281国立一本282嬉しい励まし283三年間の受験生終了284おみくじ

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281国立一本282嬉しい励まし283三年間の受験生終了284おみくじ
281話 国立一本
282話 地方国立受験、嬉しい励まし
283話 3年間の受験生終了
284話 乾杯
284話 おみくじ


281話 国立一本

空港からの貸し切りバスで大学に到着すると
スタッフジャンパーを着た、大学のお兄さんが待ちかねたように
「こっちですよ。」
と明るく道案内をしてくれる。

その道すがら、
「あれがグランドです。 向こうの四角い建物が体育館。プールはその奥です。」
とガイドに余念がない。

私は指の先を見ながら
「へー、あれが。」
「ふーん、あっちに。」
などと子供のようにキョロキョロしながら歩くのだった。

今日は大学が下見に解放されている日なので
受験生と思しきいろんな子達とすれ違う。

在学高校からの指示なのか
制服で来ている子も多かった。

校則なのか髪をゴムでしばっている女の子。
東京ではあまり見かけない、クラシックなスタイルの
制服が多いように思った。

学ランを着て、何人かで見て回る子もいる。
イチローは二浪なので、その子達にくらべると
二つ年上なんだし、大人っぽくて当然なのだけど、
彼ら、彼女らは、制服を着用してるせいか、
さらに幼く見える感じがした。

彼ら、彼女らと同級生になるわけか。
私は、案内してくれている大学生に
「地元の出身ですか?」
と出身を尋ねてみた。

すると
「いえ。僕は岐阜なんです。浪人が許してもらえなかったのと
大学は、国立限定という約束だったので、ここを受けました。」
という。

出たな。国立一本。
「へー。国立限定・・・ね。
え?ってことは私大を受けても いないの?」
私は驚いて尋ねた。

「ええ。国立だけって約束ですから。」
なんだって。
なぁんだって。

ウチはさ、私大にさ、一体いくらの受験料を払ったと思う?
それもさ、三年もよ?
ざっと計算してみても上等な国産車が買えるくらいよ。

(怖くて詳細には計算できない。数字に弱くてよかったと思う瞬間でもある。)

いい?

それはね、ただの受験料なのよ? 

そのほとんどがうたかたの夢に消えたのよ?

その無駄さが、
その愚かさが、
読者の皆さんにならわかってもらえるかしら!

私はこんな話を聞くたびに
やっぱり私が過保護だからいけないのだろうかと
自分を責めてしまうのだった。

こう言う子は現役予備校にだって通ってないし、
大抵地元の公立高校に通ってんだよね。

ウチは何よ?
地元に無料の中学があるのに
わざわざ中高一貫のお私立で。

そこは大学付属だったのに二浪して。
現役予備校も行ったし、
個別指導も付けたし、
一浪時には大手予備校と個別指導の
二股スタートだったし、
二浪時にもイケメン先生の塾でダントツ追加授業を受けたと思う

子供3人分・・・、
いやこの、案内してくれている大学生のような育て方と比べたら
軽く5人分くらいのお金がしっかりとかかっている計算だ。

だからといって5倍立派に育ってるわけがない。
お金をかけたからってどうなるってもんでもないのだ。

そうよ。
そんなの、知ってるわよ。
ふんだ。
どうせ私が悪いのよ。

私はやさぐれた感じをなるべく出さずに

「へー。すごいねぇ。」と言った。

やさぐれてはいるが私はその子も、そのご両親も、素直に尊敬してしまう。
そしてさらに尋ねた。
「国立後期はどこに出願したの?」
「後期もここです。」
彼はスパッと言い切った。


「へー。そうなんだ。」
国立一本なら、後期はランクを下げたくなると思うのに、
よく踏ん張ったな。


もちろん進学する以上、どこでもいいわけはないだろうし
ゆずれない条件もあるだろうけど。


・・・ちなみに・・・

ウチは後期はもっとランクを下げて出願している。

ここは前期ならA判定だけど、
後期だとC判定くらいになってしまい
イチローには入りずらそうだったので、
後期もA判定のところを探して、
結果、別の大学に出願していた。


イチローの場合は、
ミスしてしまうのが、ほぼ障がいなのだと解ったので
何回もチャレンジできるように、
そしていろんなタイプの受験ができるように、
それでいて、少しでも魅力のある大学が取れるように
いろんな出願をしてあるのだった。


「滑り止めが無くて、不安じゃなかった?」
と聞くと

「合格しないなら、働けって、言われてました。
国立受かって大学へ行くか、働くか、の二択って訳です。」
という。

彼はウチの事情を全く知らないはずだけど、
(二浪とか、そういうことね。)
現役でダメなら一浪
一浪でダメなら二浪
滑り止めだけでは不安で、滑り止めの滑り止め
などとやっている私達へ
スーパーダメだし
をしているかのようだった。


