はじめに
私たちの生活に欠かせない食事の中で、炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルの5つの栄養素は重要な役割を果たしています。
特にビタミンとミネラルは、体内で補酵素として機能し、その働きは多岐にわたります。これらの栄養素は、子どもの発達において非常に重要であり、さまざまな食材から適切に摂取することが大切です。
幼児期における成長の遅れや急激な体重増加は、その後の健康に影響を及ぼす可能性が指摘されています。
今回は、ビタミンとミネラルの中から、子どもの成長と深く関連している栄養素をいくつかご紹介します。
ビタミン
ビタミンは、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)と水溶性ビタミン(ビタミンB1、B2、ナイアシン、B6、葉酸、B12、Cなど)に分類されます。
日本の「食事摂取基準(2020年版)」では、脂溶性ビタミン4種類、水溶性ビタミン9種類の計13種類のビタミンが掲載されています。
ー脂溶性ビタミンー
ビタミンA
免疫力の維持や正常な視覚機能に欠かせない栄養素であり、細胞や組織の増殖時にも必要とされ、子どもの成長に重要な役割を担っています。
食事摂取基準での小児(2歳~11歳)の推奨量は350μg~600μgとされています。
ビタミンAを多く含む料理として、ちらし寿司が約151μg、ほうれん草のバターソテーが約30μg含まれています。
1食だけで必要量を満たすのは難しいため、3食の食事にビタミンAを含む食材を取り入れて摂取することが重要です。
また、脂溶性ビタミンは体内に蓄積されやすいため、過度な摂取による過剰症に注意が必要です。
ビタミンK
ビタミンKには多くの種類がありますが、人間にとって重要なのはビタミンK2(メナキノン-4とメナキノン-7)です。腸内細菌が産生する栄養素ですが、新生児は腸内細菌が少ないため、出生直後にビタミンK2シロップを投与する場合もあります。
また、ビタミンDと共にカルシウムの吸収を促進し、丈夫な骨や歯の形成に寄与します。
さらに、骨からのカルシウム溶出を防ぎ、骨量の減少を防ぐため、子どもだけでなく大人にとっても重要な栄養素です。
小児の1日の摂取目安量は60μg~120μgとされていますが、他の脂溶性ビタミンとは異なり、過剰症の報告がないとされています。
ひきわり納豆1パックで約465μgのビタミンKを摂取でき、納豆が苦手な子どもには、ブロッコリーとエビのサラダ(約86μg)やコールスローサラダ(約44μg)などの料理で補うことができます。
ー水溶性ビタミンー
ビタミンB2
酸化還元反応や脂質代謝に関与するビタミンで、「成長ビタミン」とも呼ばれ、子どもや胎児の発育に大きく関わっています。
脂質を分解して多くのエネルギーを生み出し、新しい細胞を作るため、成長期の子どもの推奨量は0.5㎎~1.3㎎と高めに設定されています。
動物性食品に多く含まれ、豚レバー(1.44㎎)や牛レバー(1.2㎎)が代表的ですが、子どもには味や食感が難しい場合があります。鶏肉を使ったクリームシチュー(0.19㎎)や筑前煮(0.19㎎)、エビやたらこを使ったグラタン(0.2㎎)などの料理は、子どもでも食べやすいでしょう。
ビタミンB6
たんぱく質を分解してエネルギーに変換し、分解されたアミノ酸で筋肉や血液、ホルモンや抗体などを作り出します。
そのため、成長期の子ども(10歳~17歳)の推奨量は成人と同じかそれ以上に設定されています。
また、神経伝達物質(GABA)の合成を助け、脳を正常に保つ働きがあります。
ビタミンB群はそれぞれ独自の働きを持ちつつ、互いに協力し合っており、ビタミンB6はビタミンB2によって活性化されるといわれています。
推奨量は0.5㎎~1.2㎎とされています。さけのムニエルなどがお勧めです。
ミネラル
■鉄
全身に酸素を運び、赤血球を作ったり、貧血予防や解毒作用を助ける鉄ですが、子供の成長では運動発達に影響を与えます。成長期の子供は必要量が増加するので不足に注意しましょう。
不足することで鉄欠乏性貧血となり、疲れやすい、めまいがするなどの症状が出ます。集中力が続かなくなり学校の成績が芳しくなくなることもわかってきています。
また、激しい運動やマラソンなどでも不足するので運動をする方も注意が必要です。小児の推奨量は4.5㎎~14.0㎎の範囲で設定されています。
シジミの味噌汁(2.3㎎)や小松菜とがんもどきの煮物(3.3㎎)などを食事に取り入れてみましょう。
■マグネシウム
マグネシウムは50~60%が骨や歯に存在しています。残りが、筋肉や脳、神経に存在しており、300種以上の酵素を活性化すると言われています。
骨や歯にカルシウムを定着させたり、筋肉が正常に動くように働きかけるのもマグネシウムの仕事です。
また、糖質の代謝やたんぱく質の合成にも関与し多方面から酵素反応をサポートするミネラルです。海藻類や玄米や大麦などの雑穀に多く含まれています。
