、声を明るくするために高音域を使っての練習。練習中も録音を聞いてチェックをし、本番後も本番の録音を聞いてチェック…といっても、当時は「芯」や「響き」を考えずに、「滑舌」だけをチェックしていたような気がします。

「口を大きく開ける」はイコール「表情筋を力ませる」であり、「音程を高くする」はイコール「咽頭を力ませる」ですので、苦しそうな声にしかならず、実際、原稿を読んでいる時はいつも苦しくて、その声を聞くのは恥ずかしく、情けなく感じました。それが、なんと4年ほども続きました。

 ■本来の発声を知る4〜5年目■

入社4年目頃、「原稿を読んでいる時の声」と「話している時の声」があまりに違う、「話している時の声のほうがずっと良い声」と言われたことがありました。その頃、確かに、話している時は苦しくないのに、読んでいる時苦しい、という感覚がありました。録音を聞いてみると、原稿読みの時のほうが気持ち悪い声だと思いました。今考えれば、明らかに原稿読みで力んでいたのに、人から言われないと気付きませんでした。

また、その頃初めて「口を大きく開けるのは間違い」「地声を無視して声を高くするのは間違い」と知ります。一緒に仕事をしていた声優さんが教えてくれました。

 ■180度変えた発声練習■

そこから、発声練習の方法を180度変えることにしました。具体的にはこちら。

・闇雲に口を大きく開けるのをやめる
・口の外側は開かずに、中側に空間を作る
・子音を作る舌や歯や唇を細かく動かす
・高い声で話すのをやめる
・話し始めが高音にならないように、低音から繋げて話す
・読み始めが力まないように、フリートークと繋げて読む

こういったことを、何度も繰り返しトレーニングをして、録音を聞いて確認しました。入社5〜6年目になって、やっと「読む時も苦しくない声」を手に入れることができました。

その後フリーになり、読んでいる時の力みをさらに減らすように心がけ、そうすることで自然と音程が低くなり、やっと今の声になりました。

長い道のりでした。

 ■まとめ■

過去、自分に発声を教えてくれた方に恨み言はありませんが、何が間違っていて、何が効果的な練習なのか、知っている人が世の中にもっと多ければ、自分のように遠回りする人は少なくなるのではないかと思っています。

だから私はトークレッスンで生徒さんのオーセンティックボイスを見つけるお手伝いがしたいし、設立した「一般社団法人 声•脳•教育研究所」でトレーナーの育成をがんばりたいと思っています。

【五戸美樹】(コラム「第86回・元ニッポン放送アナウンサー五戸美樹のごのへのごろく」)(題79回までは日刊スポーツコムに掲載し、オンラインサロンのライブラリに抜粋。第80回以降ライブラリでのみ掲載)


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