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293話 イケメン先生さようなら 2年間ありがとう

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293話 イケメン先生さようなら 2年間ありがとう

293話 先生さようなら

「今やることがなくって、寝るのにも飽きて、仕方ないから昔やってたゲームを引っ張り出してやったりしてるんですよ。

教習所へ行ったら満員だと断られて、バイトする勇気もないみたいで・・・。」
私は少々呆れた声でそう言った。


私は大学合格が決まったらすぐにバイトを探し、
春休みの間に10万以上稼いだからだ。


我が息子ながら、なんてひ弱な奴なんだ。
親の顔が見たい・・・って私か。(汗)

「そうなんですか。 急にやることなくなっちゃったからでしょうね。向こうの教室にも、やっぱり進路が決まった子達がまだ出入りしてますよ。
行くとこがないんでしょうね。」
と言って笑った。

「3月になってすぐ、教習所へ行かせてみたんですけど、今年は消費税増税前の駆け込み需要で、混んでいるようで・・・。」
そこまで話して私はイチローの方を見た。


するとイチローは
「今は入ってもキャンセル待ちするしかないんだけど、キャンセル待ちしてても3月は空かない、って言われたんで・・・。」
と説明した。


イチローは教習所の無料お試しに行って
2~3周車を運転させてもらっていた。
最近の教習所ってそんな風なんだね。
イケメン先生は
「そうなんだ。 でも、もう申し込みはしてあるの?」
と聞いた。

イチローは
「いえ。 大学行ってみないと、スケジュールがどんなもんなのか見当がつかないんで・・・。」
なんでこう イチローの話は最後が締まらないんだ?

見当がつかないんで、なんなのさ?
見当がつかないんで大学へ通ってみてからまた考えようと思っているんです。
じゃないのか?


肝心な部分を何故言わない。
私はそんなところに妙に引っかかる。
先生は、何も気にせず
「そっか。」
と言った。

そして
「僕もそのあたりで免許取りましたね。 5月くらいから行ったんだったな。たしか。」
と教えてくれた。
「そっか~。じゃ、イチローもそうしなさ~い。
イケメン先生の真似をしておけば間違いないでしょ。」
車種を聞いたら、凄い車だったけど、
私が想像していたのとは違ってた。
そして
「今は乗らないですね。車庫に置きっ放しです。」
意外なことを教えてくれた。

あらもったいない。
だったら売ればいいのに。
車なんてしまっておいたって駄目になるだけだ。
「なんで~。乗ればいいのに。」
と言うと
「電車の方が確実でしょ。 電車がいいですよ。」
と答え
「車は大学のころ買ったんですけど、今思うと・・・あの年で、あんな車に乗ってた自分が恥ずかしいと思いますよ。」
と大人の発言をした。


へー。  
そう言う考えになったんだ。
ほー。
私は意外な台詞にちょっと驚いていた。

「今、新卒の給料なんて20万くらいじゃないですか。
スタート時点ではそんなもんですよね。そこからなんだかんだ引かれて、
手取りは15万なんていうの珍しくないですよね。

維持費のかかる車をもってしまったので、
それじゃとても足りなくて。

それもあって、どうしようかな~と考えて
現在に至る、という経緯もあるんです。」

へー。
そうだったんだ。
そうだよね。 
ウチだけでかなり払っているもんねぇ。(笑)
(注 勝手に追加したからです。マサヒロはそんなに払ってません。)
「ねえ、先生・・・。 今は何もしなくていいのよね?そんなにやることないんだったら、単語でも覚えたら?って私は思ってしまうんだけど・・・」
私が聞くのは馬鹿げてる、と思ったものの
折角だから聞いてみた。

先生は ははは と笑いながら
「いいですよ。今は。何もしなくって。寝てても、ゲームしてても大丈夫。」
と言ってくれた。

良かった。私は太鼓判をもらった気分だった。
私はなんでそんなことを考えるのかの

理由を話した。
「だってこの子、最後まで英語できなかったでしょう?キャサリン先生には多大なご迷惑をおかけしてしまって・・・。
大学へ入って英語だけだって落ちこぼれそうなのに、第二外国語もあるんでしょ?
そうそう、イチローは先生の真似をして中国語を取ったらしいですよ。」

