①認知症介護で「介護する人」が見落とされがちな理由

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①認知症介護で「介護する人」が見落とされがちな理由

認知症の話題になると、私たちはどうしても「ご本人をどう支えるか」に目が向きます。もの忘れへの対応、安全の確保、医療やサービスの選び方——。もちろん、どれも大切なことです。


けれども、その陰でもう一人、静かに負担を抱えている人がいます。日々ご本人を支えている家族、つまり「介護する人」自身です。今回はこの最初の記事として、なぜ介護者本人の状態が見落とされやすいのか、そしてそこに目を向けることがなぜ大切なのかを、一緒に考えていきたいと思います。

介護する人にも、負担は静かにたまっていく

終わりの見えない毎日が積み重なる

介護は、ある日突然始まり、終わりの見えないまま続いていくことが少なくありません。食事や入浴の世話、通院の付き添い、夜間の見守り。一つひとつは小さなことでも、積み重なれば心身に確かな疲れとして残ります。


多くの介護者が悩みやストレスを抱えている

実際、国の調査でも、家族を介護している人の多くが日常生活の中で悩みやストレスを抱えていることが示されています。厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成22年)では、同居して主に介護を担う人のうち、悩みやストレスが「ある」と答えた人は60.8%にのぼり、その原因として最も多く挙げられたのが「家族の病気や介護」でした(出典:厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/4-4.html )。半数を超える人が、何らかの負担を感じながら介護を続けているのです。


これは特別な人に起きていることではありません。まじめに、一生懸命に介護をしている人ほど、知らないうちに負担をため込みやすいとも言えます。


なぜ介護者本人は見落とされやすいのか

「自分のことは後回し」になりやすい

介護者本人の状態が見落とされやすい理由の一つは、本人が「自分は元気だ」「弱音を吐いている場合ではない」と感じやすいことです。目の前に支えるべき家族がいると、どうしても自分のことは後回しになります。

周囲の関心も「ご本人」に集まりやすい

もう一つは、周囲からも「ご本人」に関心が集まりやすいことです。診察や相談の場でも、話題の中心は介護される方の症状や生活であり、付き添う家族の心身の状態まで丁寧に尋ねられる機会は、必ずしも多くありません。

こうして、支える人の疲れやつらさは「見えにくいもの」になっていきます。本人も周囲も気づかないうちに、負担だけが静かに積み重なっていく——これが、介護者が見落とされやすい構造です。

海外では「介護者を支える」研究が進んでいる

こうした課題に対し、海外では「介護する家族そのものを支える」という視点からの研究が進められてきました。

その一つに、イギリスで行われた「START(STrAtegies for RelaTives)」という取り組みがあります。これは、認知症の家族を介護する人に向けて、ストレスとの付き合い方や考え方の整理、リラックスの方法などを学んでもらうプログラムです。研究では、こうした支援を受けることで、介護者の不安や気分の落ち込みが和らぐことが報告されています(出典:Livingston G, et al. BMJ 2013;347:f6276)。

注目したいのは、この研究が「介護される人」ではなく「介護する人」の心の健康を主役に据えている点です。支える人が穏やかでいられることは、結果としてご本人にとっても良い環境につながります。介護は、どちらか一方だけを支えれば足りるものではないのです。

なお、STARTはイギリスの医療制度の中で行われた研究であり、日本の介護の仕組みとは前提が異なります。そのまま当てはめられるものではありませんが、「支える人にも支えが必要だ」という考え方そのものは、私たちにとっても大いに参考になるはずです。

まとめ ― 「自分も大切な一人」と気づくことから

今日お伝えしたかったのは、介護される方と同じくらい、介護する方も大切な存在だということです。

もしあなたが今、誰かを介護しているのなら、どうか「自分のことは後回し」と思い込まずにいてください。疲れを感じるのは弱さではなく、ごく自然なことです。そしてその負担は、工夫や支援によって、確かに軽くしていくことができます。

次回からは、介護する人の心をどう守っていくのか、研究で分かってきたことや、日本で利用できる支援を、一つずつ丁寧にご紹介していきます。まずは「自分も支えられてよい一人なのだ」と気づくこと。そこが、無理なく介護を続けていくための、大切な第一歩になります。

※本記事は、厚生労働省の統計および海外の研究結果をもとに、一般的な情報をお伝えするものです。心身の不調が続く場合は、お住まいの地域包括支援センターやかかりつけの医療機関にご相談ください。

出典・参考文献

厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査の概況」

Livingston G, et al. Clinical effectiveness of a manual based coping strategy programme (START, STrAtegies for RelaTives) in promoting the mental health of carers of family members with dementia: pragmatic randomised controlled trial. BMJ 2013;347:f6276.

監修・著者:早川 直希

所属:大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学
保有資格:内科専門医・神経内科専門医、医学博士
専門分野:認知症、老年医学、脳神経内科学


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