レビー小体型認知症を知る~見逃しやすい初期症状と家族ができること~

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レビー小体型認知症を知る~見逃しやすい初期症状と家族ができること~
現代社会において、脳の健康を守ることは「自分らしく生きる時間」を延ばすことと同義です。認知症と聞くと、多くの人が「名前を忘れる」「道に迷う」といったアルツハイマー病のような症状を思い浮かべるかもしれません。
しかし、認知症の中には「記憶障害が目立たない初期症状」から始まるものがあります。それが、国内でアルツハイマー病、脳血管性認知症に次いで多いとされる「レビー小体型認知症(DLB)」です。この病気を正しく理解することは、ご自身やご家族の「異変」にいち早く気づき、適切な対策を講じるための第一歩となります。

1. レビー小体型認知症のメカニズム:脳に現れる「小さな影」

レビー小体型認知症は、脳内に「α-シヌクレイン」という異常なタンパク質が蓄積し、「レビー小体」と呼ばれる塊を形成することで神経細胞が損傷していく進行性の疾患です。

身体と脳を繋ぐ「レビー小体」の影響

この異常タンパク質は、運動機能を司る部位に溜まれば「震え」や「歩行のしづらさ」を引き起こし、視覚を司る部位に影響すれば「幻視」を引き起こします。また、心臓の交感神経にも影響を与えるため、全身の調整機能が乱れることも近年の研究で明らかになっています。

2. 疫学:日本における「第3の認知症」の現状

レビー小体病は、アルツハイマー病、脳血管性認知症と並んで「三大認知症」の一つに数えられます。

有病率:認知症全体の約15〜20%を占めると報告されています。

男女比:男性の方が女性よりも発症しやすい傾向がある点が、アルツハイマー病(女性に多い)との大きな違いです。

見逃されやすさ:初期に記憶障害が目立たないケースが多いため、うつ病やパーキンソン病、あるいは単なる加齢による不調と誤認され、適切な診断にたどり着くまで時間を要するケースが少なくありません。

3. 医療機関受診のタイミング:4つの「核心的症状」

レビー小体病には、アルツハイマー病とは異なる特有のサインがあります。以下の症状が一つでも見られる場合は、専門医(神経内科・精神科)への相談を強く推奨します。

1. 認知機能の変動

「さっきまでハキハキ話していたのに、急にぼーっとして意識が遠のく」といった、頭の冴え具合が日中や日単位で大きく波打つ状態です。

2. ありありとした「幻視」

「そこに子供が座っている」「壁に虫が這っている」など、本人には非常にリアルに見える幻覚が現れます。

3. パーキンソン症状

手が震える、動作が緩慢になる、表情が乏しくなる(仮面様顔貌)、転びやすくなるといった運動障害です。

4. レム睡眠行動異常症

寝ている間に大声で叫んだり、激しく手足を動かして殴るような動作をしたりします。これは発症の数年以上前から現れる重要な前兆サインです。

4. 診断技術の最前線:バイオマーカーによる「精緻化」

かつては「症状からの推測」に頼っていた診断も、現在は客観的な指標(バイオマーカー)で精度が劇的に向上しています。

MIBG心筋シンチグラフィ

心臓の神経(交感神経)の分布を調べる検査です。レビー小体病では心臓の神経が早期からダメージを受けるため、この検査で異常が見られれば、診断の強力な根拠となります。

ダットスキャン(DaTスキャン)

脳内のドパミン神経の脱落を画像化します。パーキンソン症状の原因を視覚的に捉えることが可能です。

MRI検査

アルツハイマー病ほど海馬の萎縮が目立たないことを確認し、他の疾患を除外するために用いられます。

5. 治療とケア:薬剤過敏性への注意

レビー小体病の治療において最も注意すべきなのは、「薬に対する過敏な反応」がある点です。

① 薬物療法

認知機能へのアプローチ:ドネペジル(アリセプト)などの抗コリンエステラーゼ薬が、認知機能の変動や幻視の改善に有効であるとして承認されています。
運動機能へのアプローチ:パーキンソン症状に対してはドパミン製剤が検討されます。

【重要】抗精神病薬への過敏症
幻視を抑えようとして一般的な抗精神病薬を安易に使うと、急激に症状が悪化したり意識障害を起こしたりするリスクがあります。必ず専門医による微調整が必要です。

② 非薬物療法と生活環境

転倒リスクが高いため、室内の段差をなくし、夜間の照明を適切に保つ(影を幻視と見間違えないようにするため)といった環境整備が、本人と家族のQOLを直結して向上させます。

6. 予防:発症を遅らせるための生活習慣

レビー小体病においても、生活習慣の改善は発症リスクを下げ、進行を緩やかにする可能性が示唆されています。

有酸素運動
脳内の神経成長因子を増やし、α-シヌクレインの蓄積を抑制する効果が期待されています。

質の高い睡眠
寝ている間に脳内の老廃物を排出するシステムが働くため、睡眠時無呼吸症候群などの治療は予防に直結します。

社会的交流
脳に多様な刺激を与えることは、認知機能のレジリエンス(回復力)を高めます。

まとめ:正しい知識が「安心」の地図になる

レビー小体病は、その症状の多様さゆえに、本人も周囲も「何が起きているのか分からず」不安に陥りやすい病気です。しかし、「日によって波があるのは病気のせい」「見えている幻覚は脳の誤作動」だと理解するだけで、介護の負担や本人の恐怖心は大きく軽減されます。
「少し様子がおかしいな」と感じたとき、それを加齢のせいにせず、専門医の門を叩いてください。早期の発見と適切な薬剤調整、そして環境の整備こそが、脳の健康を長期的に守るための最強の防衛策なのです。

出典・参考文献

・Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies: Fourth consensus report of the DLB Consortium. (Neurology, 2017).
・厚生労働省. 認知症施策推進大綱. (2019).
・Alpha-synuclein assembly as a therapeutic target of Parkinson's disease and related disorders (Frontiers in Neuroscience, 2022).
・Lewy body dementias. (The Lancet, 2015).
・日本認知症学会. 認知症疾患診療ガイドライン 2017.

著者:早川 直希

経歴・実績:大阪大学 老年・総合内科学
保有資格:内科専門医、神経内科専門医、医学博士
専門分野:認知症、老年医学、脳神経内科学

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