先生はイチローの方を向いて

「良いと思うよ。それで。」
と言ってくれた。

イチローは
「ああ、はい。」
とつまらない返事しかしない。
「大丈夫なのかな。」
私が言うと 先生は
「語学で留年なんて聞かないですから大丈夫ですよ。」
と言う。


「大丈夫って言うのは、翌年再履修できるって意味ですよね。単位が簡単に取れるって意味とは違いますよね?」
イチローが聞いていると思うと、私は食い下がって確認をする。
「まあ、そうですけど。 入試英語なんかとは違いますから、平気ですよ。」
とさらりという。
「そうですか。 大学の語学って・・・どんどん読んでいく感じでしょうか?」
「・・・ん、ま、そうですね。」
と言った。

「そうですか。 じゃあ、まあ語学は大丈夫として問題はやはり理系科目の方ですね・・・。
結局進学したのは バリバリの理系の分野になりましたから。聞いたところによると、結構難しいらしいですね。
心配なのはそっちですか・・・。」
その話になった途端
イケメン先生は突然真面目な顔をして
イチローの方を向いた。


「あのさ、まずいかな、って思ったら、すぐにここに来るんだよ。数学が解らないな、と思ったら、もうそしたらすぐにだよ。」
と言った。
先生の声の感じがそれまでと違っていた。
イチローも
真剣な面持ちで
「ああ、はい。」
と言った。
あのさ。
オメーはさ。
さっきからさ。
なんで
ああ、はい  
しか言わないわけ?
この、ボキャ貧男がっ。
ボキャ貧男は見ていると疲れるので
私は視線を先生に向け
「先生それってメンテナンス~?」
と聞いた。
「そうですね。メンテナンスですね。メンテナンスしましょう。」
と言ってくれた。
「保証期間は何年ですか?(先生が授けてくれた知識の)」
さすがにそれは聞けなかった。


聞かなかったけど伝わって、
やりにくいな、この保護者 
先生はそう思ったかもしれない。


そしてまたイチローの方を向いて
はっきりと
「あのさ、来るのが遅いとダメだよ。前にも来たヤツいたんだけどさ、
そこまで行っちゃてたら、ってとこまで行っちゃってるんだよ~。
おまえ、だから留年するんだろ~?って言ったけどさ・・・。
だから、まずいと思ったらすぐに来て。」
先生は二浪のイチローが留年することを
とても心配してくれていた。
ありがたかった。

私は聞くの忘れていたのを思い出し、
「あ、ところで先生はどうでしたか? 論文通りました?」
と聞いた。

先生は
「はい。おかげさまで。」
と言った。

先生はT大の博士論文が通り 博士号を取ったのだった。

「きゃー。すごぉい! やりましたね!おめでとうございます。」
と私は年も省みずにはしゃいだ。

ポーカーフェイスの先生は顔色一つ変えずに
小さくお辞儀をした。

「素晴らしいですね~。まあ、おとりになるだろうとは思っていましたけれど。
受験のピークと重なるから、大変だろうなって思ってたんですよ。」

「特に、そんなに力を入れてって無かったですけど無事に・・・。」

そーなんだ。 そーなんだ。
だったらよかった。

はー。
私はイチローの方を向いて
「すごいよね。T大ドクターだよ。ねぇこの凄さが、この素晴らしさが、アナタにわかる?」
と聞いた。

「うん。すごいと思うけど・・・、本当の意味ではまだよく解っていないのかもしれない。」
と言った。

そうだね。その冷静さは
この凄さが解っていないね。
だってさ、単純にさ、
日本の最高峰じゃん。
日本の頭脳だよね。
そんな人がさ、イチローのとなりでイチローのためだけに

