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【コラム】消防チェーンソー七不思議!現状維持は時代錯誤に?!

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【コラム】消防チェーンソー七不思議!現状維持は時代錯誤に?!

はじめに

 今回は消防チェーンソーの七不思議という題材で書いてみました。内容としては僕自身が消防士時代に言われたものもありますし、各地の災害現場で活動されている技術系NPO DRTJAPAN様が消防側から伺ったお話も入れて7つチョイスしています。これらはスピードを求められる災害現場にて足を引っ張る考え方です。

 この記事を通して「災害現場で助けを待つ市民の方」のためにも手技や考え方を改めるきっかけになればと思います。

前提:取扱説明書の罠

 基本的には取扱説明書通りに製品を使えば良いのですが、取扱説明書にはメーカーの2つの意図があることを押さえて読むとよりよく道具の特性を知ることができます。

2つのメーカーの意図

①製品が故障するから絶対にやるなよ!!
例:混合燃料の混合比、チェーンソーオイルの充填など

②便利だけどもし事故が発生したらこちらの責任だから記載しない(する)ようにしよう
 例:たち掛けやまたがけ、暖機運転の記載など

 プロの目から見ると②はやる必要がない無駄なことや初心者がするにはリスクが大きいことが記載されていると感じるようです。しかしながら道具の特性を理解して使うプロにとっては「理解して取扱説明書と違うこと」をした方が得られるメリットが大きいため、デメリットを理解して活用しているとのことでした。

 私も現役時代は特に「取扱説明書やメーカーの言い分が全て正しい」という考えが基本でした。しかし、それだけでは災害時に、危険度の高い場所でチェーンソーを取り扱えるプロにはなれません。道具の特性を理解して自分たちで使い方を構築していく必要があります。


(本当の意味で使いこなすためには機械の特性を知る必要があります。)

七不思議

 今回は親しみやすいようにあえて七不思議という言葉を使っています。自分たちも行っていないか?日々の点検や訓練を思い出しながら読んでみてください。

①チェンソーの始動について

 △チェーンソーは地面に置いて始動させる
 〇基礎としてはその通り。しかし災害時はチェーンソーを地面に置けない場面が多々あるため、「またがけ」が必須のスキルになる。

 まず始めに「チェーンソーを置いて始動する」ことは講習会や取扱説明書にも記載されている「正しいやり方」だということは押さえてください。しかしながら、消防職員がチェーンソーを使うような災害現場では、地面にチェーンソーを置く場所がないことがほとんどです。例えば急斜面や洪水によってひざ下が水面、地面が泥だらけなどが考えられます。もし置いて始動を徹底させるとしたら「エンジンを始動させるたびに安全なところまで走る」ことになります。一分一秒を争う場面でそんなことはできません。よって、またがけのスキルを身に着けることが必須となってきます。

 ではなぜ取扱説明書ではそのように記載がされているのでしょうか?チェーンソーは普段この道具を使い慣れていない方も利用します。だからこそ「少なからず始動時にリスク」がある、またがけを記載していないのではないかと考察できます。しかし、消防はその業務上、地面に置いて始動させることは現実的ではありません。今日からまたがけを行いましょう。


(災害現場は地面に置けに状況も多々あります)

②暖機運転について

 ✖15分の暖機が必要
 〇ツーサイクルエンジンのチェーンソーはその構造上暖機は必要なく、すぐにフルスロットルで利用できる。

 嘘のような話ですが、実際に言われた方が多数存在する言い伝えです。基本的に暖機運転が必要なのはフォーストロークエンジンであり、ガソリンに直接潤滑オイルを入れるツーサイクルエンジンには暖機運転は必要なく、すぐにフルスロットルで始動可能です。ではなぜ取扱説明書には「しばらく暖機」のような記載があるのでしょうか?

 これも先ほどと同じように利用しているユーザーがどんな人間か分からないためです。ツーサイクルエンジンに暖機の記載がある理由は、エンジンやオイルを暖めて固着したオイルや汚れを溶かす意図があります。イメージで言うと冷めたラーメンの固まった油を熱で暖めて溶かすイメージです。このため毎日チェーンソーを使っていてメンテナンスをしているような方には無縁な話なのですが、ほとんど使わない人にとってはこの固着した汚れが故障に繋がることがあります。よって明確に分数は記載せず、暖機という一文が記載されているのでした。
 
 ちなみにフォーストロークエンジンに暖機が必要な理由はエンジン内にオイルを循環させる必要があるためです。このためオイルをエンジンの隅々に循環させるために10分から15分の暖機が必要になります。一時期はフォーストロークエンジンのチェーンソーや草刈り機もあったようですが、重量の問題やコスト、暖機が必要なために「使いたいときに直ぐに使えないという」理由から廃れたとのことでした。


(最近では長い暖機が必要がない4サイクルエンジンも開発されています)

③チェンソーの点検について

 ✖フルスロットルでチェーンソーオイルの点検
 〇無負荷時のフルスロットルは故障の原因。チェーンソーオイルはアイドリング状態でも染み出ている。

 無負荷時にフルスロットルでソーチェーンを回し「チェーンソーオイル良し!」は消防救助技術操法では定番のやり方かと思います。しかし、この行動は故障の原因になりますので今日からやめましょう。なぜならチェーンソーは無負荷時にフルスロットルで回すことを想定して作られていないからです。消防業務で例えるならば深夜の火災指令のように負荷がかかりますのでチェーンソーを長持ちさせるためにもぜひやめてあげてください。

