【漢方の質問に答えます!その3】「漢方薬の使い分け」に関する質問

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【漢方の質問に答えます!その3】「漢方薬の使い分け」に関する質問
漢方薬剤師の猪子英恵先生が、YouTubeの視聴者から募集した漢方の質問に答えるシリーズです。第3弾は、「漢方薬の使い分け」についての質問にお答えします。
なお、このコラムは、どなたでも最後まで無料で読むことができます。OTC教室では、会員限定のコラムなども随時配信しております。


Q1.咳に用いる漢方薬の使い分けと養生方法について教えてください。

A. アポプラスキャリア様のコラムに使い分けが記載されているので、もしよければご参照ください。


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参考:アポプラスキャリア
【現場で使える!漢方】登販向け:季節の変わり目に多い咳の対処法
https://www.touhan-navi.com/contents/column/cat4/002237.php
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Q2.尿トラブル(膀胱炎)に用いる漢方薬の選び方のポイントを教えてください。

A. 五淋散は清熱作用が強く、猪苓湯は利水作用があります。

膀胱炎症状でよく使われる漢方薬として、「五淋散」や「猪苓湯」などがあります。五淋散には清熱作用(熱を落ち着かせる作用)のある生薬がしっかり入っているのに対し、猪苓湯には利水作用(水分代謝を促す作用)のある生薬が配合されています。

また、ドラッグストアでは、「腎仙散」を取り扱っている店舗もあります。腎仙散の最大の特徴は、抗菌作用があるとされる「ウワウルシ」の配合にあると考えられるため、医療機関の受診までのつなぎとして使用するのがよいと考えられます。ただし、腎仙散に関してはオリジナル処方であり、筆者自身に臨床経験がないため、あくまで参考程度にしてください。

なお、尿トラブルの中でも、「膀胱炎」ではない、「心因性の頻尿」や「夜間頻尿」に関しては、別の漢方薬も候補に挙がってきます。
膀胱炎の症状に対しては、今回の3つの漢方薬のうちどれを使用しても大きく外すことはないと考えられます。使用後も変化が無い場合には、医療機関の受診を促すことが大切です。

簡単な違いは以下の通りですが、患者さまから聴取した自覚症状などの内容にもよるため、判断が難しい部分になります。短期の服用で効果を見ていただき、適切な受診勧告をお願いします。

<五淋散>
炎症を落ち着かせる清熱の生薬とともに、その消耗を補う生薬も配合されるため、炎症がある程度ある場合や、痛みを伴う場合、五淋散を使います。

<猪苓湯>
尿量を増やして尿を薄くするイメージの処方であり、強く炎症を落ち着かせるものではありません。尿量が減量している方や、普段からむくみがち、口の渇きがあるといった水分代謝に課題のある方に適します。

<腎仙散>
メーカーのオリジナル処方であり、五淋散や猪苓湯に含まれる構成生薬も入っているため、炎症のケア・尿量のケアのどちらも考慮している漢方であると言えます。さらに、抗菌作用があるとされる「ウワウルシ」の配合が特徴的であり、抗生剤服用の必要がある場合など、医療機関を受診するまでのつなぎとして使用するのも良いと考えられます。


Q3.胃腸風邪に使える漢方薬の使い分け方を教えてください。

A.  五苓散は下痢や嘔吐を伴う方、半夏瀉心湯はみぞおちのつかえがある方、柴胡桂枝湯は風邪が長引いた末の胃腸症状がある方に適しています。

胃腸風邪のような症状があるときに使える漢方薬としては、
五苓散
半夏瀉心湯
柴胡桂枝湯
の3つが代表的です。

ただし、それぞれに効能が異なるため、処方を選別するにあたっては体質(証)の確認が大切です。上記3つの漢方薬に合う証の特徴を簡単に解説しますので、一つずつチェックしていきましょう。


①五苓散

4つの利水剤を含んでおり、主に水毒に対して処方される漢方薬です。胃腸風邪の場合は、「消化管に余分な水が溜まっている状態」の症状、つまり下痢嘔吐(吐くと楽になる)などの一般的な胃腸炎の症状に使えます。

「口が渇く」、「吐くと楽になる」といった水毒の特徴が見られる方には、五苓散をおすすめするとよいでしょう。


②半夏瀉心湯

「みぞおちのつかえ」がある方によく使われる漢方薬です。胃腸風邪の症状では、みぞおちのつかえを伴う吐き気や、お腹がゴロゴロする症状などに適しています。

また、構成生薬である「半夏」は、「化痰薬(けたんやく)」といって余分な湿気を取り去る成分で、「舌にべっとり苔がついている」という方にも使いやすい漢方です。ただし、五苓散と違い、口の渇きがある場合は向かないので注意しましょう。


③ 柴胡桂枝湯

「小柴胡湯」と「桂枝湯」を組み合わせた漢方薬です。こちらの漢方薬は「胃腸風邪」に適しているというよりも、風邪が長引いた末の胃腸の不調に適しています。

これは、「桂枝湯」が表寒証(悪寒が強く出ている状態)、「小柴胡湯」が半表半裏(悪寒と熱感が交互に繰り返すなどの症状)や、感染症や熱の症状が進行して表面から中間へ移動しているような状態に使われる漢方薬であるからです。風邪が長引いた末に胃腸の不調が出ている場合は、表証の時期が終わり、邪気が裏に入っていると考えられるため、柴胡桂枝湯が適しています。

簡単な判断基準としては、「寒気や熱っぽさが定まらない」、「熱が上がったり下がったりする」といった症状が挙げられます。胃腸の不調にこれらの症状を伴っている場合には、柴胡桂枝湯をおすすめすると良いでしょう。

なお、『胃腸風邪 漢方』というキーワードで検索すると、“柴胡桂枝湯”が一番上に出てくることもありますが、柴胡桂枝湯は一般的な胃腸風邪に使うものではないので、注意してください。



このコラムの回答者



猪子英恵(漢方薬剤師)

多くの医療機関で薬剤師として漢方外来を担当しており、相談数は月100名を超える。

2021年に臨床漢方カウンセリング協会を設立し、薬剤師・登録販売者の先生方に向けて、「現場で使える」をモットーとした漢方とカウンセリングスキルに関する講座を行っている。


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