第5講① 運動が最強〜運動すると何が起こるのか〜

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第5講① 運動が最強〜運動すると何が起こるのか〜

運動の効果




みなさまは、毎日運動しているでしょうか?
現代人はとにかくすぐに車や電車、タクシーを使ってしまうためほとんどの人がまともに運動していません。

スポーツ庁の調査によると、40代男性で「週に3日以上、1時間以上運動をしている」と答えた人はわずか5.7%、40代女性では更に低く3.3%しかいません。

その主な理由としては「時間がない」や「仕事や家庭で忙しい」という点が挙げられています。その比率は年々減少し、運動不足が世界的な問題になってきているのです。


目次


1. 心血管の健康
研究結果
メカニズム
2. 高血圧
研究データ
メカニズム
3. 2型糖尿病
研究データ
メカニズム
4. 肥満
研究データ
メカニズム
5. 骨粗鬆症
研究データ
メカニズム
6. メンタルヘルス
研究データ
メカニズム
7. がん予防
研究データ
メカニズム
8. 認知機能
研究データ
メカニズム
9. 免疫機能
研究データ
メカニズム
10. 長寿
研究データ
メカニズム
まとめ

最強のアンチエイジング薬は何かと言われれば間違いなく”運動”です。

運動が薬としてあれば全ての医師は運動を処方するでしょう。

例えば1時間のジョギングは7時間寿命を伸ばす効果があるという研究もあるのです。

これは、単純にいうと時間が7倍になって返ってくるのだからとてつもなく効率のよい投資と言えます。
それだけ運動はあらゆる病気の予防になることが証明されているのです。

それでは、各疾患について現在わかっている研究成果など具体的にお伝えしていきます。


1. 心血管の健康



心臓や血管の病気である心血管疾患(CVD)は、世界的な主要な死因の一つであり、その予防に運動が重要な役割を果たすことが数多くの研究で示されています。

ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、心血管系にとって特に効果的であり、心拍数を安静時から上昇させることによって心筋の強化を促します。これにより、血液の循環がスムーズになり、動脈の柔軟性が向上します。



研究結果
2019年に発表された大規模なメタ分析では、週150分の中強度運動(速歩やサイクリングなど)を行った人々は、心血管疾患による死亡リスクが14%低下することが示されました。さらにこの効果は、週300分以上運動を行う場合に20%まで増加します。また、New England Journal of Medicine の研究によれば、心不全の患者が週3回の30分間のウォーキングを行った場合、再入院率が15%減少し、生活の質が大幅に改善しました。



メカニズム
運動中、体内の酸素需要が増加するため、心臓はより効率的に血液を送り出す必要があります。これにより、心拍出量が増加し、心筋が鍛えられるとともに、血管内皮細胞から一酸化窒素(NO)が放出されて血管が拡張します。この過程が血圧を低下させ、動脈硬化のリスクを軽減します。



2. 高血圧



高血圧は、心血管疾患や脳卒中のリスクを大幅に高める要因ですが、運動によってそのリスクを効果的に減少することができます。
有酸素運動や筋力トレーニングは、血管の拡張反応を改善し、血圧を効果的に下げる働きがあります。



研究データ
Hypertension ジャーナルに掲載された研究では、週3回の中強度の運動を12週間継続した被験者で、収縮期血圧が平均8mmHg、拡張期血圧が平均5mmHg低下したことが示されています。
また、日常生活に取り入れやすい運動として、「10分間の階段昇降」が高血圧の改善に有効であるとの報告もあります。

メカニズム
運動を定期的にしていると交感神経活動が抑制され、血管拡張作用が促進されるため、血圧が低下します。また、定期的な運動は血液中のナトリウム排泄を促進し、体液量を調整することで血圧の安定に寄与します。
血圧はすぐに薬物療法を勧める医師が多いですが、食事療法と組み合わせることで、さらなる血圧のコントロールが可能になります。



3. 2型糖尿病


2型糖尿病は、予備軍合わせて日本にも2000万人以上いると言われている今最も恐るべき現代病です。インスリン抵抗性の増加と血糖値の上昇を特徴とする慢性疾患です。運動は血糖値を管理するだけでなく、インスリン感受性を高め、糖尿病の予防と治療において不可欠な要素です。



研究データ
糖尿病予防プログラム(DPP)の研究では、週150分の中強度運動と食事療法を組み合わせた場合、糖尿病発症リスクが58%減少することが示されました。また、HIIT(高強度インターバルトレーニング)は、通常の有酸素運動よりもインスリン感受性を効果的に改善することが報告されています。Diabetes Care によると、HIITを週3回行うことで、インスリン感受性が約25%向上したとのことです。



