③海外で生まれた介護者支援プログラム「START」とは

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③海外で生まれた介護者支援プログラム「START」とは

これまでの記事で、認知症介護では「介護する人」自身の心の健康が見落とされやすいこと、そして「介護うつ」「介護不安」という言葉の意味を整理してきました。


では、介護する人の心を守るために、具体的にどんな方法があるのでしょうか。今回は、これまでの記事でも名前だけ登場してきた、イギリス生まれの介護者支援プログラム「START(スタート)」の中身を、ご紹介していきます。「支える人を支える」という発想が、どのように形になっているのかを見ていきましょう。


STARTとはどんな取り組みか

介護する家族のためのプログラム

STARTは「STrAtegies for RelaTives(家族介護者のための工夫)」の頭文字をとった名前で、イギリスのロンドン大学(UCL)の研究チームが開発した、認知症の家族を介護する人のためのプログラムです(出典:Livingston G, et al. BMJ 2013;347:f6276)。


特徴は、介護される認知症のご本人ではなく、介護する家族そのものを対象にしている点です。介護を続けるなかで生まれるストレスや不安と、どう付き合っていくか。その具体的な「工夫(ストラテジー)」を、専門家とともに学んでいきます。


自宅で、1対1で、無理なく学ぶ

STARTは、全部で8回のセッションから成り立っています。1回あたり約1時間で、原則として介護者の自宅(または希望する場所)を訪ね、1対1で行われます(出典:同上、およびLivingston G, et al. Lancet Psychiatry 2014;1:539-48)。


大人数の集まりに出かけるのではなく、自分の生活の場で、自分のペースで取り組める。介護で家を空けにくい人にも続けやすいよう、配慮された仕組みになっています。各回には宿題のような家庭での実践も組み込まれ、学んだことを冊子に書き込みながら、自分だけの記録として残していきます。


8回のセッションで何を学ぶのか

STARTで実際に扱われる8回の内容は、研究論文に具体的に示されています。順番に見ていきましょう(出典:Livingston G, et al. Lancet Psychiatry 2014;1:539-48)。


第1回は「ストレスと心の健康」。認知症とは何か、介護者にストレスがたまる仕組み、そしてどこに助けを求められるかを学びます。第2回は「行動の理由を考える」。ご本人の言動には理由があると理解することから始めます。第3回は「行動への対応プランを立てる」。困った場面にどう備えるかを具体的に考えます。第4回は「行動への対処と、役に立たない考え方」。自分を追い詰めがちな考え方に気づき、整えていきます。


第5回は「コミュニケーションのとり方」。気持ちを上手に伝える方法を学びます。第6回は「将来に備える」。これから起こりうることや、必要な備えについて考えます。第7回は「楽しい活動と気分の関係」。介護の毎日の中に、小さな楽しみを取り入れる工夫を扱います。そして第8回は「学んだ工夫をこれからに活かす」。それまでに役立った方法を自分で選び、続けていく計画を立てて締めくくります。


そして、すべての回の最後には、リラクゼーションの時間が設けられています。専用の音源を使って体と心をほぐす習慣を、毎回少しずつ身につけていくのです。


なぜこの形が大切にされているのか

STARTが大切にしているのは、専門家が一方的に「こうしなさい」と答えを与えるのではなく、介護者自身が自分に合った工夫を見つけられるよう、伴走するという姿勢です。


研究チームは、プログラムを提供する担当者に対して、解決策を押しつけるのではなく、介護者とともに答えを探すよう促していました(出典:Livingston G, et al. BMJ 2013;347:f6276)。介護の事情は一人ひとり違うからこそ、その人自身が「これなら続けられる」と納得できる方法こそが、長く役立つと考えられているのです。


なお、STARTはイギリスの医療制度の中で開発・実施された研究プログラムであり、日本でそのまま同じ形で受けられるものではありません。法律や制度に関する情報の部分も、イギリスの仕組みに合わせて作られています。ですから「日本でこのプログラムを探す」ためのものというより、「介護する人を支えるには、どんな考え方や工夫が役立つのか」を知るための、参考となる枠組みとして捉えていただくのがよいでしょう。


まとめ ― 「工夫は学べる」という希望

STARTが私たちに教えてくれるのは、介護のストレスへの向き合い方は、生まれ持った性格や根性の問題ではなく、学んで身につけられる「工夫」だということです。

考え方を整える、気持ちを伝える、小さな楽しみを取り入れる、将来に備える——。一つひとつは、特別な人だけができることではありません。次回からは、こうしたSTARTの取り組みが「実際にどれくらい効果があったのか」、研究で分かってきたことを順にご紹介していきます。


※本記事は、海外の研究結果をもとに、一般的な情報をお伝えするものです。介護の負担や心身の不調が続く場合は、お住まいの地域包括支援センターやかかりつけの医療機関にご相談ください。


出典・参考文献

Livingston G, et al. Clinical effectiveness of a manual based coping strategy programme (START, STrAtegies for RelaTives) in promoting the mental health of carers of family members with dementia: pragmatic randomised controlled trial. BMJ 2013;347:f6276.

Livingston G, et al. Long-term clinical and cost-effectiveness of psychological intervention for family carers of people with dementia: a single-blind, randomised, controlled trial. Lancet Psychiatry 2014;1(7):539–548.


監修・著者:早川 直希

所属:大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学

保有資格:内科専門医・神経内科専門医、医学博士

専門分野:認知症、老年医学、脳神経内科学



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