小児での推奨量は70㎎~290㎎の範囲で設定されており、わかめなどの海藻をのせたそば(62㎎)やたんぱく質も豊富な五目豆(46㎎)、玄米を使ったチーズリゾットは相性バツグンのマグネシウムとカルシウムが両方摂れておすすめです。
微量ミネラル
■亜鉛:
味覚を正常に保つ働きがあることは有名ですが、その他、細胞を作って成長を助ける働きやホルモンを作るのにも関与しています。
成長期のこどもは全身で細胞が活発に作られるため、欠乏すると成長遅延や発育遅延を引き起こす可能性があるといわれています。
海外の小児を対象とした研究では、自閉症スペクトラム障害(ASD)の小児は血漿亜鉛が低く、血漿銅は高くなる傾向があるという報告や、ダウン症児でも血中の亜鉛・セレン・カルシウム濃度が低いという報告もあります。
推奨量は3㎎~7㎎と設定されていますが、亜鉛は吸収されにくく、前述したとおり成長期は活発に亜鉛が使われるため、不足しないよう推奨量だけにとらわれず積極的に食事などから取り入れるのがベターです。ハンバーグ(1.2㎎)やチリコンカン(1.2㎎)、餃子(1.8㎎)などはお子様でも食べてくれるお料理かと思います。
■銅
骨や血液中に多く存在している銅は、鉄の吸収を助けて貧血を予防する働きや抗酸化の働きがあることで知られています。
貧血を予防したりこどもの成長を促すためにも銅の摂取は重要です。推奨量は0.3㎎~0.7㎎ほどです。いんげんの胡麻和え(0.2㎎)やエビフライ(0.19㎎)、ピュアココア(0.11㎎)などをお食事に取り入れてみましょう。
■動物性たんぱく
動物性たんぱく質の摂取が不足すると、ビタミンB6やビタミンB12、他にもビタミンD、鉄、カルシウム、アミノ酸など様々な栄養が不足します。
これらの栄養素が不足することで、身長が伸びなかったり、くる病の原因となったり、様々な病気の原因に繋がるリスクが増加します。
特にビタミンDが不足すると、小児の欠乏症で有名な『くる病』にかかるリスクが高まります。
くる病にかかると幼児では頭蓋骨が柔らかくなったり、生後半年頃にできるようなるお座りやハイハイが遅かったり、歯の形成が遅れたりします。
重度のくる病では、身長が伸びず、骨が変形することもあります。お肉だけではなくお魚や卵など様々な食材からたんぱく質を摂りましょう。
■質の良い油
油は大きく分けて2種類あります。植物や魚の油に多く含まれている『不飽和脂肪酸』と動物性食品やバターなどに含まれている『飽和脂肪酸』です。
特に、不飽和脂肪酸は必須脂肪酸と呼ばれ、人間の体内で作ることができない栄養素のため、食事などから積極的に摂取することが必要な油です。
特に不飽和脂肪酸のオメガ3系脂肪酸(DHA・EPAなど)は現代人に不足している脂肪酸と言われており、より積極的に摂取したい質の良い油です。
DHAが不足しているお母さんから生まれた子供は、発達が遅れる傾向にあるというデータもあり、妊娠を考えている女性は日ごろから摂っていただきたいです。
離乳食期に入ったお子様にはえごま油・亜麻仁油を小さじ一杯ちょっとをおかずや味噌汁などにかけ毎日摂取するのがおすすめです。油は加熱することで酸化しやすいため常温で摂るようにしましょう。
加熱して使用する際にはオリーブオイルを使うのがおすすめです。
発達障害の治療
発達障害(Neurodevelopmental Disorders, NDDs)は、神経発達の異常により生じる多様な症状を特徴とし、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)などが含まれます。
これらの障害は、遺伝的要因や環境的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
近年、栄養療法が発達障害の症状改善に寄与する可能性が注目されており、特にビタミンB群、オメガ3脂肪酸、プロバイオティクスの効果に関する研究が進んでいます。
これらの栄養素が発達障害に及ぼす影響について、最新の研究を踏まえ、説明していきます。
発達障害の治療
1. ビタミンB群の役割と発達障害への影響
ビタミンB群は、水溶性ビタミンの集合体であり、エネルギー代謝や神経伝達物質の合成など、脳の機能維持に重要な役割を果たしています。特に、葉酸(ビタミンB9)やビタミンB12は、神経管閉鎖障害の予防や神経細胞の維持に関与しています。
ビタミンB群と神経発達
ビタミンB群は、神経伝達物質の合成やミエリン鞘の形成に関与しており、神経系の正常な発達と機能維持に不可欠です。
例えば、ビタミンB6は、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の合成に必要であり、ビタミンB12と葉酸は、ホモシステインの代謝を通じて神経細胞の健康を保つ役割を担っています。
ビタミンB群の欠乏と発達障害