メカニズム
運動中、筋肉は血液中のグルコースを効率的に取り込むため、血糖値が自然に低下します。この過程は、糖尿病などインスリン抵抗性のある患者にとって特に効果的なのです。
さらに、運動は筋肉内のグルコーストランスポーター(GLUT4)の発現を増加させ、長期的に血糖コントロールを補助してくれるのです。



4. 肥満


肥満も現代において世界中で多くの慢性疾患のリスクを高める重大な健康問題ですが、こちらも運動を通じて効果的に予防することができます。
特に有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることで、体重減少と体脂肪減少が促進されます。



研究データ
American Journal of Clinical Nutrition の調査では、週200~300分の中強度運動を行った被験者は、運動量が少ないグループと比較して平均5kgの体重減少を達成したと報告されています。また、HIITは短時間で効率的に脂肪を燃焼することが可能で、30分のHIITセッションは60分の通常運動に匹敵する脂肪燃焼効果があるとされています。

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メカニズム
運動中に消費されるエネルギーは、脂肪細胞から脂肪酸を放出させることで、体脂肪の減少につながります。また、筋力トレーニングによる筋肉量の増加は、基礎代謝率(BMR)の向上を促し、安静時でもより多くのカロリーが消費されるようになります。これが長期的な体重の変動を予防します。



5. 骨粗鬆症



骨密度の低下は、骨折や機能障害のリスクを高める骨粗鬆症に直結します。運動は、骨の形成を促進し、骨密度を維持するための重要な手段です。

研究データ
Journal of Bone and Mineral Research に掲載された研究では、週2回の高強度筋力トレーニングを8カ月間実施した閉経後女性において、腰椎および大腿骨頸部の骨密度が平均3%増加したと報告されています。さらに、ジャンプやランニングなどの負荷運動は、若年層でも骨密度を向上させる効果があります。



メカニズム
負荷運動は骨に機械的ストレスを与え、それに応じて骨芽細胞が活性化し、新しい骨組織が形成されます。このプロセスは骨のリモデリングと呼ばれ、骨強度を維持する上で重要です。また、筋力トレーニングによる筋肉の付着点への引っ張り刺激が、骨密度の向上をさらに助けます。



6. メンタルヘルス



運動は、うつ病や不安症の軽減、ストレスの解消、さらには幸福感の向上に寄与するなど、精神的健康においても重要な役割を果たします。エンドルフィンの分泌やセロトニンの増加を通じて、運動は心の健康を支える科学的根拠に基づいた治療法として広く認識されています。



研究データ
JAMA Psychiatry の研究によると、週に90~120分の中強度運動を行った人は、うつ病の発症リスクが26%低下しました。さらに、軽度のうつ症状を抱える患者が週3回の運動プログラムを12週間実施したところ、70%以上の被験者がうつなどの症状の改善を報告しています。また、HIITが不安症の症状軽減に特に効果的であることも研究で示されています。



メカニズム
運動中、脳内でエンドルフィンが分泌され、これが自然な「鎮痛効果」や「幸福感」をもたらします。また、運動はセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の分泌を促進し、これが気分の安定やストレス軽減に寄与します。さらに、運動は海馬の神経可塑性を高め、記憶力や学習能力を向上させるとも報告されています。



7. がん予防



運動が特定のがんの発症リスクを低下させることは、多くの疫学研究によって確認されています。これには大腸がん、乳がん、子宮体がんなどが含まれ、運動習慣がある人はこれらのがんのリスクを大幅に低減できることが示されています。



研究データ
米国国立がん研究所(NCI)の報告によると、週150~300分の中強度運動を行った人々では、大腸がんのリスクが30~40%低下し、乳がんのリスクも20~30%低下しました。さらに、男性における前立腺がんのリスクも、定期的な運動によって約15%低下することが確認されています。
これらの結果は、運動ががん予防に有効な手段であることを強く示唆しています。



メカニズム
運動は、インスリンや成長因子(IGF-1)などのがん促進因子を抑制し、炎症性サイトカインの産生を減少させます。また、運動は腸の蠕動運動を活発にし、消化管内の発がん性物質との接触時間を短縮することが報告されています。これらの生理的メカニズムを通じて、運動はがん発症リスクを低下させます。



8. 認知機能



認知機能の低下やアルツハイマー病などの神経変性疾患は、高齢者にとって大きな問題ですが、運動はこれらのリスクを効果的に軽減する手段として注目されています。有酸素運動や筋力トレーニングは、脳の健康を維持し、認知症の予防につながることがわかっています。



