「迎えに来てくれますか」——1000年続く、女たちの祈りの場所へ

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「迎えに来てくれますか」——1000年続く、女たちの祈りの場所へ

阿弥陀さま、迎えに来てくれる日


奈良・當麻寺に、1000年以上続く行事があります。
毎年4月14日に行われる「練供養会式(ねりくようえしき)」。

私がこのお寺を知ったのは、大学院で密教美術を学んでいた頃のことでした。
曼荼羅のひとつの形式として「当麻曼荼羅」を知り、
いつか実物を見たい、あの場所に立ってみたいと思い続けて、ようやく昨日、訪れることができました。

当麻曼荼羅とは

奈良時代、中将姫という女性が、一夜にして蓮の糸で織り上げたと伝わる曼荼羅。
阿弥陀如来の極楽浄土の世界を描いた、日本最古の曼荼羅のひとつです。
中将姫は、継母にいじめられ、命を狙われながらも信仰を持ち続けた女性。
その祈りが、あの大きな曼荼羅となった——そんな伝説が残っています。

曼荼羅が、動き出す瞬間

練供養会式は、その曼荼羅に描かれた「阿弥陀来迎」の場面を毎年再現する儀式です。
阿弥陀如来と25体の菩薩たちが、雅楽の音とともに
本堂からこの世(娑婆)へと続く橋をゆっくりと渡ってくる。

儀式が始まるのは、午後4時。

西の空に傾きかけた陽が、雲にやわらかく隠れていました。
あの世を象徴する山を背景に、本堂がたたずみ、
橋の上を、金色の菩薩たちが、こちらへと近づいてくる。

——ああ、これは絵ではなく、「体験」なんだ。

なぜ4時なのか。その場に立って、はじめて分かった気がしました。
あの光でなければ、あの雲でなければ、きっと伝わらなかった。
1000年前の人々も、同じ西の空を見ながら、この橋を見ていたのだと思うと、
時間がすうっと溶けていくような感覚がありました。

女性たちの、祈り

ひとつ、ずっと頭を離れないことがあります。

かつて、女性は「往生しがたい存在」と言われていた時代がありました。
どれだけ信仰を持っても、女性であるというだけで、
救いから遠い存在とされていた。

そんな時代を生きた女性たちが、このお練りを見たとき、
いったいどんな気持ちだったのだろう、と。

中将姫に自分を重ねながら、

「私にも、迎えに来てくれるだろうか」
「この橋を、渡ることができるだろうか」

そう思いながら、涙をこらえた人もいたかもしれない。

曼荼羅という「絵」として伝えるだけでなく、
こうして毎年、「場」として、「動き」として、人々の前に現す。
その意図はどこにあったのだろう、とずっと考えていました。

もしかすると——救いを「見える形」にすることが、
言葉では届かなかった人々の心に、直接触れる方法だったのかもしれない。

人生の折り返しを過ぎたころ、
ふと「死」や「老い」が、遠い話ではなくなってくる。

そんなとき、1000年前の女性たちの祈りに触れると、
自分のなかの何かが、静かにほぐれていく気がします。

救いを求める気持ちは、時代を超えて、同じなのかもしれない。

當麻寺の練供養会式。
もし機会があれば、ぜひ一度、あの西の空の下に立ってみてください。

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