認知症発症後の交通事故リスク

テキスト

認知症発症後の交通事故リスク

-保険の落とし穴と道路交通法への実務対応-


本記事で分かること

- 認知症患者の交通事故に対する家族の法的責任

- 認知症に関わる保険問題

- 認知症と道路交通法制度


1.認知症患者の危険行動と「家族の監督責任」

医師による診断がおり、判断能力が著しく低下した「認知症発症後」の段階において、ご家族にとって最も深刻な法的トラブルとなり得るのが本人の危険行動です 。例えば、認知症患者の交通事故や、徘徊による列車遅延・踏切事故などが典型例として挙げられます 。


 認知症の進行により本人に責任能力がないと判断された場合、認知症患者本人は不法行為責任を負いません(民法713条)。そこで、被害者からの損害賠償請求の矛先は、同居する家族などの「法定の監督義務者(民法714条)」に向かうことになります。すなわち、民法は、不法行為を行った本人に責任能力がない場合、法定監督義務者(民法714条1項)又は代理監督者(民法714条2項)が代わりに賠償責任を負うと定めています。また、判例上、準監督義務者も賠償責任を負う場合があるとされています(民法714条1項類推適用)。そして、法定監督義務者等は、「その義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったとき」は免責されますが、この立証責任は法定監督義務者等が負っており、免責は容易に認められないのが現実です。


2.保険は家族を守れるか?

万が一の事故に備え、個人賠償責任保険などの活用が期待されますが、実務上は責任保険の適用においていくつかの高いハードルが存在します 。


 第一に、重過失免責の適否です 。例えば、認知症の親が過去に何度も無断で車を運転しようとした事実があるにもかかわらず、車の鍵を分かりやすい場所に放置していた場合などです。保険会社から「監督義務者(家族)に重大な過失があった」と判断されれば、免責条項に該当し、保険金が一切支払われないリスクがあります。


 第二に、本人自身が事故でケガをした場合の傷害保険の扱いです。徘徊中に転倒して骨折した場合など、認知症は傷害保険の「疾病」か(つまり、病気に起因するケガだから傷害保険の対象外となるのか)、それとも「突発的な外来の事故」なのかという点が法的に激しく争われるケースが少なくありません 。単に「保険に入っているから安心」という認識は非常に危険です。


3.認知症と道路交通法制度

認知症患者の交通事故を防ぐためには、道路交通法制度への理解と、家族の適切な介入が不可欠です 。道路交通法において、認知症と診断された場合は運転免許の取消しまたは停止の事由として明確に定められています(道路交通法103条1項1の2)。


 現在、75歳以上のドライバーは免許更新時に認知機能検査が義務付けられており、「認知症のおそれがある」と判定されると、医師による「臨時適性検査」を受けるか、公安委員会の命令に従い医師の診断書を提出することが求められ、認知症と診断されれば免許は停止又は取消しとされます。しかし、更新時期を待たずに症状が進行し、危険な運転を繰り返すケースも多々あります。


 ご家族としては、認知症の疑いが濃くなった時点でまずは本人のプライドに配慮しつつ「運転免許の自主返納」を促すことが第一歩です。しかし、本人が頑なに返納を拒否し運転を続けようとする場合、そのまま放置すれば万一の事故時に家族の監督責任がより重く問われることになります。説得が困難な場合は、速やかに警察(都道府県公安委員会)の安全運転相談窓口へ相談することや、専門家への相談を視野に入れて検討することが肝要です。


本記事のまとめ

危険行動と監督責任

認知症患者の交通事故等の結果、家族が「監督義務者」として高額な損害賠償責任を問われるリスクがある。


保険問題の落し穴

重過失免責の適否や、認知症は傷害保険の「疾病」かという解釈により、いざという時に保険金が下りない法的リスクが存在する 。


道交法制度と家族の対応

認知症は免許停止又は取消しの対象。自主返納が困難な場合は、家族が専門家に相談することが事故防止と責任回避の鍵となる。


ネクストアクション

ご家族が加入している自動車保険や火災保険の「個人賠償責任特約」の約款を確認し、どのような場合に免責(支払い対象外)となるかを代理店に確認しましょう。


監修・著者:手代木  啓

経歴・実績:弁護士法人大江橋法律事務所パートナー

保有資格:弁護士、NY州弁護士

専門分野:相続、事業承継、M&A、知財、IT


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