物理と数学を教えてくれたなんてさ。
かたじけない。m(_ _ )m

偏差値30台からスタートしたイチローの大学受験。
先生の実力あればこその理系合格だった。
私が、あんまり キャーキャー騒ぐので
そう言う話が好きならば、と

先生は話題提供として
「博士号を取ると、カードの名前の前に ドクター って入れられるんですよ。」
と教えてくれた。

「ホントぉ! かっこいい~!」
私は愚息の母を何年もやっているので、
頭のいい人に超弱いのだった。

それに博士号って言ったって 
T大博士号だもん。 箔が違う箔が。

「・・・ねえ、先生少しやせたんじゃない?」
「そうですね。そうかもしれない。」
イケメン先生は食べることよりも考えることを優先させてしまうことが良くある。
何があろうと、食べることだけは忘れない、
イチローとは違うのだ。


「今日も夕飯まだですよね。
普段はどんな食事ですか?」

と聞くと、

「デリバリーばっかりですね。 ピザ屋の兄ちゃんとも仲良くなりました。年中取っているんで。」
と話す。
「先生、朝も昼もよく抜きますよね。」
と言うと
先生は自分でもよく解っているようで
「食べたほうがいいんですけどね。食べるとやっぱりちがうっていうのを実感したりしますけどね。」
と話してくれた。
私は
「そうですよね。ブドウ糖は頭の栄養ですからね。」
と言った。
私はどこかで 母親魂が燃え、食べていないと言うと食べさせたくなる。
今は良くても、後から体に影響がでるといけませんから
食事だけはとってくださいね。

そうも言いたかったけど、
そこまで言うのはおせっかいなので
この辺で止めておくことにした。

気が付くと、さっきまで聞こえていた
窓に打ち付けるひどい雨の音が止んでいた。

「あれ?雨こやみになりましたかね?」
私がそう言うと先生は
「そうかもしれませんね。今日はひどい降りになると言ってたんで、生徒も早帰りさせたんですよ。」


・・・すみませんねぇ。
そんな早じまいの日に。
訪問日をキャンセルすることもせずに
嵐のような母子がおしかけて・・・。


とうとう塾を後にする時が来た。
私はもう来ることはないだろう。
先生はイチローに
「大学に通いだしてしばらくしたら一緒にラーメンでも食べような。」
と言ってくれた。


先生のラーメン好きがイチローにも伝染して
イチローはうまいラーメン店の伝授も受けていたのだ。
「○○のあたりに行ってみよう。
○○は激戦区だからね。押さえておいた方がいいよ。」


ポーカーフェイスの先生が熱く語る。
私は関係ないけど話に加わりたくて
「家系とか?」
と言ってみた。
「そうですね。もちろんそれも。それに限らずですけどね。」
と教えてくれた。
「まずさ、ラーメン食べて、そのあと軽く飲んでさ・・・。」
ここまで言って先生は私を見た。
「あ、イチロー君は、二十歳過ぎてるからいいですよね?」
と聞いてくれた。
「ええ。大丈夫。誘ってやってください。」
それを聞いて安心して先生は
「時間をおいて、もう一軒行くんだ。」
と言った。


へー。ラーメン屋のはしごするんだ。
まあ、男子はラーメンの替え玉とかするから
時間おけばそのくらいは食べられるかもね。
「へー。ラーメン部だね。」
と言うと
「そうですね。ラーメン部ですね。」
と返してくれた。

○塾の卒塾生しか入れないラーメン部・・・
いいかもしれない。
「そこは共通の趣味なんだから、行こう!」
イチローは嬉しそうに。
「はい。」
と言った。


先生に玄関先で、もう一度お礼を言った。
その後には
さようなら
というのが筋だけど
私は
さようなら 
とは言いたくなかった。
それでいつもの面談の帰りのように
それでは失礼します。

と言ってドアを閉める。
外に出ると、バケツをひっくり返したように降っていた雨は嘘のように上がっていた。
私はイチローを捕まえて
「ほら。また天気が変わった。」
と言った。


案の定、強い風が吹いている。
「ほら、やっぱり風も吹いてきた!」
イチローは 
「俺のせいなの?」
と言って笑った。


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