【記事】R4/08発生 静岡雑居ビル火災 活動報告書を読む

テキスト

【記事】R4/08発生 静岡雑居ビル火災 活動報告書を読む

はじめに


R4/08に発生した雑居ビル火災の活動報告書から管理人及びFTETメンバーの考察をまとめています。
この記事を作成したのはR5/01/25であり、そこまでで分かっている情報をもとに作成しています。

現時点では事故概要報告書や火災原因調査書は開示請求ができておりません。
先方から2月頃に作成できるとのことでしたので完成次第開示請求を行いたいと思います。


この記事の意図

この記事は現場活動に当っていた個人及び部隊、その他関係者の活動や考えをを批判するものではありません。

読んでくださるあなたの部隊の事故を防ぐために作成しています。

また殉職された山本隊員のご冥福をお祈り申し上げます。


各種報道情報

本題に入る前に現在報道されているニュース内容をまとめます。





報道で最も指摘されていることは「ロープ」の着装有無です。
恐らくこの根拠としてでているものは「消防救助操法の基準」の「濃煙中救助操法」でしょう。


しかし、そもそも消防救助操法の基準が定められた目的は以下になります。


(目的)

第一条 この基準は、消防吏員の救助訓練における消防救助用機械器具(以下「機械器具」という。)の取扱い及び操作(以下「操法」という。)の基本を定め、もつて人命救助の万全を期することを目的とする。


つまり、救助訓練と機械器具の操作の基本を学ぶためにできたものが救助操法です。
絶対に守るべきマニュアルではありません。
確保ロープの設定は「手段」であり、「目的」ではありません。


報道機関そして一般市民の方もロープを付けていれば絶対に安心安全ではないということは理解していただけたらと思います。


FTETとして疑問に残る点

FTETとしていくつか気になることがあります。


本題前に平面図


情報開示で得られた平面図


①最初の火点検索の意思決定の根拠


現着後葵特別救助隊が2回火点検索を行っています。
3回目の火元の検索まで約1時間「結果的」には無駄な行動となっています。
当然火災は火元に水を撃ち込まなければ基本的には悪化する一方です。


なぜ1時間無駄足になってしまったのでしょうか?


ここで時系列を見てみましょう。

・21時59分-活動開始(報告書より)

・22時10分-葵特別救助隊が1回目検索開始-北東角給湯室

・22時33分-葵特別救助隊が2回目検索開始-給湯室


活動報告書では「煙の噴出状況等」から給湯室を火点(火元)と見込み検索したと書いてあります。

火元を特定するためにはいくつかの指針があります。

・建物の構造

・風や気温などの周囲の環境状況

・煙の速さ、厚み、色、量

・空気の流れ

・ドアや床などの熱量(温度)

・炎の噴出

これらの指針を頭文字でBE-SAHF(ビーイサーフ/シェイフ)と呼んだりします。

このBE-SAHFに合わせてどのような意思決定で給湯室と判断したのかが疑問というよりも気になります。

また、報道では関係者が指揮隊に火元を伝えたという報道があります。
実際に見た関係者の情報よりも給湯室が第一検索になったのか?
ぜひ知りたいです。


②動画内容から気になる疑問


元の動画はモザイクがありません。
FTETの有志がモザイク処理や音声の処理(個人名を伏せる)をしてくださったおかげで公開できるようになりました。
この場を借りて感謝を申し上げます。


また、静岡消防のヘッドカメラの時間は正確ではありません。
ざっくり20分進んでいます。


Ⅰ.煙に対しての放水(動画21秒後から再生)



放水前100度⇒放水直後30度⇒そこからすぐに60度と報告があります。
大前提として熱画像直視装置は「煙の温度」を測ることはできません。
「高温の煙」が窓枠に接し、温められた温度がモニターに表示されます。

この放水は一時的に流出ガスを冷却したかもしれません(窓枠が水で冷却されただけの可能性もあり)。

Ⅱ.煙の色(動画340秒後から再生)



当会員様ならご存知の通り煙の色が灰色、白だとしても危険です。
煙である限りいつ発火するかは分かりません。


Ⅲ.検索隊駒川特別高度救助隊が火点発見の無線

駿河高度特別救助隊⇒指揮本部?

「店舗?(聞き取れず)入り口明けたところで火煙確認これより消火に当たる」


葵202⇒静岡消防

「倉庫内でzzzzz火煙を確認したこれより消火に当たる」


この後動画がぷつりと切れてしまったため「退出」の無線でどのようなやり取りがあったかは開示されていません。


③排煙とブロワーの設定位置

平面図を確認するとブロワーの設置位置と火点の位置、排煙の位置関係が難しい状況だと確認できます。
これは火元が給湯室だと踏んだ結果によるものです。
火元が給湯室だった場合はこのファンの設定はセオリー通りになります。



(ファンと排煙窓及び火点が一方向になるためスムーズな排煙が可能)