 そもそもチェーンソーオイルはアイドリング状態でもオイルタンクからチェンソーバーへ送られています。点検する際はチェーンソーのスロットルを優しく握り、ゆっくり回転させてオイルを循環させて遠心力で飛ばしてやれば問題ありません。消防がこのような取扱要領になってしまった理由は、恐らく取扱説明書に「切断時にはフルスロットル」と書かれていますのでそれを読み間違えた結果ではないかと考えています。


(本来部品を交換すれば一生ものしかし使い方が悪いとすぐに故障してしまいます)

④切断時のアクセルワークについて

 ✖常にフルスロットルで木を切断する
 〇木と会話しながら細かなアクセルワークで切断する

 取扱説明書にも「切断時は常にフルスロットルで利用してくださいと書かれています」が、実際の伐倒の現場でそのように扱っているプロを見たことがありません。実際には切断面を確認しながら細かなアクセルワークで樹木を切断していることが多いです。


(実際に切っているとアクセルワークの重要性が分かります)

⑤切断時の刃の使い方について

 ✖切断時に上刃を使うな!突っ込み切りは行うな!
 〇取説にも切断して良いと書かれているよ…。

 これに関しては消防特有のものだと思っています。消防救助技術操法の参考資料では下刃しか使っていないためにこのような勘違いが起きたのかもしれません。もし、上刃を使ってはいけないチェーンソーであればカバーが施されています。災害時に限らずチェーンソーは上刃を使う場面が多いためこの考え方は速やかに直した方が良いでしょう。

 突っ込み切りに関してはキックバックの危険性とごちゃごちゃにして考えている人がそのように伝えているのではと考えています。突っ込み切り=危険というわけではありません。 チェンソーの特性を理解していれば安全に利用できますのでぜひ訓練を行って活用してください。


(最低限取扱説明書は読んで理解しましょう)

⑥ブレーキについて

 ✖ブレーキレバーは力強くかけ、移動するときはエンジンを停止せず常にブレーキをかける
 〇ブレーキを意図してかけるときは優しく押す、移動時はエンジンの停止を習慣づけたほうが良い。

 ブレーキはキックバックが発生した際に「ソーチェーン(刃)の回転を強制的に止める機構」のことです。よって基本的にブレーキをかけることは、チェーンソーに大きな負荷がかかるためプロの方はブレーキを基本的にかけないと言う方もいます。その代わりに少しでも移動するときは「こまめにエンジンの停止」を行います。こまめな停止をするためには素早く始動するためにも股がけなどのスキルが合わせて必要になってくるでしょう。ただ、基本として「停止+ブレーキ」をかけることを習慣付けたほうが良いでしょう。

 また、人によっては力強く殴るようにブレーキをかける人がいますが、故障の原因になります。ブレーキをかけるときの力はブレーキの利きにまったく関係ありません。ロックがかかればバネなどの力によってブレーキがかかります。かけるときは優しくかけましょう。


(消防職員は力が強いため破損ことが多々あるようです)

⑦チェーンソーの停止について

 △スターターロープーを引いて停止しなければならない
 〇取扱説明書に記載がなければやる必要はない。

 実は同じメーカーで現行のチェーンソーでも型番によっては「スターターロープを引く」と書いてあるものと特に記載がないものがあります。こちらのメーカー様に理由を問い合わせたところ、引くと書いてあるスターターロープの型番は「エンジンを停止した際に大きな衝撃がスターターレバーにかかるため引く」と記載があるとのことでした。記載がないほうはこの衝撃を逃がすことができる機構を搭載しているため必要がないとのことです。

 大昔のチェーンソーは同じような理由でスターターロープの切断やエンジンの衝撃を減らすためにスターターロープを引いてから停止していたようですが、現在の特に消防に納入されているようなチェーンソーはそれを克服する機構が導入され必要なくなりました。また、スターターロープを引いてエンジンを停止させるためにはチェーンソーを地面に置く必要がでてきます。始動のほうで話した通り、少なくとも災害現場でチェーンソーを地面に置いて始動停止させることにメリットはありません。日々の点検から変えていきましょう。


(自分自身の機械の取扱説明書を確認しましょう!)

最後に七不思議とは違うけど身につけて欲しい習慣

 今回この記事を作成するにあたって相談させていただいたDRT JAPAN黒澤氏から皆様へチェーンソーを使うにあたって消防士に身につけて欲しい習慣があるそうです。それは「ブレーキ操作は左手で行うことが重要であり右手は常にリアーハンドルを握ること」になります。

 基本的にチェーンソーが動き出せばエンジンが停止するまで右手を離してはいけません。実際にエンジンをかけた状態(実験時は安全のためにブレーキはかけてください)で左手はガイドバーを持って右手を離してみてください。チェーンソーが安定しないことが分かるはずです。この不安定さは思わぬ事故に繋がります。また、左手でブレーキ操作の習慣をつけることで右手で力強くブレーキをかけたことによる故障も防げます。ぜひこの習慣を身につけましょう!


まとめ

 今回はチェーンソーの取り扱いに関して言い伝えによる誤解を解く気付きになればと思い作成しました。しかしながらこれからも様々な道具が進化していくことが目に見えています。例えばバッテリーチェーンソーが導入されていればボタン一つで始動が可能です。地面に置く必要はありますか?わざわざ地面に置いて始動し停止することはないでしょう。時代によってマニュアルもガイドラインも変更していく必要があります。学び続けましょう!

そして…。

 チェーンソーの技術を身に着けるには実践が一番です。能登半島地震のボランティアも現在継続されておりますし、7月25日に発生した水害で被災を受けた山形県、秋田県で技術系ボランティアが実施される予定と伺っています。ぜひお時間を作り、参加すると自分自身のためにもなによりも市民のためにもなります。ぜひ検討していただけたら幸いです。

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DGR.119
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DRT JAPAN 長野
消防チェーンソー七不思議


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