研究データ
Alzheimer’s & Dementia ジャーナルに掲載された研究では、週150分以上の有酸素運動を行った高齢者は、運動をしない人々に比べて認知機能低下の進行が40%遅れることが確認されました。また、週2回の筋力トレーニングを行った高齢者は、記憶力や注意力が大幅に改善したと報告されています。さらに、定期的な運動を行う人々では、アルツハイマー病の発症リスクが35%低下することも示されています。
また、中等度の有酸素運動が前頭前野の機能向上に有効であることが示唆されています。最大運動能力を様々な負荷で運動を行った場合、運動後に各運動負荷で認知機能テストの成績が向上したとの報告があります

メカニズム
運動は脳血流を改善し、神経成長因子(BDNF)の分泌を促進します。このBDNFは、神経細胞の成長やシナプス形成を支える重要な因子であり、記憶力や学習能力を向上させる役割を果たすのです。また、運動は炎症を軽減し、酸化ストレスを抑制することで、神経細胞の保護し、脳の炎症を抑えてくれるのです。



9. 免疫機能



免疫系は体内の病原体に対抗する重要な役割を担っていますが、運動はこの免疫機能を強化することができます。特に適度な運動は免疫細胞の活性を高め、感染症のリスクを低下させることが分かっています。



研究データ
Journal of Sport and Health Science によると、定期的に適度な運動を行う人々は、上気道感染症(風邪など)の発症リスクが約40%低いと報告されています。
また、マラソンランナーを対象とした研究では、運動後の免疫機能が一時的に低下する「オープンウィンドウ現象」が観察されましたが、適切な栄養補給や休養によってリスクを軽減できることが確認されています。



メカニズム
運動は、自然免疫と獲得免疫の両方に影響を与えます。運動中、ナチュラルキラー(NK)細胞やマクロファージが活性化し、病原体への迅速な対応が可能になります。
また、適度な運動は炎症性サイトカイン(IL-6など)を減少させ、免疫系の過剰な反応を抑制します。このように、運動は免疫系を最適化する効果を持っています。



10. 長寿



運動は寿命の延長に寄与し、健康寿命の向上にも役立つことが数多くの研究で示されています。運動は、慢性疾患の予防や管理を通じて、全体的な死亡リスクを低下させます。



研究データ
The Lancet による研究では、週150分以上の中強度運動を行った人々は、全死亡リスクが31%低いことが示されています。さらに、軽い運動でも20%のリスク低下が見られ、運動量が増えるほどリスク軽減効果が高まることが確認されています。
国内の研究でも、運動習慣を持つ高齢者は健康寿命が平均5年以上延びるとのデータが報告されています。



メカニズム
運動は、心血管機能の改善、血糖値の管理、体重の維持、さらにはメンタルヘルスの向上を通じて、寿命を延ばす効果を発揮します。また、運動による筋力の維持は、転倒や骨折を予防し、介護状態になるリスクを低減します。このように、運動は身体的・精神的健康を総合的に支える重要な要因です。



まとめ



いままで見てきた通り、結論はお分かりいただけたと思います。定期的な運動は、あらゆる疾患の予防とアンチエイジングにおいて最強の手段なのです。心血管の健康からメンタルヘルス、さらにはがんの予防に至るまで、運動は生活の質を向上させ、寿命を延ばす上で極めて重要な役割を果たします。

特に、運動の種類や持続時間、強度は、個々の健康目標や疾患の状態に応じて調整することが重要です。
例えば、有酸素運動(ウォーキングやサイクリング)は心血管の健康に非常に効果的であり、筋力トレーニングは筋骨格系の維持に役立ちます。
また、高強度インターバルトレーニング(HIIT)は効率的な脂肪減少に効果的で、ヨガのようなバランス運動は柔軟性やメンタルを向上させます。

日常生活に運動を取り入れることは、全てのみなさまやわれわれ医療従事者にとって最優先事項とすべきです。近年、やっと政府や関連機関も、フィットネス施設の促進、アクティブな移動手段の奨励など通じて、運動の重要性を取り上げるようになってきました。
しかし、現状の運動している割合がわずか数%なのを考えれば、全く不足しているのがわかると思います。

運動を習慣化することで、増加傾向にあるがんや糖尿病、認知症や感染症に立ち向かい、より健康で強靭な社会を実現することができるのです。

ぜひ運動習慣を取り入れて、自分の唯一の資産である健康を維持、向上するよう努めていただければ、私の本望です。


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