認知症の疑いのある時期における消費者被害と契約リスク

テキスト

認知症の疑いのある時期における消費者被害と契約リスク

-法律の限界と「ラストチャンス」での備え-


本記事で分かること

- 認知症疑い時期における消費者被害と「特定商取引法」に基づく対応

- 消費者契約法や民法に基づく契約の解除等の方法

- 法的な対策を行うラストチャンス


1.認知症の疑いのある時期における消費者被害と特商法

ご家族やご本人にて「年相応の物忘れが増えた、少し以前と様子が違うかも」と感じることがあるかもしれません 。この段階では、まだ基本的な判断能力はあり、法的な契約行為も可能なことが多いため、ご本人も周囲も危機感を抱きにくい傾向があります 。しかし、この時期は悪質商法や詐欺のターゲットになりやすく、資産流出リスクへの防御が非常に重要になります 。

 例えば、訪問販売による高額な屋根リフォームや、電話勧誘による健康食品の定期購入などの消費者被害に遭った場合、早期に気づくことができれば「特定商取引法」に基づくクーリング・オフが強力な武器となります。法定の契約書面を受け取ってから一定期間内であれば、本人の判断能力の程度にかかわらず、無条件で契約を解除できるからです。契約書面を受け取ってからクーリングオフできる期間は、訪問販売、電話勧誘販売などでは8日間、連鎖販売取引(マルチ商法)であれば20日間となります。このようにクーリング・オフには期限があるからこそ、見慣れない段ボールや契約書といったSOSサインの早期発見が決定的な意味を持ちます 。なお、訪問販売等であってもクーリング・オフできないものもあります(特商法26条4項・5項)ので、契約の際には十分な注意を要します


2.クーリングオフ期間経過後の契約の解除等

問題は、家族が被害に気づくのが遅れ、クーリング・オフ期間が過ぎてしまった場合です。この場合、「消費者契約法」を用いて契約の取り消しを目指すことになります。例えば、業者が長時間の勧誘で困惑させた場合(退去妨害や不退去など)(消費者契約法4条3項)や、日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品を買わされた場合(同法4条4項)には契約を取消すことができます。

  

 しかし、これらの要件を満たさない場合や証拠が不十分な場合、最終的には契約の有効性を根底から争うため、民法上の「意思無能力による無効」(民法3条の2)を主張することになります 。ところが、未だ認知症の「疑い」があるに過ぎない段階では日常会話が成立することも多く、「契約当時に、自身の行為の結果を判断できる意思能力が無かった」と法的に立証するのは極めて困難であることは実務上ままあります 。事業者が「契約時はご自身で署名し、しっかり理解されていた」と主張すれば、多額の資産流出を止められない事態になりかねません。


3.対策を行う「ラストチャンス」と家族の関わり

事後的な契約の取消しが法的に高いハードルとなる可能性があることを踏まえると、被害を未然に防ぐ予防策こそが最良の防御策となります。


 もしご実家で家族の異変に気づいたとしても、頭ごなしに責めるのは禁物です。ご本人のプライドと拒絶のマネージメントに配慮し、寄り添う姿勢を見せなければ、さらなる隠蔽や受診拒否を引き起こしかねません 。


 認知症疑いの時期は、単に被害を防ぐだけでなく、今後の財産管理に向けた法的な備えをご本人自身の意思で行うことができる「対策を行うラストチャンス」でもあります 。受診拒否へのアプローチを慎重に行い 、現時点での「意思能力の証拠化」をしておくことが 、将来の紛争を防ぎ、ご家族を守る強力な盾となります。


本記事のまとめ

認知症疑い時期のクーリング・オフ

訪問販売等による被害は、早期に発見できればクーリング・オフ(特商法)による無条件解除が有効。


消費者契約・民法による契約解除等

クーリング・オフ期間経過後は消費者契約法に基づく契約取消しや「意思無能力」での契約無効を主張することになるが、その立証ハードルは高いことが多い。


対策を行うラストチャンス

資産流出を防ぎ、将来の財産管理の備えを行うためには、本人の尊厳に配慮しながら意思能力の証拠化を行う必要があり、認知症「疑い」の時期がこのような対策を行う最終的な期間である 。


ネクストアクション

推奨行動

ご実家を訪問した際やご家族に連絡を取る際、不自然な段ボール箱や見慣れない契約書類がないか確認し、SOSサインの早期発見に努めましょう 。


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MEDICOG-LINKでのセミナー受講にて、認知症疑いのご家族が消費者被害に遭われた場合の実務的な対応策や、高齢者の自尊心と受診拒絶へのマネージメント方法について知識を得ることができます。


監修・著者:手代木 啓

経歴・実績:弁護士法人大江橋法律事務所パートナー

保有資格:弁護士、NY州弁護士

専門分野:相続、事業承継、M&A、知財、IT


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