ビタミンB群の欠乏は、神経発達に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、葉酸の欠乏は、神経管閉鎖障害のリスクを高めることが知られています。また、ビタミンB12の欠乏は、神経障害や認知機能の低下を引き起こす可能性があります。
ビタミンB群による改善例
ビタミンB群の補給が発達障害の症状改善に寄与する可能性が示唆されています。例えば、ビタミンB6の補給がADHDの症状を改善する可能性があると報告されています。
また、葉酸とビタミンB12の補給がASDの症状改善に寄与する可能性があるとする研究も存在します。
2. オメガ3脂肪酸の役割と発達障害への影響
オメガ3脂肪酸は、多価不飽和脂肪酸の一種であり、脳の構造と機能に重要な役割を果たしています。
特に、ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)は、神経細胞膜の構成成分として、神経伝達や炎症反応の調節に関与しています。 
オメガ3脂肪酸と神経発達
オメガ3脂肪酸は、胎児期から乳幼児期にかけての脳の発達に不可欠であり、視覚機能や認知機能の発達に寄与しています。また、オメガ3脂肪酸は、神経伝達物質の合成や放出、シナプス可塑性の調節など、神経機能の維持にも関与しています。
オメガ3脂肪酸の欠乏と発達障害
オメガ3脂肪酸の欠乏は、神経発達や行動に影響を及ぼす可能性があります。例えば、オメガ3脂肪酸の摂取不足は、注意力の低下や多動性の増加と関連することが報告されています。
オメガ3脂肪酸による改善例
オメガ3脂肪酸の補給が発達障害の症状改善に寄与する可能性が示唆されています。例えば、DHAとEPAの補給がADHDの症状を改善する可能性があるとする研究があります。
また、オメガ3脂肪酸の補給がASDの社会的相互作用やコミュニケーションの改善に寄与する可能性があるとする報告も存在します。 
3.プロバイオティクスの役割
プロバイオティクスは、生体に有益な効果をもたらす生きた微生物であり、腸内フローラのバランスを整えることで健康維持に寄与します。
近年、腸内フローラと脳機能の関連性が注目されており、腸脳相関(gut-brain axis)の観点から、プロバイオティクスが発達障害に及ぼす影響が研究されています。
発達障害のある個人では、腸内フローラの組成が健常者と異なることが報告されています。
特に、有害な腸内細菌の増加や短鎖脂肪酸(SCFAs)の産生低下が、神経発達や行動に影響を及ぼす可能性が示唆されています。
例えば、ASDの患者では、腸内のクロストリジウム属細菌の増加や、バクテロイデス属細菌の減少が観察されており、これが腸内炎症や神経伝達の異常につながると考えられています。
プロバイオティクスの補給が、発達障害の症状改善に寄与する可能性があるとする研究が増えてきています。
例えば、ラクトバチルス属やビフィズス菌属のプロバイオティクスを摂取することで、腸内フローラが改善し、ASDやADHDの症状が緩和される可能性が示唆されています。
ADHDに対する研究
一部の研究では、プロバイオティクスの摂取がADHDの症状を軽減し、注意力や情緒の安定性を向上させることが示されています。
ASDに対する研究
プロバイオティクスの摂取が、腸内の炎症を抑え、神経伝達の異常を改善することで、ASDの社会的コミュニケーション能力を向上させるという報告があります。
また、特定のプロバイオティクスが自閉症スペクトラム症の腸内フローラのバランスを整えることで、腸脳相関を介した行動改善に寄与する可能性が示唆されています
発達障害と栄養療法の統合的アプローチ
発達障害に対する栄養療法の有効性が示唆される中、単独の栄養素ではなく、複数の栄養素を組み合わせた統合的アプローチが重要と考えられます。
栄養療法の個別化
個々の患者の遺伝的背景、腸内フローラの状態、食生活、環境因子を考慮しながら、適切な栄養素を補給する必要があります。
例えば、オメガ3脂肪酸の摂取と同時に、ビタミンB群の補給を行うことで神経伝達の調整をサポートするなど、相乗効果を狙った介入が求められます。
生活習慣との組み合わせ
栄養療法は、食事だけでなく、適度な運動、睡眠の質の改善、ストレス管理といったライフスタイルの改善と組み合わせることで、より効果を高めることができます。
免疫力を高めるためには発酵食品などの腸内環境を整えてくれる食品が有名ですが、もち麦も腸内フローラによい食材です。
βグルカンが含まれていて、セカンドミール効果というもち麦を取り入れた食事の次に摂る食事の血糖上昇も抑える効果が研究で示されています。
また、腸内の良い菌のエサとなって腸内環境を整えるプレバイオティクスによる健康維持や増進効果がもち麦は非常に高いことがわかっています。寒暖差が激しいこの時期には、特に腸内環境を整え、風邪の引きにくいからだ作りを行いましょう!
細かな栄養指導は、わたしの栄養療法を受けていただければ可能になりますので、6歳以上のお子様は採血さえ頑張ってもらえたらと思います。
オンライン診療でも個別に指導しますので、お気軽にご相談ください。