②介護うつ・介護不安とは何か ― 言葉の意味を整理する

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②介護うつ・介護不安とは何か ― 言葉の意味を整理する

前回は、認知症介護では「介護する人」自身の負担が見落とされやすいというお話をしました。今回はそこから一歩進んで、介護する人の心の不調を表す「介護うつ」「介護不安」という言葉について、その意味を整理してみたいと思います。

言葉の意味をきちんと知っておくことは、自分や身近な人の状態を冷静に見つめる助けになります。あいまいなまま不安だけが大きくなるのを防ぐためにも、まずは落ち着いて言葉を整理していきましょう。

「介護うつ」という言葉を正しく知る

正式な病名ではなく、一般的な呼び方

最初に押さえておきたいのは、「介護うつ」という言葉は、医学的な正式の病名ではないという点です。

「介護うつ」は、介護を続けるなかで心身の負担が積み重なり、気分の落ち込みや意欲の低下といった、うつ病に近い状態になることを指して、一般的に使われている呼び方です。新聞や雑誌、介護関連の情報サイトでも広く用いられていますが、病院で診断を受けるときには「うつ病」「抑うつ状態」といった医学用語が使われます。

「気分の落ち込み」と「うつ病」は同じではない

ここで知っておきたいのは、「気分が落ち込んでいる状態」と「うつ病という病気」は、必ずしも同じではないということです。気分の落ち込みは誰にでも起こりますが、それが一日中続き、しかも長く続いて日常生活に支障が出ているときには、うつ病の可能性が考えられます(参考:国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 https://kokoro.ncnp.go.jp/ )。

「介護うつ」という言葉は、こうした状態に介護をきっかけとして陥ることがある、という注意を促すために使われていると理解しておくとよいでしょう。

不安と抑うつ ― 似て非なる二つ

「介護うつ」とあわせて整理しておきたいのが、「不安」と「抑うつ(気分の落ち込み)」の違いです。

「不安」は、これから先に起こるかもしれないことに対する心配やそわそわした感じを指します。「この先ずっと介護が続くのだろうか」「自分が倒れたらどうなるのだろう」といった、将来に向けた気がかりです。一方、「抑うつ」は、気分が沈んで何をしても楽しめない、やる気が出ないといった、今の気持ちの状態を指します。

この二つは別のものですが、介護の場面では重なって現れることがよくあります。実際に、海外で介護者の心の健康を調べた研究でも、不安と抑うつの両方を測ったうえで支援の効果を確認しています(参考:Livingston G, et al. BMJ 2013;347:f6276)。どちらか一方だけでなく、両方に目を向けることが大切だと考えられているのです。

つらさが続くときの考え方と相談先

「病気かどうか」を自分だけで決めなくてよい

ここまで言葉を整理してきましたが、いちばんお伝えしたいのは、「自分が病気かどうか」を一人で判断しようとしなくてよい、ということです。

うつ病をはじめとする心の不調は、血液検査や画像のように、はっきりした数値で白黒がつくものではありません。だからこそ、自分で「これは病気だ」「いや、ただの疲れだ」と決めつける必要はないのです。

気持ちの落ち込みや眠れない日が続く、食欲がわかない、これまで楽しめていたことが楽しめない——。そうした変化が続いていると感じたら、それは「専門家に相談してよいサイン」と受け取ってください。

相談できる窓口を知っておく

相談先としては、精神科や心療内科のほか、お住まいの地域の保健所や精神保健福祉センター、そして介護全般の入り口となる地域包括支援センターがあります(参考:国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」)。

なお、自分の状態をおおまかに振り返る目安として、厚生労働省が紹介している自己記入式のチェック(簡易抑うつ症状尺度など)もあります。ただし、これはあくまで参考であり、診断に代わるものではありません。気になる結果が出た場合も、出なかった場合も、つらさが続くなら専門家に相談するという姿勢が大切です。

まとめ ― 言葉を知ることは、自分を守る第一歩

「介護うつ」「介護不安」という言葉は、介護する人が抱える心の負担に光を当てるために生まれた、いわば気づきのための言葉です。

大切なのは、これらの言葉に過度におびえることでも、逆に軽く見て我慢し続けることでもありません。「こういう状態になることがある」と知っておき、自分や身近な人に変化が見えたときに、落ち着いて相談という行動につなげること。それが、介護を無理なく続けていくための支えになります。

次回は、海外で生まれた介護者支援の取り組み「START」について、その中身を具体的にご紹介していきます。

※本記事は、公的機関および海外の研究結果をもとに、一般的な情報をお伝えするものです。気分の落ち込みや不眠などが続く場合は、一人で抱え込まず、かかりつけの医療機関や地域包括支援センター、お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。

出典・参考文献

国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」
Livingston G, et al. Clinical effectiveness of a manual based coping strategy programme (START, STrAtegies for RelaTives) in promoting the mental health of carers of family members with dementia: pragmatic randomised controlled trial. BMJ 2013;347:f6276.

監修・著者:早川 直希

所属:大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学
保有資格:内科専門医・神経内科専門医、医学博士
専門分野:認知症、老年医学、脳神経内科学


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