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206悔し泣き207親のできること208揺れる二浪209茨の道

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206悔し泣き207親のできること208揺れる二浪209茨の道
206話悔し泣きが出るまで
207話 親の出来ることなんて
208話 揺れる二浪心

206話悔し泣きが出るまで

イチローがなんであんなに
自分の力が信じられない人間になってしまったのかと言うと
それは悔し泣きが出るまで何かに打ち込んで、
更にそれを乗り越えた体験が無かったからだったんだよ。
小さいうちからやらせるといい、と言われることは
いろいろあるけどその中に スポーツ があるじゃん。
でもなぜスポーツをやらせるといいのかを
私は正しく理解できていなかったな。
スポーツを通して得るものはいろいろあると思うけど、
その中で一番と言っていいほど大切なことが
「自信をつけること」
だったんだね。
私はその自信と言うのは、
俺は野球が上手いとか、
水泳ならそこらの奴には負けないとか、
そういうことから生まれる自尊心のことかと思っていたんだよ。
だからスポーツが得意な子はそれでいいけど
イチローみたいにスポーツが得意でない子には
スポーツをやらせてもあまり効果がないと思い込んでいたんだ。
でも、そうじゃなかったんだな。
自信は自尊心のことではなくて
「自信 = 自分の力を信じること」
だったんだね。
とても無理そうな難しいことに直面したときに、
自分はやれば出来るとか、
絶対にやりとげられるとか、
そう自分を信じて挫折せずに突き進んでいく力。
それがスポーツを通して付くんだね。
でもそうなるためには、ただやっているだけじゃだめなんだ。
悔し泣きが出るまでやらないと。
やり方はその子の限界、辛さの極限まで追い込んでから
更にそのちょっと上を目指させそれを必ずクリアさせる。
これを繰り返す。
何でもいい。
その子なりの設定でよいのだから、
得意不得意はこの場合関係ないのだ。
今より
タイムを1秒縮めるとか。
飛距離を1メートル伸ばすとか。
断続ではなく5回連続で成功させるとか。
もともと限界までやらせているわけだから
その先の1秒、その先の1メートル、その先の5回っていうのは
想像以上に苛酷。
それをなんとか超えさせるために
何度も何度も繰り返させる。
伸ばさなくてはならない飛距離が逆に縮んだりもする。
それでも続けさせる。
できるまで。
そのうち悔し涙があふれ出す。
その場にへたり込むこともある。
でもそれでも続けさせる。
そうやって同じことを繰り返させ続けると
時間はかかっても
子供はやがてできるようになる。
諦めかけたことが
無理だと思ったことが
できるようになる。
この事実が大きな自信につながるんだね。
この体験を、小さなものでいいから
何度も何度も繰り返すことが必要だったんだなぁ。
そうすれば自分はやれば出来る、と
心底信じることができるようになるんだね。
そういう体験が無ければ
口でいくら 
「やれば出来るよ」 
などと励ましたところで絵空事にしか聞こえない。
イチローもそれなりにスポーツをいくつかやったけど
どれも泣くまではやっていない。
そうかそうだったのか。
私は今の今まで泣くまでやる必要なんかないと思っていた。
なんてことだ。
ピアノなど、楽器などもいいと思うんだ。
イチローはピアノもやっていた。
でも私が余計な口出しをしていた。
3才のイチローを連れて、
ピアノの先生を訪ねたときに、
私は先生にこうお願いした。
「楽しいレッスンにしてください。先生の所へ通うのが楽しみになるような。正直、上達は二の次でもいいです。せっかく好きで始めるピアノです。
ピアノが嫌いにならないようにしてください。」
何でこんなことを言ったのかと言うと、                                                             
私はピアノが大嫌いだったからだ。
無理やり習わされたこともあるけど、
自分ではちゃんとできていると思っているのに
全然○がもらえない厳しいレッスンに辟易として、
練習することすらしなくなり
とうぜん上達するはずもなく
褒められるわけもない。
私は今でもピアノが嫌いだ。
イチローにそうなって欲しくはなかった。
でもそれが間違っていたのか。
なんだ。 
また結局私が悪いのか。
イチローは否定語ばかりを並べる。
「無理だ。」とか
「ダメだ。」とか。
私は言霊を恐れて
「『今は無理だけど絶対やる。』とか
『今はダメだけど、頑張って届かせる。』
とか、口だけでもいいから言ったほうがいいよ。
信じられないかもしれないけど
宣言したとおりになるらしいのよ。人生って。」
と勧めてみても納得できるはずなどなく
なおさら否定語を吐きまくる。
とうとう私はキレて自分の部屋へ駆け込み
「ああ!もう!腹の立つ!」
と 布団を思い切りたたきながらじたばたと暴れた。
ドアを閉める余裕はなかった。
イチローは開いたドア越しにそれを遠目に見ていた。
ふんだ。かまうもんか。
親と言うのは子供が一所懸命頑張って出した結果なら
たとえどんな結果であってもそれをちゃんと受け入れられる。
でも努力不足による結果の場合は・・・。
そんなことがあったこともすっかり忘れた
次の日の夜イチローが言った。
「○大の◇学部も受けようかな。」
今までは何を勧めてみても、
「無理」としか言わなかったのに。
私は
「そうね、受けてみるのもいいかもね過去問やってみたらどう?」
と言った。そして
「○大、取ってね!取れるって先生が言ってるのだから取れるわよ。」
と付け加えた。
するとイチローが
「・・・そうだね。」
と、肯定的なことを言ったのだ。
私は
「そうそう!それでいいのよ!その気持ちが大事よ。」
と言った。
イチローは
「・・・じゃ、○大は全部取るわ。」
と初めて宣言したのだ。
「いいねぇ!」
私は両手を上げて喜んだ。
イチローは
「…僕が取るとか、取れるとか、言っといて、取れなかったらお母さんショックだろうな、と思ってさ…。」
へ? そうだったの?
「いやいや。マイナス発言はよくないことを引き起こしそうでさ、口にされるたびに正直辛いわ。
前向きに取る気になって、全てプラス思考でやっててもらった方がず~っといいよ。」
その私の言葉を受けて
「そうなんだ。」
と、彼は静かに言った。
楽に行ける推薦蹴散らして、
せっかく二浪したんだ。
本来ならここで悔し泣きがでるまで
物理と数学に立ち向かうことができたら
いろんな意味でこの先役立つと思うんだけど。
まぁ私としては
前向きに全力で頑張ってくれたらそれで十分だけどね。
母たちよ。
時には我慢せず暴れてみましょう。

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