しかし、結果的に火点は倉庫休憩室でした。
こちら側には排煙するための窓や扉がありません。
この状態でファンを起動させれば中央の廊下の一部まではファンの圧力のおかげで前進ができる可能性はありますが、熱気と煙(赤)の逃げ場はないため有効な排煙にはなりません。
むしろ酸素の流入から火勢の成長を促す可能性があります。


(赤:熱気 青:ファンの空気の流れ)


ここで開示動画を見てみましょう。

22時30分頃の煙


22時58分頃の煙



23時30分頃の煙(隊員1名行方不明)



消防職員でなくともあきらかに煙が変化していることが分かると思います。
雑居ビルなどの区画内火災性状において火煙(火災性状)の変化は「空気の流入」がキーポイントになります。

ここからは推測になります。

駿河高度特別救助隊の活動報告書から「火点発見時扉が閉鎖されていた」という記載があります。
これにより火点への「空気の流入」が制限されたため22時58分の煙は油断はできませんが比較的穏やかでした。

ブロワーが起動してこの状況であれば奥の火点に繋がる廊下への扉が閉まっており、大量の煙が排出された後かもしれません。

23時30分過ぎの動画では煙が明らかに変化があります。
流速が早く、量も多い、色は灰色、厚みがある(光学的に)濃い煙です。

これは以下のような指針を私たちに教えてくれます。
・速度から22時58分以降の火点へは熱量が急激に上がった。
・量から十分な酸素は得られていない(燃料に対して十分な燃料があれば煙は燃えるつまり開口部から炎が確認できるはず)
・濃さから出火から時間がかかかっている。

しかし、写真で見る限り外の窓は開口部を埋めるように煙が流出しているため、急激な熱量を増加をさせるための酸素を得られる開口部はありません。
ではどこから酸素を得られたのでしょうか?


恐らく消防隊が利用している「陽圧ファン/ブロワー」だと考えられます。
つまり、駿河高度特別救助隊が扉を開放し、なんらかの原因で閉じることができなかったためにファンからの新鮮な酸素で火勢が冗長し、検索が困難になってしまったのではないか?
その結果必死の16回の検索を試みたが要救助者の元までたとりつけなかったのではないかと。
活動報告書からも最初の方の検索から時間が経つごとに火勢が悪化していることが伺えます。




④隊員が行方不明になった原因は?


正直に申し上げますと活動報告書及び報道内容だけでは隊員が行方不明になった原因は分かりませんがいくつかの要因を推測してみます。

①殉職された隊員がなんらかの急病によって動けなくなった。
②進入隊員間で「退出」の情報が共有されていなかったため、一人で火点室へ進入してしまった。
③退出時に何らかの原因で火点室へ戻った。


こちらは事故報告書と火災調査書が手に入った時点で再度考察ができればと考えています。


また、活動報告書をみても熱画像直視装置で筒先の先端まで向かい検索したが見つからなかった。という旨の記載があります。
隊員がどこで倒れていたかにもよりますが、それだけ死角に倒れていたことが伺うことができました。


⑤南側階段からの進入をなぜ速やかに行わなかったのか?



千代田消防署の活動報告書をみると早い段階で「南側の扉」つまり「火点室直近」の扉を発見していたことを読み取ることができます。
結果的には南側の扉を切断して排煙側に設定。
吸気側と排気側が1本の線になったことで有効な排煙へ。
その後に南側の扉から進入して左壁伝いで検索した結果要救助者を発見できたという旨の記載があります。

早い段階で南側の扉の存在を確認して北側からではなく、南側から活動を開始していれば結果は変わっていたかもしれません。
しかし、これは「後だしじゃんけん」です。
緊迫した現場の中でそこまでできるのか?はその場の消防力によるでしょう。
ただ、チャンスがあったことは忘れて欲しくないと思います。


最後に管理人より

私は消防を運動後急性腎不全という病気がきっかけで辞めてしまった人間です。
現場は数年しか経験していません。

それでもこの仕事が好きなので別な形で関わりたいと思い始め形となってきたのがFTETです。

FTETの目的は消防力の底上げ、もっとフランクに言えば「楽しい消防人生を歩んで欲しい」というものです。
楽しく人生を謳歌するためには自分の仕事に対して勉強は続けなくてはいけません。

電話一つみても「昭和の黒電話の時代」から「現代はスマートフォン」になっています。
建物は「隙間風が吹くような建物」から「高気密高断熱の建物」に変化しました。

時代はより便利に進化しています。

消防業界はどうでしょうか?
ものすごく訓練と座学を行い最新の災害に対応できるような部隊もあれば昭和のやり方に誇示している部隊もあります。
これは組織が大きい、小さいは関係ありません。
やっているところはやっています。


市民の命を救うため、自分自身そして仲間を失わないためにも今一度自身の組織を見直すべき時ではないでしょうか。


FTETは皆様の行動をサポートする道具と場の提供を作り続けます。

限定公開部分

・活動報告書(隊員の個人名は私の方で黒塗り済み)
・動画(モザイクなど編集済み)


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