案内してくれてる大学生の彼は
もちろん前期で合格していた。

学部を聞くと、工学部だと言う。
「あ、ウチも工学部なんですよ。どの科目で受験しました?」
と聞くと
「僕は化学です。この大学の化学は意外と簡単なんで狙い目なんですよ。入ってからいろんな人に聞きたら、化学で受けた人は結構多かったですね。」
と答えてくれた。

ふーん。
国立はセンターが必須だから、
どうせ化学も勉強するしね。

ウチは当然、物理での受験だ。 
イチローがこの大学の物理の過去問をやってみたら
特に難問は出ないし、解けない問題はない。
というので
化学や生物という選択肢がイチローにあるわけではないし、
すんなり物理に決まったけど・・・。

イケメン先生直伝の物理。
計算ミス以外に恐れるものは何もない筈だけど。
工学部でも化学で受験という子が多いのか。
意外だったな。
それまで黙って聞いていたイチローが
突然
「化学が簡単なのか・・・。化学の問題なんか見もしなかったけど、
そういう科目と横並びに、他科目受験も比べられるんなら不利かもしれないな・・・。
偏差値換算してくれるのかなぁ・・・。」
とつぶやいた。


あららら。
まずいぞ。

明日試験なのに、私ったら余計な情報を耳に入れちゃった。
今更ナーバスになっていいわけがなかった。

そうこうしている間に寮の前へ到着した。
これどう見ても、マンションにしか見えないよ。
最近の寮ってやつは。

その数棟の建物はどれも綺麗そうに見えた。(注 外から見ただけです。)
「ここ、安いのよね。」
パンフレットで見た私がそうつぶやくと
「そうなんですよね。僕も申請を出しましたけど、ダメでした。」 
と彼が言った。

「やっぱりそうなんだ。それじゃ民間のところを借りてるのね。場所はどの辺にしましたか?」
と聞いた。
すると
「僕のところは家賃は3万円以下、と親から言われていたので、少し離れたところです。」
という。

「歩いて大学まで来れるところは3万~4万くらいなんですよね。
最初は自転車で通いましたけど、今では原付を使っています。」
原付ねぇ。
「雨の日はどうするんですか?」
と素朴な疑問でたずねると
「雨でも自転車や、原付、同じです。」
とさわやかに言ってのけた。
「ふーん。」
確かにパンフレットを見ると、
大学から10~15分くらい自転車に乗ると、
3万円前後の物件が多かった。
でも大学へは緩やかな坂道なので、行きか帰りかどちらかが
登りだろう。
まあ、10分や15分なら頑張れないことも無いか。
「バイトはしてます?結構バイト先はあるのですか?」
と聞くと
「ええ。僕は家庭教師をしてますけど、結構バイトはありますよ。 大学で斡旋もしてくれます。」
という。

ああよかった。
東京よりもお店も少ないし、バイトも無いかと思ってたけど
結構あるし、みんな一人暮らしと、バイトと、大学を
上手くバランスとってやって行けてるんだな、
と思えた。

仕事つながりで就職の考えについても聞いてみた。
「就職は地元で考えているのですか?それとも、こっちで? あるいは大阪、東京とか・・・。」
彼は
「地元でしたいな、って考えてるんですけどその前に大学院へ行かないと。」
「ああ。院を考えているんですね。」
「そうなんです。僕のやりたい勉強は大学院へ行かないとできないんですよ。」
「へー。そこまで考えての大学進学なんですね。大学院もここのを?それともよそをイメージして?」
「大学院大学へ行きたいと思っているんですよ。」
彼は聞くこと全てに答えてくれた。
そうなんだ。
ちゃんとビジョンがあるんだね。
素晴らしいね。
案内が終わって元の場所に戻ると
「明日、入試の時間に、保護者の方向けにガイダンスがありますのでよかったらご参加ください。」
と誘ってもらった。
私とイチローは、
丁寧に案内してくれた学生さんにお礼を言って別れた。
イチローは
「あの人さ・・・、現役だから、俺より年下なんだよね。」
と言った。
「あ、そうだね。 気にしてなかったけど、そういうことだよね。」
二浪もしてると年下が先輩になったりする。
まあそれはいいけど(笑)。


あどけなさは少し残るものの
随分しっかりしている年下の先輩だったね~。
「すごいね。国立一本だって。『合格しないなら働け』 だってさ。」
とイチローに言うと、
「働くのはいいけどさ、後期試験が終わったら、もうすぐに4月じゃん。そんな時に職さがしてすぐに見つかるのかな?
就職するのって大変なんでしょ?
国立落ちました~、っていう高卒生がそんな時期に仕事にありつけるのかな。」
という。
イチローはイチローなりに
いろいろ考えながら聞いていたようだった。
私は言った。
「良い職は無理だろうね。フリーターになっちゃうよね。それが嫌なら、しっかり勉強しろ、っていう言葉の裏返しよね、きっと。」
イチローは
ふーん
という顔をして聞いていた。


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